55 このテンションで戦争を止めに行くらしい
読者の皆様どうもこんばんは。
さて、今週の不憫第一弾をどぞ!
親父との話で大体事情はわかったが、いくつか分からない点があったので質問した。
「で、詐欺師の言っていた『不老不死』は王様一体どうしたの?」
「ああそれについてだが…どうも、感染源が不老不死に自分がなったのだと主張したそうだ。それが当時の記録にはっきりと書かれていた。」
余談だが、この記録に関しては親父が奪取したので残っていないそうだ。というのも、どうせ記録ごとこの国を消すだろうと親父が判断したらしく、囚われた部下数名を殺しに行ったついでに世界から凍結されていなかった収納ポーチに回収したらしい。
そして、現在私を拾って悪称号が緩和された結果凍結が解かれつつあったので今回使えたと…実物を見せてもらったが、失われた言語で書いてあったので読めなかった。親父に後で勉強追加されたことは言うまでもない。
「もう一つ気になったのことだが、今回そんなのが沸いてきたってことは…」
「まあ十中八九あの頃のミスティフコッカスが復活したか別の場所からもたらされたか…まあ前者の可能性が非常に高いな。随分学習したようでやり口が巧妙だし。」
数日前商人が持ってきたある術式の描かれた腕輪らしきブツ。それをハンカチで包んだまま取り出して親父が見せる。
そこには、私では現在読めないダンガローダの文字が書かれていた。
「ここに書かれていることは、まあ簡単に言えば『魂を寄越せ』っていうふざけた命令文だ。普通の金属に描かれていた場合魔力でも通さなければ多分起動はしなかったのだろうが…」
この金属には魔金属が含まれている、と。
「ほんのちょびっとでもいいんだよ、それだけでまあ身につけると見事魂を持って行かれる仕組みになっている…一気にってわけではないが、な。」
むしろその方がタチ悪いと私は思った。だってそれはつまり気づいた頃には魂がすっからかんってことだろう?それも、徐々に減って行くわけだから周囲には気付かれることもない。
ゆえに、変異の発見も遅れるわけだ。
「他、なんかあるか?」
なら遠慮せず最後の質問。
「親父…親父はさ、少しだけ疑問に思ったんだが。」
“本当に部下全員、殺したの?”
親父はついぞその質問には答えなかった。そして、それがおそらく回答であり、今回の事件に関する答えにつながるのだろう。
そうこの頃、私は思っていた。
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準備期間として設けた3日は終わり、裏ギルド内部の会議室へギルマスの要望通り集まった。
今回の依頼に関しては危険度も時間のなさも相当なものなので、ギルマス自身も動くそうだ。ついては、途中まで一緒に行って国境で別れる手筈になっている。それまでの道のりは、レミィリアさんが誘導してくれると言っていた。
どうやら単なる中二病ではなかったらしい。昔冒険者をしていたとのことなので、詳しくは不明であるが何かしらの特殊技能は持っているのだろう。でなければ生き残れまい。
それにしても前年度の依頼で収納袋を大量に奪…もらえてよかった。どこの誰だったかは忘れたが、とりあえず感謝している。
前回私が家を留守にした際食中毒事件が起こったので、今回は再発防止のためにも調理済みのものを全て術式コピーして作った保管庫に入れてきた。種類も量も十分なはずなので、想定外のトラブルでもなければまあ生きられるだろう。
最悪庭師アンドレイさんに無茶言って素材分けてもらえば何とか餓死せずに済むだろう。それに半獣族も狩猟が得意なことだけあって肉を捌くまではできる。あくまで捌くまでは。
…よく焼きにしないせいで食中毒を軽く引き起こしたのは今年の春だったし、もう大丈夫だろう。
