40 救出、再会からの説教
読者の皆様更新遅れて申し訳ないです。
それでは今週の不憫をどぞ!
ヴァイマール家のウォルター君12歳は結局仕方がないので面倒をみることにした。家、適当に借りるしかないかも知れない…岩場くりぬいた自宅にはなんとなく入れたくないのは多分意図が見えないことと、あまりこの世界の住民を信用していないからだろう。幽霊は例外だが、人は時に恐ろしいからな。
奴隷とかいらないという理由もまた事実だが。
さてこれでここにはウォルターさんがいないことがわかったのでさっさとトンズラするか…報酬とかカジノの金とか回収して。半獣族の住処も面倒見ないとなので、多分今回は黒字にはならないだろう。これも必要経費、仕方がない。
半分無理矢理自分を納得させて、私は出発する準備をすることにした。
ゴロツキをまとめて気絶させた後、拘束した上で街の風紀を乱した元凶として後ほど処理するようにルドルフ君へ伝えた。彼は貴族らしく、特に表情とか変えることなく終始冷静だった。
この件が無事済んだらきっと良い貴族、良い領主になるだろう。ぜひ、頑張ってもらいたいものだ。それこそ今回のことで革命とか起こらないよう民衆の信頼をいかにして勝ち取るか、政治家として教会とどう付き合うか、周囲との兼ね合いなどやることが多いはずだ。多忙になるだろうが、是非頑張ってほしい。
カジノから逃走する裏組織員を見ながらふとそんなことを考えた。
そういえばカジノの本当の支配人に関してだが、奴とはおそらくまた別のところでぶつかることになるだろう。なんとなくなのだが、そんな気がした。
おそらく奴の手は別のところにも当然伸びているのだろう、そうでもなければ今回これほど簡単に収入源を手放すことはなかったはずだ。それもオークションやカジノなんて非常に儲かるものを…
それにしても使用していた土地を見る限りだと教会と行動の作戦だったはずだ。最悪は、教会との関係も悪くなるかもしれない。相手さんは面目を立てる意味も込めて言いがかりの一つでもつけるだろう。賠償金とか請求するかもしれない。それに対しどう対応するか。
まあ、関係ないしどうでもいいが。案外相手は表向きどっかの暇人な国王か商業系の重鎮かもしれない…なんてな。
さて、隣町にさっさ戻りたいところなのだがまだウォルターさんが見つかっていない。なんとかならないだろうか…そう悩んでいると、探索にこっそり出していた浮遊霊たちが戻ってきていた。
教会の張っていた妙な結界が解除された結果地下へ入ることができたようで、結論から言うと見つかった。
発見場所を聞き、私は頭を抱えて再び突っ伏した。
どうやら爆発した教会の地下に領主代行している人ともに埋まっていたらしい…どおりで見つからないわけだ。完全自業自得でした。
…気を取り直し、頑張って地盤的に大丈夫そうな部分を掘り進めることにした。下手な場所を掘ると落盤が起こりそうでこの辺怖いです。これも全部教会が無理矢理結界で補強して地下を掘ったからだ。
そうだ、私悪くない。全部教会のせいだ。実際教会が結託したことが原因だし。そういうことにしておこう。精神衛生上その方が良さそうだ…
さて、頑張って掘り進めますかね。
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半日ぶりに拝む日の光は、眩しくも明るく温かく感じた。
嗚呼、だがこれでは駄目だ。けじめをつけなくてはならないのに、これだとまるで全て許されてしまったかのように感じてしまう。私もまた、隣にいるこの暗殺者と同様死が生ぬるく感じるような苦しみを受けて死するべきだった。
決してこのような陽の元に戻ってくるべきではなかった…そう思い、顔が強張った。隣を見ると、同様にウォルターは顔をしかめていた。
ふと、空を見上げ再び太陽を仰ぐ。そこでふと、ある違和感に気づいた。
この街には下手人を呼び込むためにも教会関係者を呼び込んだ。彼らの行いは噂どおりであり、非常に悪質かつ醜悪だった。けれど油断を誘うためにもあえて全て見逃していた。
その中には、無理矢理街の中心地を無理矢理買い取った件も含まれている。
買い取った目的は、教会の建物を立派に建造し直すること。本当は嫌だったが、許可を取って住民の立ち退きを行った。その際反発する人々は、一部逃したものたちを除けば教会が勝手に処理を行った。現在行方が分かっていないがおそらくもうこの地には、あるいはこの世には…
我が兄の館よりも高く豪華絢爛な建物を見るたびに、私の心はすさんだ。そして本当にこの道であっているのか、民を徒らに傷つける行為がたとえ復讐であっても正しいのかと。
その建造物が、現在消えていた。
普段は陽の光を受けて厚かましいほどにも輝いていたブルーダイアダイト製の特注の悪趣味な像がそこへ鎮座していたはず。だが、そこにあるのは晴天の空、青い世界だった。強いて言うなら少し西側の空が薄紫色と白の中間色になっていた。
思わず惚けてその光景を眺めていた。
