4 確かにキレると怖いが、それ以上に怖い何かが有る様です(19/2/25改稿)
読者の皆様どうもこんばんは。今週の不憫をどぞ!
契約直後瞬く間もなく魔王から裏稼業へ(格好だけ)ダイナミック転職したオッサンは、即行で放逐することに。肝が冷える余裕もなく、世界から抹消される危機感のみで行動したのである。
あれはきっと、魔王と書いて危険物と読む何かだったのだろう(達観)
大体、ここは控えめに言っても人外マ境の森中なのだ。神●町とか大阪みな●周辺に出没しそうな破落戸ファッションの中で、何故よりにもよって蛇革スーツを半裸で着たのか。肌色露出率約30%は流石に不用心すぎる気がする。確かにあの格好着こなせば凄いと思うが。
もしやMなのだろうか、あのナリで。或いは何かの修行(?)のつもりで蚊達磨希望か。煩悩退散的な。
けど、とりあえず一旦視界から遠ざけたので今は安全。そのうち世界が勝手に判断して私の預かり知らぬところで勝手に消してくれるだろう(希望的観測)
飛ばす場所はなるべく人類生存圏外したから被害は出ないだろう(と思いたい)。それに契約に伴い少しは力が削がれている(はず)。削れているよね?
さて、そろそろ現実に戻ろう。この辛い現実に。
今目の前にある、最大級の問題に。
「…………(真っ青)」ゴゴゴゴゴ、ガコン
魔王と入れ替わりで召喚した奴は、性格的にはそれほど問題になっていない契約霊?魔獣?だった。人類とギリギリ共存できない感じだが、本獣にはそれほど問題はない。
ただ、規模と性質がちょっとアレなだけだ。
GRU?
つぶらな瞳でこちらを見つめる召喚獣。黒くて丸いお目目は優しい光を宿している。
しっとりした外皮には光沢があり、陽光に当てられて白く輝いている。だがその表面には白だけでなく黒い斑点のような文様がある。曰く、個体によって違うらしく、自分はハンサムな方なのだとか。
そして彼から流れる黒い激流。
荒々しい暴風はまるで野分。水しぶきを上げてあっという間に辺りを蹂躙していく。青々していた樹海は消え失せ、今や山肌どころか山自体が消えてしまっていた。
「……地形って簡単に変わるものなのか。」
自分で何を言っているのかわからないが、どうやら異世界では常識らしい(かなり混乱している)。ありえないと一笑したいところだが、現実らしい。今まさに顔に掛かった飛沫が塩っぽく、頰をひねってみるとちゃんと痛い。
そうか、これ夢じゃないのか……転生して早4年で地形変えたことは。
自分の(普段は)可愛い従魔『海坊主』の視線を受けながら、暫し思考停止に陥っていた。
言い訳をさせてもらうならば、まさかこんな展開になる何て予測出来る筈も無かった。まさか咄嗟に行ったランダム召喚替えの結果、魔王の代わりに『海坊主』が出てくるとは思わなかったのだ。
もっとこう、私と契約している別の幽霊が出てくると思っていた。
例えば先日(恫喝されて)契約した幽霊船『ジャクソン号』クルー全員とか、親父関係で(無理やり)契約した英霊とか。或いは気づいたら(強制的に)契約していた新旧スタンピード犠牲者の群霊等。そいつらだったらどれほどマシな状況になっていただろうか。
少なくとも、山一つが犠牲になることはなかっただろう。そう思うとなんだか申し訳ない気がしてきた。
こうして一旦危険は去ったが、めでたしめでたしでは終わらなかった。今度は別の脅威が来て、山一つ消しとばした。挙句、山跡地の盆地へ海坊主から発生した暴風と水が溢れ、さっき溺れ掛けあわやこれまでかと思った。
無事、救助された私を申し訳なさそうに見つめる黒い瞳。ボーッとしていたら、ウルウルと潤み出した。そして、今泣かれたら一気に水位が上がってまた沈没することになる。
「いや、もう大丈夫ありがとう。」
わざわざ来てもらって悪いけど早々にお帰り下さい。お願いします。
もう大丈夫なのか兄貴などと心配そうに尋ねてくる海坊主へ、大丈夫助かった、またよろしくと伝える。何度か繰り返すとなんとか納得して帰ってくれた。よしこれで水位はもう上がらないな。
危なかった……次呼び出すのはちゃんと海にしよう。
(※海坊主は存在するだけで水位が上がります。)
