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もし〇〇が仲間になったら(〇〇式異世界英才教育〜憎まれっ子よ、世に憚れ〜)  作者: 平泉彼方
第1章 7歳までの軌跡(〇〇式英才教育基礎編)
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38 いざ、出撃(その5)

 読者の皆様どうもこんばんは。それでは今週の不憫をどぞ!




 魔道具を駆使して作成されたらしきモニターから部屋へ映像が流れた…差し詰め異世界版プロジェクターか。気になるのはなぜこれほどの技術があるのに街は中世並みの衛生環境なのかと言うことだが、まあ今それを議論してもしょうがない。


 気を取り直してモニターを見る。



「みなさま待望のこちらの商品、名前は『ウォルター』、貴族屋敷の地下で最近我々が見事、保護(・・)しました!!!」



 保護、ね…奴隷にするため捕獲したことへの詭弁か。


 それにしても捕まった上でふん縛られて地下にいたのか…宿屋でぐったりしていたウォルターさんの姿を思い出して実行に移した者達に対し苛立ちを覚えた。老人いじめとか一番ダメなことだ、高齢者には優しく。自分たちの先人なのだから。


 …まあ腐敗した老害とか幽霊は例外だけど。前者は害悪にしかならないし、後者に至っては死んでいるし。アンデッドとかだと腐っているのでそっと浄化したしてから土に魔術使ってめり込ませるのが一番だ。自分の手を汚さないこと、これかなり重要。


 話が逸れたが、とりあえず捕まったウォルターさんなのだろう。



「さて、ご本人はちょっと現在体調が悪い状態ですのでお見せできませんが、まだまだ愉しめるほどには体力が残っておりますのでご安心を!!」



 抵抗しようとして何度も暴れて傷ついたウォルターさんのひどい状態が脳裏に浮かんだ。裏賭博場へ行く際絡んできたような趣味の悪い成金風のチンピラがニヤニヤしながら無抵抗な老人に暴行を加える様を…


 少し前世のトラウマ映像がフラッシュバックする。そして自分の指が掌に食い込んで血を流しているのを感じた。慌ててそれらをなかったことにする。皮膚はすぐさま再生させ、同時進行で浄化させた…地面に血が到達する前に気づけたことが僥倖だった。



 この間、また部屋の中から人が減っていたがそのことに気付かなかった。そしてなぜかさっき目線で大人気ない勝負をしていた老人が同類を見るような目つきでこちらも見ていた。バイコーンがピクリと反応したことには気づくも目線に関しては最後まで気づかなかった…むしろ後でディエゴさんに言われて気づくのだった。



 さて、調子のいいことをペラペラほざく司会者へかなりイラっとした。結果的に、当然心の粛清リスト(閻魔帳)に司会と司会へ指示している人の顔が載った。大丈夫、さっきの話ではないが私が直接手を下すわけではないから。


 自分の影からそっと怨念を振りまく少女少年たちの群霊。彼ら一人一人の浮かべる虚ろな目。その奥には死人らしい冷たい殺意があった。


 暗い中、彼らのめは煌々と光り輝いていた…狩の時間だ、と。



「…さて、紹介はこの辺でいいでしょう。もうそろそろ皆さま始めましょう!!」



 そうして司会の『まずは5千万ドロス』からと言う言葉から競が始まった。ドロスはついでだが、この裏側のチップの名称であり、1ドロスは5ゴールドなので、かなりお値段高めである。


 現在の所持ドロスについて、純粋に賭け事のみにおいて自力で稼いだ分は300億ドロス。現在進行形でルドルフ君たちが稼いだ分を入れれば523億ドロスくらい。それに金庫に入っていた分を足せば相当な額になる。


 嗚呼これらを全て換金するとなったら、ひどいことになりそうだ。


 思わずゲスな笑みが漏れかける…まだまだ未熟者だな私は。ここはきっちりポーカーフェイスにしておく…親父にならきっと見破られる。そしてみっちり数時間感情が出なくなるまで地獄の扱き(訓練)が待っているのだろう。想像して思わず胃が痛くなった。


 …気を取り直して、値段はなるべく最後ギリギリに申請するのがいいと考える。特にこれだけあるなら多分負けないだろう。



 まあ本音を言うなら裏賭博場でもっと稼ぐ予定だったんだ…そもぶん配下と賭博場(ここ)潰すような書類、他諸々(金貨含めて)が回収できたのでよしとしないとならない。それに、目的である“例の子供”に関わるヒントを見つけたのだからそれがいちばんの収穫だと言える。


 今回はそれで満足するべきだ…欲を掻いては事を損じる。大を成すには時に小を切り捨てねば。



 そうしてそろそろかと思った時に、先に老人が金額を提示する…400億ドロス。危なかったなと思いながら私は勝ち誇ったようにこう宣言した。



「700億、いや1000億ドロス。」



 現段階で大体合計所持金額2兆3000億ドロス…これだけ換金すれば多分すぐにでもこの賭博場崩壊するな。ブラックジャックでもっと稼ぐこともできたんだが、あそこでやりすぎた場合きっと物理的な方向で潰すことになっていたと思う。こんな穏便な方ではなく。


