39 いざ、出撃(その6)
読者の皆さまこんばんは。今回も更新遅れて申し訳ないです。あと今話ではしょうもない下ネタが入っておりますので嫌いな方は最後のみパスしてください。
さてそれでは今週の不憫をどぞ!
グルジュ王国…ヴァイマール侯爵家……ある意味有名な家だったのですぐに思い出せたのは幸か不幸か。ただ、とてつもなく厄介な状況であることは理解した。したが…
「いやいやいや、なぜに奴隷?」
ヴァイマール家…確か代々当主が好色かものすごく一途かどちらか極端であるということで有名。現在までさまざまな逸話を残してきた。
特に有名なのは、歴代の好色な当主は全員愛人や妾の子供を引き取って正妻の子供と同等の教育を施した上で職に就くまで面倒を見ていることであった。それ以外だと、ヴァイマールの当主は決まって幼少期トラウマ級の体験をしていること。たとえば初代ならば、精霊にチェンジリングされかけ逃げた際ケルピー(水棲馬?)に踏まれかけたとか。他にも赤ドラゴンに加えられて巣穴に連れ込まれたとか、他家のショタコン糞族悪霊に攫われかけたなど。
けど、幼少期の恐怖体験を乗り越えているからこそ歴代小説みたいな話を実話として残しているのかもしれない。
「…名前がウォルターで、しかも将来裏方と給餌を兼任するために暗殺術を仕込まれている最中だったので。」
…それ、隠さなくていいの?顔にそんな感情が表れていたせいか、相手は苦笑して今さら隠しても仕方がないですからせめて自分の価値を上げておきたくと言われた。そう言われても開放する気満々だったのだが…これリリースしたら口封じのために狙われるか?
「まあいい…とりあえず聞いておくが、奴隷としての身分から開放されると聞いたら「まだ今は開放されたくないです」…そうか。」
どうやら開放されたくない事情がある様子。
「さてそうなると振り出しに戻るな…」
思わずため息を吐きたくなるが、ぐっと堪えてカジノとオークションを潰す算段をする。現在稼いだ資金は…また増えている。金額を見てめまいがしたが、その分潰しやすくなるのでまあいいと無理やり納得する。そうでもしないとやっていられない。
「…まずはゴンと合流、それから……」「あの…」
まずは我が家の癒しもふもふで癒されてから色々考えるか。ウォルターさんがどこにいるかと早く裏ギルドにいかないととか親父と魔王餓死してないかとか余計なことはもう考えるのやめだ。精神衛生上非常によろしくない。そうだ、何事もポジティブに。
だからまずはもふりまくって元気だそう…気持ちを察してか知らないが、兄貴と慕った様子で頬を擦り付けてきたバイコーンに癒される。サラサラな髪質は確かにもふもふ度は足らないが、これはこれで良い手触りです。
「癒される、私の癒し…」「いや、だから…」
片手でサラサラと指を通しながらもう片方でポーションを渡し、飲み終わるのを待つ。その間に鬣へ顔を埋める…むむ、これはこれで気持ちがいい。
「全員退避させたらドカンでいいか?もう面倒になってきた…」
「いやよくわからないですけどダメな予感がします。」
ここになってようやく私が自分の思考を口に出していたことを理解する。恥ずかしさが天元突破した。
「……」
「いや、もう立ち直ってください…」
しばらく部屋の隅で体育座りしていたら、呆れた声を出されてしまった…年下の子供にこう、気を使われてしまったのがなんとも情けない。不甲斐ない大人ですいません(※肉体年齢7歳)
〈まあそういうこともあるさ、坊主。〉
「あんまし気にすんな。」
悪霊と保証書のおっさん(ビルさん)がポンポンと肩を叩く。
「儂も若い頃、思考を無意識に口に出した結果大損したことあったなぁ」
〈俺なんか、不敬罪で首飛ばしそうになったなあっはっは…はぁ〉
2人?とも遠い目をしながらそんなことをぼやき、私の横でうなだれた。3人仲良く自爆した模様。
心の声は心にとどめておくのが一番という結論に至った。誰であっても黒歴史の量産は勘弁。未来の自分が苦しまないためにも普段からの心がけが大事。
…いい話風まとめたが、しばらく落ち込んだままだった。
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気を取り直してとりあえず換金エリアへ商品を持った上で直行した。半獣属の知る抜け道を使ったので、誰とは言わんが妨害をいなすことができた。ルドルフくんたちとさっさと合流し、癒しのもふもふへと突撃した。
ゴンは私を受け止めると背中へ乗せてくれた。大体ゴールデンレトリーバーの1.5倍くらいなので7歳児の私の体くらいなら余裕だとか。もちろんもふもふします。もふもふもふもふ…
その間にゴンへバイコーンが敵意を視線で送っていたらしい。ゴンにしろ私にしろ、全然気付いていなかった。