それにしてもおかしい。私の記憶違いでなければ契約時の海坊主はバレーボール大で常識のある臆病な奴だったのだが。もしや親父だろうか……修行のため一旦海へ勝手に投げ入れたと事後報告されたが。
それしか心当たりがないので、それが原因か。
きっと苦労したのだろう。よく頑張った。青き海の荒波に揉まれてきっと一人前になったのだろう。さっきも、兄貴のために縄張り広げやした、とか、兄貴へ毎月『ショバ代』届けさせていやすが満足頂けていやすか等、色々お話し頂いた。
口調が変わっていたことは一旦置いておくとして、毎月送られて来ていた海鮮系の食品・素材等の出処知って唖然としている。配下にあまり無茶させてないといいが……
そして、今回のことを受けて親父へ文句を言うことにした。勝手に人の契約霊へ修行と称して修羅場に投げ入れる行為に関しては少なくとも慎んでもらおう。同時にあの妙な言葉遣いや思考、親父の関係者の誰かは特定した。親父共々後でお話しせねば(使命感)
けど、今はとりあえずここから逃げよう。万が一こんな被害をもたらした奴だと誰かにばれればきっと社会的に死んでしまう。
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山の跡地に出来た巨大な湖を避けるように、親父の気配を感じた方向へと向かう事にした。
合流できなきゃ説教も出来ない。
そして何度か戦闘を経て、相変わらず1人で進んでいる。途中、何度かレベルアップ音と同時に不穏かつ物騒な称号・技の修得記録が出た。尚、名前だけで心が折れたので詳細に関してはもう見ないことにした。
……ただモフモフやツルツルと戯れたいだけだったのに随分遠くまで来てしまった、私は一体どうなるのだろう。思わず遠い目になった。
気を取り直して。しかしこう、スキルと称号いつの間にか増えたせいで見えにくい。戦闘中とかログが出てくるたびに視界が遮られ、ファンファーレも周囲の音との兼ね合いで邪魔になる。
何よりも、ステータスは開いて以来ずっと開きっぱなしで戦闘以前に前方不注意に陥らないか毎回ヒヤヒヤしていた。
この状況、なんとかならないものか……一層、よくある『非表示モード』に出来ないだろうか。どうせ称号も技術も視覚化しなくても使う場面で使うだろうし。
思い立ったら吉日と試した結果、あっさり出来た。
良かったので喜ぶべきだと思うが、素直に喜べない……今までの苦労って一体何だったのだろうか。骨折り損のくたびれもうけというか、徒労というか……色々崩れ落ちそうになる。
なんで気づかなかったか。
そこで何故か一瞬浮かんだのは、私を転生させた黒い管理者。奴のプギャーと指をさして笑い転げる姿だった。その上今まで気づかなかったとか頭大丈夫等、散々な言われ様。私の妄想が作り上げているのか、本当に笑われているのか。
だが、無駄な事に長年悩んでいた挙句この罵詈雑言。この気持ちを我慢するのは何だか体に悪そうだ。
ならば、何処かにぶつければ良い。そうだ、そうしよう、そうしてしまえ。
さてどうしてくれよう。
そのタイミングで蟲の大群が横切る……ブーンと凄まじい音と異臭を撒き散らしながら。そうして蹂躙され、破壊される大自然。
尚、追われているのは2頭の小鬼。全裸等の格好からして多分理性がない魔物の方だろう。理性ある魔人族の小鬼ならばこんな場所にいるはずがない。奴らはむしろ狩る側なのだから。
いつだって弱者は淘汰されるもの。
だが次の瞬間、近寄ってきた蟲の矛先が何故か私へと変わった。まるでこちらを侮るかの様にブンブン鳴らす羽音。そしてゲヒヒとこちらを見て笑う小鬼。
蟲は小物だったので、とりあえず火炎放射で消毒した。そして唖然とその様子を眺める小鬼は足が止まっており、やはり阿呆だとしか思えなかった。
だが成る程。確かに弱者にこうも虚仮にされると腹立たしい気持ちになることは理解した。RPG等におけるボスや裏ボスが毎度怒っているのも、自分より遥かに弱小な主人公勢に御都合主義で倒されるからなのか(※違います)
その気持ち、十分理解した。
だから、少しくらい八つ当たりしてもいいよね?