「…空が、見える……」
「………」
隣からも唖然とした雰囲気が伝わってきた。
そして、次の瞬間ウォルターは驚愕した表情を露わにしていた。その状態で固まり、目前を眺める。視線の先へと私も自分の視線を向かわせると、私自身も固まった。
「…すまん、こんなかかるとは思わなかった。」
「だからこそ、次から爆発で全部解決しようとするのはやめるべきだと主張していおく!」
私の兄が遺してくれた唯一の希望であり、私の現在の倅…いくら私が悪に手を染めようが侮蔑せずに何か理由があるのだろうと黙って見守っていてくれた。そしてそんな彼を支えてくれた執事。その隣には、なぜか給仕服ではない最近入った使用人の男。
…まあいい、それよりもだ。
「なぜ、助けた…」
あのまま放置していれば私は死に絶えたはずだ。なぜ私は助かってしまったのだろうか…あのまま引き上げずに放置すればよかったものを。
「なぜ?むしろ私が聞きたいですね、叔父上はなぜそれほど死に急ぐのかと。」
倅が悲しげに目元を歪める。
「誰が私の将来をいつも案じてくれている人の死を願うというのですか…誰が、私が領地を継いだ刻に苦労しないようにと自ら泥をかぶってまで膿を取り除こうとする親を…」
その言葉に唖然とした。
「知っていたか…」
「そりゃそうですよ…調べてれば簡単に分かることでした。復讐と称して私を狙っていた教会関係者と裏組織を摘発して自爆する予定だったのでしょう?」
バツが悪くなり、思わず目をそらす。
「…叔父上がなくなれば、私は再び一人ぼっちになってしまう。父上と母上が死んだ日、私は思ったのです…大事な人々と別れたくないって。」
感情をあらわにして、ルドルフは言った。
「だから、そんな簡単に生を諦めるようなことは言わないでください!」
ルドルフの真剣なその表情に少し心が揺れた…だが、なんとか罪を償っていかねばならん。なら、その方法を少しだけ長く時間を使って見つけてみるか。
仮に神ってのがいたとしても、その間、ルドルフを立派な領主へと育てるくらいは許されるよな。
「すまない…本当にすまなかった……」
もう十数年ぶりだ…こんな風に涙を流し感情をあらわにするのは。
今は無人となっているほぼ魔金属製の地蔵が、相変わらず穏やかな顔で親子の様子を見守っていたのだった。なんとなくこちらへ振り返りウィンクをした気がしたが、きっとそれは君の気のせいだろう。
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親子の再会を横に、そこから少し離れた地点でウォルターさんが説教を受けていた。説教をしているのは私…ではなくウォルターさんを見つけ出したウォルターさんの奥さん。もちろん幽霊。どうやら死霊術師に見えないようにしていたらしいが現在私を頼ろうと考え可視化したもよう。分類としては守護霊みたいです。ウォルターさんあの宿で生き残った理由に今度こそ納得した。
彼女は出現当してすぐ何か非常に言いたげな様子でこちらを凝視していたので実体化させました。しなかったらどうなっていたんだろう。
というか穏やかな顔なのにあの凄みあれか、年の功…いえなんでもないです。年齢の割にお若い容姿と思っただけですからこちらにはお構いなく。そう心で思うと同時に彼女はウォルターさんへと振り向き説教を再開した。
〈あなたは一体何をしているの?〉
〈他人への迷惑をちゃんと考えないさい、行動を起こす前に一度立ち止まれと私は言いましたよね?〉
〈もう一度言いますが一体今回何をなされたのです?〉
〈しかも迷惑をかけた相手はがよりにもよって7歳の子供、嗚呼嘆かわしい…いい年した大人が一体何をなさっているの?〉
ガミガミガミ、クドクドクド…説教は続くよどこまでも。すっかり小さくなったウォルターさんの姿になんとも言えなくなる。
断言しよう、救出したウォルターさんの姿はかっこよかったと。既に過去形である。
暗殺スタイルなのか黒革グローブに銀色の糸束。黒く塗りつぶしたナイフなどかっこいい装備があるのに、その上で戦闘用らしき燕尾服を着こなしていた。煤けのついた顔、汚れた白シャツがさらに仕事の出来る漢感を醸し出している。
姿形だけは将来はこうなりたい、目指すべき憧れの渋い大人だったのに…おくさんに叱られる姿はなんというか、非常に情けなかった。
現在地べたの上で正座をして俯いている。その上から夫人が説教して、現在のしょぼくれたウォルターさんが図が完成する。夫人が般若背負っていて、負のオーラが渦巻いている雰囲気があるので非常に恐ろしいです。触らぬ神に祟りなし、くわばらくわばら。
それにしてもやはり女性は怒らせてはいけない…こう、我々男は口でもって絶対女性を凌駕することはできないのだから。改めてそれを実感するのだった。
なお、この間半獣族とバイコーンはゴンへ群れの順位争いを仕掛けるも相手にされていなかったようです。希望があればもふもふ対決閑話で書こうと思います。