「さて、1兆9800万6千5百ドロス…まさか換金できんとは言わんよな?」
結構使ったのにまだまだ残っているドロス価。換金しようとしたら受付に真っ青な顔されました。
「か、確認して参り「その必要はない!!」…し、支配人!?」
映像として映し出された偉そうな野郎…みたところ、貴族かそれとも……
「こんなガキが…今回は負けだが、次はない。その地を放棄し可能な奴は引き上げろ。」
「も、申し訳…」
「謝罪は後でいい…今回は相手が悪かったと言わざるをえない。だからとりあえず無事に帰ってこい。」
「了解であります!!」
涙を流しながらピシリと敬礼をする受付とその他…私の存在をすっかり忘れている様子。一応だが、一度向かってきた相手は容赦しない主義です。
「俺から逃げる、ね…実力的にできる?」
にこりと笑みを浮かべてモニターらしき場所へ向かって尋ねる。さりげなく威圧する意味を込めて魔力を込めるのがポイントです。支配人以外の人は真っ青、何が起こったかわかっていないのか困惑気味だった。
「…どうすれば見逃してくれるか?」
仕方がないと言わんばかりに頭を振りながらたずねる支配人らしき野郎。魔王の足元くらいまでは届いている魔力が、殺気を添えてきちんと届いた様子。これでも抑え気味にしたんだが、もう少し加えても良かっただろうか。
「聖光教会と絶縁した上で、君自身が今後こっちに一切手を出さない…その上で首謀者が誰かこっちに教える。それなら見逃す。」
こちらは引かないぞと割と強目に魔力を送る…部屋の空気は一気に重くなり、ミシミシと音を立てた。魔粒子の影響で魔力的な圧力が変わったせいか、全員顔色土気色をして今にも気絶しそうであった。
これにはさすがにモニター越しでも余裕をなくしたようだ。
「…見た目通りの年齢ではない、か。申し訳ない、見くびっておりました。」
そうして予想外なことを言われた。
「あなたの正体は、かの有名な伝説上の『大賢者ED』ですね。」
…え、なにそれ。
「大賢者エレクトリック・ディレクター様…まるで雷が降り注ぐ黒雲がごとく人が怖れを抱くという噂を耳にしておりましたが、いやはや、これほどとは……また奴隷を極端に嫌うという話も有名でしたね。勇者が連れていたのを見て血涙を流され街中で正座させて説教を約3時間ほど続けられた話は有名ですね。」
いや、だから誰?
支配人?は勘違いしたまま話し続ける。
「ええ、ええ分かっております…これならば俺、いえ私も納得して負けることができます。大賢者様にはかないませんから。」
すがすがしい顔でそう言い切る支配人。私は何も言えなくなった…なぜか、大変不名誉なあだ名がつけられた気がしたがとりあえずステータスは後で覗くとする。
「条件を飲んだという証拠がない、故に契約書を用意した。」
パサリとミニター前に羊皮紙を取り出す。
「ここへ自分の魔力でもって名前を書くと念じるだけでいい。それで契約は成される。」
そうして数秒後、契約は成立…カジノとオークションはその日のうちになくなることとなった。
なお、直属の部下数名以外は雑魚の寄せ集めらしく勝手にそっちで処分してくれと言われた。厄介な連中を残してくれてと言いたいところだが、ルドルフ君曰く彼らをうまく利用して領内の犯罪を減らすと言われた。多分見せしめにするのだろうと考えた。
数日後に実際処刑が行われるが、その頃私は既にいなかったので詳細は知らない。だが、のちに幽霊曰くなかなかに残忍な方法であったと報告が来た。
その頃本物の『大賢者ED』だが、ど田舎通り越した人外マ境で割と快適な生活を送っていた。それまでは魑魅魍魎蔓延る宮廷などに縛られていたこともあったが契約も切れたので現在は悠々自適であった。
ただ、彼はたまに無性に叫びたくなることがあるらしい…自分は不能ではない、と。ただ、今まで自分を召喚した国の一方的な契約によってそうさせられていたと。
そうだ俺は何も悪くない。悪くあんなに言われる要因もない。悪いのは全部あの国…そしてあの国に召喚された時に自称神と名乗るBBAが勝手にジョブを【大賢者(笑)】にしたのが悪い。だからあんな風にみんなで指差して嗤うのは絶対間違っている、と。
自分と同期で呼ばれた勇者や聖女のことを思い出し、彼は夕日に向かって号泣しながら叫ぶ。
「リア充、爆発しろぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!俺だって、俺だってここで可愛い彼女作るんだぁああああああああああ!!」
頑張れ賢者、負けるな賢者。きっと君にもこれから○色の明日が来る…多分。
なお、大賢者も勇者も同郷です。ただしライ君とは違う場所から来たらしいですが。