「……メテオ」
以前開発して親父から危険と封印されていた魔術式。
効果は簡単で、惑星を包む大気圏や惑星外の塵を強引に集めて隕石にする術式。親父には無理だったが私にとっては過程を想像しやすい術式。ゆえに、一言で展開できる簡単魔術式。
突如空は明るくなり、次の瞬間天上から墜ちる一筋の炎。
チュドーンメキメキメキ……
大地を砕き焼いてゆく炎。舐める様に森は無くなっていく。火炎放射で運良く死なずに逃げ出した蟲共は全滅し、蟲の襲撃にあやかろうとしていた魔物もついでに掃除した。
そこで思った……何これ気持ちいい、と。
「メテオ、メテオ、メテオ、メテオ、メテオ…」ドガガガガガ
それから数分、気づいたら溶岩に囲まれていた。地面がめくれ、炎が吹いている。まるで太陽の表面だ。だというのに何故か少し熱い程度にしか感じない謎現象が起こっている。
だがそんなことは知らん。
まだまだいけそうだ。だから者共私の八つ当たりに付き合え、アハハハハハ。
「メテオ、メテオ、メテオ、メテオ、メテオ…」ドガガガガガ
……………
〈……イ、ライ、おいライ!〉
ん?
私は一体何を……というか、何故親父?
周囲を見回すと、固まったばかりの岩盤ができていた。まだ表面は熱を帯びているらしく、煙が上がっている。尚、最後の記憶にあったはずの魔物や小鬼は完全に消滅していた。
どころか、山がまた1つお釈迦になった。
そこで気づいたのは、自分がまたもや盛大な環境破壊を無意識の内にやらかしてしまったらしいという事実。私は一体何を目指しているのか(混乱中)
〈…ライ、ここで一体何をしたんだ?〉
「……殲滅、だったと思う?」
ごめんなさい嘘です。八つ当たりしていたはずが気づいたら地形替えていました。
親父はどうやら私しか知らない術式に派手な効果を表す魔術式を頼りに私を見つけたらしい。
そして現在、私は正座で説教される事になった。
急に逸れたら危険だの、過度な環境破壊は生態系に悪影響及ぼす等色々。ガミガミネチネチ永遠と文句を言われている。
後悔も反省もあるが、解せない。
迷子は私が原因ではない。そもそもメテオの発端となった混乱状態も親父が海坊主をあんなエクストリーム海坊主にしていなければ発生しなかった(筈だ)。
そして解放された後、不穏な気配を感じた。親父は臨戦態勢を取ってぴりぴりした空気を醸し出した。
一方で、私は思わず顔をしかめていた……おかしい。『チェンジ』でちゃんと放逐されていた筈なのに。
上を見上げると、奴が見える。ストレスの元凶が真っ直ぐこちらを目指して飛んで来る奴の姿が。眼帯ヘビ皮スーツ姿で、匕首片手に狂気に満ちた表情。
「ラ〜イちゃん、遊「最後まで言わせんからな、バリア。」グベラ……」
某有名な台詞を咄嗟に遮り、バリアを進行方向に設置。案の定バリアは割れたが相手にダメージ。顔面衝突したせいか、白目を剥いて舌を出したままビクンビクンと痙攣していた。
正直直視したくない程度に気色悪い。
親父も同様の感想を抱いたらしく、嫌そうな顔をしながらこちらへ振り返った。
〈……コイツは一体何者だ?〉
正直もう黒歴史同然なので答えたくないが、答えねば。
「……ストー、ではなく成り行きで契約した新しく師範担ってくれる奴。次いでに昔魔王とかやっていたらしい。」
〈そうか、そうか。新しく契約した師範……いやいやちょっと待て!何か不穏な役職名を聞いた気がしたのだが!?〉
サラッと伝えればスルーしてくれないかと思っていたが、甘かったか。
「……45代魔王やっていた過去があるらしい。」
その後、再びぶち切れた親父。魔王共々長時間に及ぶ説教を正座状態で受ける事になった。親父が今回怒ったのは、主に魔王と契約することの危険性と世界の理に触れることの危険性についてだった。
私へは魔王を起こすことで予測される被害と、手当たり次第契約することへの危険性。
特に、契約で相手側の力量次第で私の記憶を覗くことが可能になるらしく、別の理でもってこの世界の理を侵害する危険があることを改めて説いた。今後もプチっとされないよう注意しておこう。
そしてさっそくやらかした魔王へは、私の知識を基とした『別世界の理』使用の危険性について。親父も詳しく知らないらしいが、過去の記録によれば研究者が存在ごと突然消滅する事故が起こったらしい。ナニソレコワイ。
そうして説教が終わる頃には足が痺れて感覚がなくなっていた。
迷子の一件からして親父が全て元凶だと思うのだが、心配掛けたこともこの世界の常識が欠如しているのも事実。気持ち的にモヤモヤするが、ここは一応真面目に反省しておこう。
