53 事案
読者のみなさまどうもこんばんは。ブックマークありがとうござます!
さて、今回前半に微妙な15禁描写が入るのでご注意ください。それでは今週の不憫をどぞ!
裏ギルドの一室。一見するとドアがなくまるでそこに部屋が存在しないようにも見える暗い場所。そこは、このギルドの持つ秘密を隠す場所。
所詮、隠し部屋と呼ばれる場所である。
そこそこの広さを誇るその部屋には、キングサイズの天蓋付きベッドに座り心地の良さそうなソファーと備え付きのサイドテーブル、そしてクローゼットの扉があった。
中は暗く、時折聞こえる衣摺れと浅い息の音から誰かがベッドで寝ていることがわかる。
カランッ
窓辺でカーテンの隙間から入ってくる冬の白い月明かりは薄ぼんやりと周囲を照らす。だが、大きめの氷が入ったグラスへ琥珀色の液体を暗がりで注ぐには十分な明かりであった。
ごくりごくりと、喉を鳴らしながら流し込む。そしてグラスを置くと同時にため息を零した。
月明かりで白く見えるそれなりの長さの金髪をかき上げ、普段は役柄ゆえ隠れている端正な顔が覗かれた。ただ、表情は怒りと悲しみをないまぜにしたような複雑なものだった。
クシャリと歪ませていた瞼を開くと、名前の由来ともなった黄玉色に輝く瞳が妖しく光る。
「ままならない、ものだな…」
自嘲するように口の端を歪ませ、再び琥珀色の液体を呷った。だが、どれほど飲んでも幼少よりその身分ゆえ慣らされてきた毒物への耐性が強すぎて酔うことは望めない。
男はグラスの内容物を一瞬にして消すと同時にグラスを仕舞い、ベッドへと戻る。
天蓋のカーテンをずらして中に入る。そこで目に入る布団の膨らみ。愛おしく庇護し、何者にも触れさせたくない。ずっと2人だけの世界にいたい。いっそ繋いでしまおうか。
そんな気持ちをぐっと抑え、近寄る。
事後らしく、裸のまま眠る女性。掛け布団はあるも1人で眠るには寒いのか、身じろいでいた。
ふと、今にも消えてしまいそうなほど儚く切ない気分にさせる色の髪が視界に入る。一房取ると、優しく口づけをした。その刻ふと漂ってきた自分と彼女の混ざった匂いに笑みがこぼれた。
バスローブを脱いで寒そうな彼女の肌へ自分のを重ね、胸に抱く…暖かな肉体に触れたためか、彼女の口角が上がった。
少しだけ激情に駆られて無理させすぎてしまったか…嗚呼、明日は朝一番にお仕置きされてしまうな。
でも、彼女ならばいいや。
彼女ならば、彼女が望むのならば別に自分はどうなってもいい。彼女が自分へ同じ思いを返してくれなくても、私は彼女をずっとずっと…
「なあ、どうしてあの依頼を受けることにしたんだ?」
柔らかい髪を撫でながら、普段では考えられぬほど柔らかく甘い響きの低い声で尋ねる男。疲労感で眠る女は答えることなくただスリスリと顔を男の胸へと寄せていた。それだけで色々こみ上げてくる男だが、それらを全て押さえながら少し体温の低い身体を温めようと抱き込む。
すっぽりと男の体に収まった女性は、満足そうな寝顔で柔らかい寝息を立てる。もちろん男の質問に答える様子はない。
「何度も言ったが、私はやはり反対だよ。」
今度は男へ抗議するように背中に回った手が彼の背中を爪で抉った。男は困ったような表情をして呟く。
「エリスは本当に頑固だよ…なんでわかってくれないかな。」
思い出すのは最中に行われた喧嘩。
双方の主張が平行線になり久々に凄まじい言い争いになった。思わず普段と役を逆転させるほど激しくしてしまった。それこそ気絶させてしまうほど攻め立ててしまった。
『君は自分がどれほど危険んな立場か理解しているのか?あのケダモノから未だに付け狙われているってことをわかっているのか!』
『そのような理由で依頼を断ることなどこの私の矜持が許さないわ!ええ、ええそうよ…私しか救って差し上げることはできないのに見逃すなど、ありえない!』
『君は再びあの日々に、いや、それ以上にひどい目に遭うリスクも理解しているのか?あの日はうまく逃げられたが次捕らえられたらどうなるか想定できるか?』
『それでもですわ、トパーズ!私の性格は熟知しているでしょう?』