うん、私はちゃんと言った。火を通せと。もしくは塩漬けにしてカラカラになるまで干せと。そしてそれも無理ならせめて、せめて加圧して薬味と調味料加えてタルタルにしろと。
…なんだか不安になってきたが、一度は信じてみよう。というか、ディエゴさんに頑張ってもらうしかないか。
そして顔合わせをしていたらやはりというべきか、ギルマスから待ったがかかった。
「ライくん、背後…というより足元に隠しているようだけど、アタシ程度の実力があればバレバレよ?」
冒険者姿をしているのに相変わらずオカマ口調なギルマスに鳥肌を立てつつ、まあそうなるよなとジト目で潜むものを見つめる。十中八九わざと悟らせやがったなと。
影からニュルリと青っぽい髪が現れ、そのまま体もニョクニョクと出てきた…登場の仕方が相変わらず今一つというよりなんというか、センスを疑う。魔王の真似をしているらしいがなぜか効果音諸々気色悪い。
魔王も性格の残念さは大概だが、最近親父もいろいろと大概な気がしてきた…いや、前からか。
『俺、登場』的にポーズを取るも、エリスさんにダッサと爆笑されて床にノの字を書きながらうなだれる親父。現役時代の黒歴史に加えて新たな黒歴史を順調に構築していた。
人とは結局三つ子の魂百までなのだろう。親父もまた百超えてなお厨二が治らないのだから。
というか、すでに人ですらなかった。
「ライちゃんの親父さん、いくら心配だからってついてきてはダメよ?」
背後霊のごとく(実際そうだが)私へ張り付いたままの親父へ溜息をつきながら指摘するギルマス。ごもっともですと私も言いたいところだが、今回に関しては実を言うと私も納得している。だから、なんとも言えない。
「いや、今回は俺もライの付き添い…というよりけじめをつけに行くだけだ。」
先ほどと違い、真面目な顔でそう伝える親父。床へうなだれた際ついたらしいホコリがいろいろと台無しにしている。
そんな親父の返事にギルマスは増々困惑した表情を浮かべた。
そらそうだろう。いうなれば、同学年の不良グループが隣接する学校へ喧嘩を売りに行こうとしたところで別学年のほぼ接点ない強者がグループ内に親戚がいるからといって無理矢理参加させろやと、脅してくるようなものだ。
ついでに例え話で登場した不良は前世の私が友人とともに美味しく(財布とか諸々)頂きました。碌でもないトラブルばかりもたらす友人だったが、たまにはいいことに巻き込んでくれたものだ。そのおかげで相手からわざわざがねぎと土鍋と白滝背負って向かって来る相手には恵まれていた。だから本当…いろいろとごちです。
一方のエリスさんと変態トパーズさんは、むしろメンバーが増えることで依頼達成の確率が上がると喜んでいた。
ギルマスが渋るのにはおそらく今回の事件の理由を知っているからだろう。例えば、魂が抜けたとかそう言った…魔王が言っていた諜報部隊か何かだろうか?まあ、我が家に関しては破れなかったらしいが。
さて、今は時間が惜しい。
「親父はリスクについて十分承知している…だから用件が済んだらすぐ家に帰らせるし最悪私の中に潜り込ませればなんとかなるだろう。だから頼む…」
「俺も邪魔はしない、だから…」
渋々とギルマスは折れてくれた。
ただ、危険を感じたらさっさと逃げることと念のため移転クリスタルを持っていくことを条件とした。移転クリスタルは簡単にいうと、惑星の裏側だろうがどこだろうが水晶へ指定した場所へ移転してくれる便利アイテムのことである。
もちろん結構な値段するが、親父の場合は魔王の作ったお手製アイテムがあるのでまあ問題はない…それ以前に親父自身が作れる。
「じゃあま、戦争止めに行ってきます。無理だったら戦場引っ掻き回して戦争どころじゃなくしてくる。」
最悪本家メテオ使うことになるな…そして始まる環境破壊とかって続きそうだが。
まあこうして、グダグダ出発することになった。
なお、依頼を受けたライくんより親父さんの方がやる気度は高いらしいです。