〈それでライ、これから魔王はどうする気だ?〉
コソコソ聞いてくる親父。ヒソヒソと答える私。
「修行に付き合ってもらうつもり……アレでも一応魔王だったし強いだろうから」
一応魔王って言われた(がーん)
そう呟きフラフラ体育座りして小さくなった魔王。
というか、モフモフでないのが非常に残念である。獣系の魔王様も歴代にいたはずなんだが。確かケルベロスとか灰色狼系だっただろうか。
それ以外にもドラゴン系もいたはず。あのメタリックな外装は至高である。是非磨いて鑑賞したいものである。
せっかくファンタジー世界に来たのに未だ生きたファンタジー生物には遭遇できていない謎(スタンピード? 知らない子です)
だから、魔王も変身でるって期待していたのである……残念だ。
〈ライ、お前本当に容赦ないな……〉
もうやめたげて、魔王のライフは0よ。
そんな親父の声にはっとする。
どうやら私の心の声が漏れていたらしい。
ぶすくれてそっぽ向く魔王。目を向けるとプイッと顔をそらし頰を膨らましていた。いいもん、どうせい一応魔王なんだしなどと呟きながら。
別にいいもん(ぐすん)と呟く魔王。チラ見する魔王。
盛大に拗ねてしまった。お子様か。
そして外見はヤの世界で十分通用する強面のオッサン。可愛くない通り越して若干怖い感じである。親父がさっきから目線でフォローしろと指示してくるのもそれが理由か。
元は私のうっかりのせいだ……仕方がない、面倒だがご機嫌とるか。
「尾行・暗殺技術って凄いと思う。」
「よし、明日から鍛えてやるんだからな!」
単純だった。お子様か(二度目)
魔王って案外可愛気のある御馬鹿系ツンデレだったらしい。
こう、もっと威厳があったりする性格だと思っていたのだが違った。見た目厳つい大人だが、心は永遠の小中学生とかか。
私の中での魔王のイメージは、ガラガラ崩れ落ちた。
〈……知りたくなかった。〉
私の横で崩れ落ちる親父。実は隠れ魔王ファンだった親父(敵側だったのに)
歴史家とか考古学者が知ったらどうなるか。外見や喋り方のギャップが凄すぎて発狂する未来しか浮かばない。
そんなことを想像していたら、魔王の拳が飛んできた。今不穏なこと考えていたなと。
避けられず殴り飛ばされながら、お馬鹿だから妙な勘が働くのかと後悔した。次は魔王から遠く離れて感知されないところでイロイロ考えよう。
尚、魔王は話し出すと思ったより口調も気さくだった。初対面のあの尊大な喋り方は本人の努力で作ったイメージなんだとか。それより私の知識から抜粋した『最近の喋り方』に合わせなければと悩んでいた。
そして、時代遅れ気味の言葉を使おうとしたので見かねて止めた。一体何を以って『最近』を指すのか、魔王の基準は謎だった。
魔王の一言で、魔王が初対面に馬鹿丁寧な対応をする姿を想像していたら親父もろとも殴られた。あの魔王が丁寧語になったらかなり胡散臭いとか考えてしまったので甘んじて受け入れた。
「それにしても、ライのその服装はどうにかならないのか?」
突然魔王から装備や衣服について非難された。だから私も魔王のスーツ姿について指摘した。ここは森なのでTPO的に合わないと。
すると、魔王は流行りなのだろう? などと反論してきた。
予想外な返答へ固まる私と親父。この世界でも前の世界でも蛇皮スーツ着ている人見たことないが。
どうもあの魔王の格好は、契約時私の記憶から読み取ったらしい。
私自身あの格好があのキャラと似合っていると感じていたがため(かっこいいと一瞬思ってしまった)魔王に見せてしまったか。そして結論から言うなら魔王には似合う。似合いすぎて怖くなる程度に。
そう指摘するも、既にお気に入りで変更する気がないと言った。
親父が特に世界の意思に反する危険性について説いたが、最終的に何か起きてから考えようということになった。世界の理からも今は特にリアクションないので、たぶんいいのだろう。それでいいのか。
そして今、魔王へ服装について指摘したのは藪蛇だったことに気づいた。後の祭り。
「勿体無い……これ程面白い知識を持っているのに何故自分に活かせない。」
〈そう言えば気付かなかったが、確かにこれは無い。〉
突如参戦してサラッと責任転嫁する親父。
今着用している服は全て親父のデザインで親父作。親父は幽霊なので服装は変わらないか幽霊との取引で得られるからいい。だが、私は生物なので人間相手に取引するか自分で作るしかない。そして素材や道具の揃わない現状。第一村人にも遭遇していないのだから仕方がない。