『…君はなぜこうも聞き分けがない。私が、心配するとは、なぜ、思わない。なぜ自分をもっと大事にしてくれない!!』
・
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彼女が息も絶え絶えになるまで攻めてはみたものの、最後まで頑なに依頼を断ることを受け入れなかった。
ここまでくるとさすがに自分が折れるしかなかったが、本心としては彼女を今回のことへ関わらせたくない。どうもきな臭いのだ。魔宮を生きた経験が自分へと必死に訴えてくる…嫌な予感しかしない、と。
「…守ってやる、守りきってやるとも。あの日の二の舞にはならないよ。私がやらせないから。」
“たとえ、この命失おうとも。”
少し力を込めて彼女を抱きしめ、男はそんな決意を胸にようやく意識を落としていった。
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…幼少にしてオトナの情事を見せられることになったラインハルトさん7さい、色々失ったような気がしてならな色々失ったような気がしてならない。気まずいような恥ずかしいような、そして一切反応を示さない己の肉体へ戦慄を覚えつつも護衛対象の事情をなんとか繋いでみる…みようと頑張る……
ダメだ、いろいろと生々しすぎて集中できねぇ…
ウフンアハンな現場でわざと視界を移された恨みを込めて親父の現諜報部隊の部下を睨みつけるも、悪戯が成功したと喜んではしゃぎ回っていた。しかも、身体が反応を示さなかったことに対してからかってくるのでタチが悪い。まだ私、7歳なんですけど…
噂通り悪戯は悪質だ…というより、すでに嫌がらせとかの域を超えている気がする。
「…もういい、親父を呼んで。」
ただ、疲労と苦痛の数時間で一つだけ得られた情報があった。それがあまりにとんでもないものだったので親父を呼んでもらうことにした。
…今度メリーさんにパンツ盗んでいた件、ちくっとこう。
遠ざかる道化師の背中を眺めながら新たな決意をする。きっと後日、ひどい目に遭うに違いない。
実際、メリーさんに物的証拠を抑えられて『親父の料理の刑』に処されるのだった。なお、そのせいでしばらく男子便所の住民となり、自身もパンツ盗難事件の被害者であるHANAKO先生から『ラバーカップとモップ・バケツの刑』に処された。
他、女の敵として主に女性陣から凄まじく陰湿な嫌がらせに遭うのだった。
さて、思考を切り替え今回の依頼について改めて考えてみた。
依頼人は意外な人物だったがもっとも予想外なのはあのおっさんが付いてくること…しつこく勧誘してはこちらの力量を測ろうとしてきたあの只者ではないおっさん。
軽く緩く図々しく振舞っていたが、ステータスにとんでもない情報が載っていた。
「ベルハザード・フランツ・カイル・ド・ラ・ローレンハインツ…ローレンハインツ公爵家前当主。」
どんな関係か知らないが、少なくとも建物に入れないという門前払いをギルマスがしていない。それを見る限りだと裏ギルドと何かしら良好な関係を築いているらしい。
だが一方は準犯罪組織、そして一方はそれを取り締まる側。
「…だがもっと気になるのはS級冒険者の証。」
称号の欄にあった記述…S級冒険者へ与えられる特別な称号。
「それと、ギルマスと共通している称号…」
だが、これ以上このことへ首を突っ込まないことにした。と言うのも、今回の件だけでもういっぱいいっぱいになる気がするので。特に、依頼だけでなくエリスさんと変た…トパーズさんの件で。
「ライ、どうした?」
親父が来たので再び頭を切り替えた。
「どうしても聞いておかないといけない案件が出たのでごまかさずに教えてくれ…」
怪訝な顔になる親父。そして次の言葉を言った瞬間、濃厚でこちらの意識を持って行きそうなほど強い殺気を放った。
「…350年戦争直前ルイン王国で起きた集団失踪事件、別名『フォウスティウス−ダンガローダの悲劇』」
道化師は後日10円ハゲを作った挙句某青いつなぎ姿の漢に狙われたそうです。一応貞操は守られましたが、しばらく安眠できなかったとか。