そんな中、貴族出身でテーラーの仕事など知らない親父と地球出身で服は買うものだった私。まして、子供の私に服を一から作るのは無理だった。物理的に皮を剥いだり加工したりするのに、筋力とか握力とか身長が足りなかったのだった。
だから泣く泣くセンス皆無などこかの親父に頼んだというのに……堂々と此方のせいにする辺り正に外道、正に鬼畜。流石社交界で『陰険』の2つ名を現役時代取得しただけの事はある。
まあでも確かに自分でも無いとは思っていた。ただ、便利なのと誰も見ていないので全く気にならなかったというのが真相だったりした。
「ふむ、灰色の下着とスボンは少し薄汚れているがまだよいとしよう……だが型はどうにかならなかったのか?」
「そもそも見本が無い。」
ここは森、人が居ない人外マ境。第一村人すら存在しないのである。そして知識は多少あっても服を素材から作った事は前世に無かった。
それから念のため。下着とはパンツとシャツ等の肌着の事ではなく鎧等の下に着る服の事である。少なくともボロボロな肌着のことを指しているわけではない。したがって、露出はしていないので悪しからず。
実際、頻繁に洗濯出来る環境ではない訳でとても見苦しいというか……後は察してくれ。
「上着のこの色使いは正直に言わせてもらうが悪趣味だ。なぜこの色にした?」
「染料が無いから性能で素材を選んだ。」
唯一知っている山葡萄は色が派手すぎるので、隠遁には不向きだった。親父がそう伝える。
「なら責めてキーヌ草を使用すれば良かろう。知識にあったえっと……『迷彩』だったな。それに近い色合いになるであろう。」
キーヌ草は苦みの強い何処にでも生えている雑草である。独特な色素を気にしなければ消毒兼絆創膏代わりに使用出来る……成る程、あの草の色素染料につかう用のものだったのか。
また1つ賢くなった。
「じゃあやってみるか。」
修行の前に装備を整える為、魔王と共にそういった細かい作業をするのであった。完成品はまあ、中々な出来であったと言っておく。ハプニングは色々有ったがこれだけでも嬉しい誤算だった。
だがこの日、1つだけ悪い方の誤算が有った。
〈皆忙しそうだったから飯作ったぞ。〉
「………」
無言で逃げようとする私は首根っこを掴まれ、強制的に席に着かされた。何も知らない魔王は自発的に席に着く。何故かルンルンした様子で。
「……楽しそうだな。」
「ああ、久々の飯が上手かったからな。別にお前は褒めていないが。」
安定のツンデレ、誰得。
だが事実、お昼は私担当したので確かに美味しかったのだろう。
献立内容鴨肉の薫製木の実和えと岩茸(異世界茸の一種)のスープ、それと数日前自分用に焼いた保存用のパン。嗚呼ここに醤油と味噌、米が……等と贅沢な事を考えながら作った。
その罰がこんな形でくるとは、ゴフッ
「お前の育て親はさぞ、料理の腕が良いのであろうな。」
いえいえ、それ程でも……期待したら地獄見るぞ、心でそう呟く。
〈待たせた、取り敢えず喰え!〉
なにこれ。
紫煙を上げるマグマを彷彿とさせる色のスープ。温め直すだけだった筈のパンは何故か黒く炭化しており、付け合わせと思しきものは灰色のソースの掛かったパステルカラーをした四角い物体だった。
もう色や形からして食べ物か疑わしい……ほんとうになにこれ。
だがキラキラした目で見つめる親父の手前、食べない訳にも行かない。
勇気を出して一口、ライ君逝っきまぁす。
・・・・・・・・・・・・・・
〈…イ…ライ…ライ、大丈夫か?意識戻ったな!〉
ん?
今、何が……確か大河川の向こう側にいた貴族っぽい爺さんに『来るのが早いは、この親不孝者!』と蹴飛ばされた。記憶に残る程見事な禿げ散らかし具合だったので間違いない。
それにしてもあれは明らかに渡っちゃ駄目な河川だった……私の身に一体何があったというのか。
思い出そうとしたら頭痛がした。何だかとんでもない出来事があった気がした。そしてこれは思い出してはいけない事のような気がした。
しきりに悪かったと謝罪する親父と其の横で泡を吹いて白目をむいている魔王。カオス。
私の与り知らぬ所で本当、一体何があった。
幽霊は味覚あるのでしょうかね。某英国魔法学校の幽霊はハロウィンでゲテモノ料理出していましたけど。
それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します。