 老人含め、ほとんど人が絶句する…そらそうだろう。



「聞こえなかったか?1000億ドロスだ。司会、さっさと進行しろ。」



 ついつい口が悪くなってしまう。



「あ、は、はい…失礼いたしました、それでは他にいませんか?いませんね!では『シエル・ルシフェオール』様が落札、ということになります!!それでは後ほどお受け取りください!」



 こうして目的物は落札終了。


 その後もオークションは通常通り行われ、中でいくつか気になった商品を買うことにした。特に、魔獣の卵系は全部買い占めた。総額なんと、5000億ドロス。今日だけで相当散財した。


 それでもまだまだドロスは有り、さらに増えている…まさかあいつら裏賭博場にでもいるのか?まあよほどのことがない限りは手出しされないだろうからなんとかなるだろうけどそれでも心配だ。


 癒しがないのが厳しいが、ゴンつけて正解だったかもしれん。




◆□◆◇◆□◆◇◆□◆◇◆□◆




 オークションはその後特に波乱も乱闘騒ぎもなく終わり、現在受け取り口に来ている。大変混雑しており受付が大変そうだ。


 現実逃避しながらなんとか影の原型を抑え異様と努力する。


 ここは司会やその関係者の控室が近く、そしてVIPルームには今までの常連が大量にいる。それが意味することとしては、私の足元、影の中に潜んでいる怨霊達が今にも仇を討ちたいと騒いでいるということだ。


 その気持ちはわかった。確かにこの場所で拉致・誘拐された結果、奴隷にされた挙句内蔵された休憩室で弄ばれ殺されたのだ。そんな事をした連中が目に前で油断していたらさっさとどん底に落としたくもなるものだ。それはわかる。


 けど、もう少し待ってほしい。まずは私の要求を通させてくれ、でないと契約違反で復讐する前に消えちゃうぞ。



「【静粛に】…もっと美味しい状況で叩き落としてやれ。」



 思わず魔術言語で伝えていた…慌てて周囲の気配を探るが、気づいた人はいないようだった。安堵し、背中が脂汗で濡れていることに気づいてヒヤリとする。


 幸い付近に魔術へ精通した人がいなかったからよかったものの、もし誰かいたら全て頓挫していた。気が緩んでいる、気を引き締めねば。



「お待たせいたしました、シエルさまでございますね。」


「…ああそうだ。」


「シエルさまの本日購入されたものは個別に契約が必要なものですので部屋を御用意させていただきました。ついて来てください。」


「そうか、わかった。」



 ホッとしたような受付嬢に少しモヤッとした…まあおそらくあの部屋での一件が知れ渡っているのだろう。媚薬入りの紅茶を敢えて知っていながら女性へ引っ掛けた鬼畜少年、と。自分で言っていて凹みそうになった。


 …いいや舐められるより。というか、まだ親父や魔王なんかと比べたらマシな方だから少しは妥協しよう。そうだ、それに別に私は悪くない。悪いのは全部この賭博場つくったやつ、すなわち教会だ。


 時折びくつく受付の後ろをついていきながら、私は内心そんな風に思っていた。



 その受付だが、その頃彼女自身は脳内お祭り状態だった。嗚呼麗しき美少年しかも無自覚S系とかそれなんて極上なショタなのはぁはぁと。自分に極寒の視線を向けながら黒い鞭で叩く『シエル様(仮)』の姿を想像し、時折悶えてはよろけていた。


 まあ仕方がないのかもしれない…地味な色彩をしていても隠しきれない気品に加え年不相応な鋭さ、そして少年と青年の狭間にある幼いのに大人っぽい矛盾した美。素地はもちろんだが、期間限定なその儚い芸術へ惹かれるのはもしかすると何も変態だけではないのかもしれない。(※ライ君は7歳です)


 仮にライ君が心を読めたならば全身鳥肌で真っ先に逃走していただろう…こんな危険なショタコン(変態)と密室にいられるか、と。



 さて、案内された部屋に着くともう少々お待ちくださいと言われて席に着く。今度はちゃんとした紅茶が来たので安心してのむ。給仕さんもちゃんとした人っぽくて助かった…と思ったらぼそりとうちの主人が助かりましたと挨拶された。


 なるほど、ディエゴさんの奥さんか。



「こちらこそ、これから世話になる。」


「誠心誠意仕えさせていていただきます。」



 そういたやりとりを軽くしていたら、トントンと扉を叩く音が聞こえた。そうして戻って来た受付嬢…若干だが、こちらを見る視線が怖い。多分私を警戒しているのだろう。


 私、怖くない…真に恐ろしいのは身内と身内の起こすことです。



「さて商品をお持ちいたしました。お受け取りください。」



 ん?



「…ウォルターはどこだ?」


「えっと…こちらがウォルター君です。」


「え…」



 受付嬢が差し出したのは、確かに執事服をまとった使用人だった…けど、随分若い。正確には相当幼い。それこそ私よりは年上だろうが、多分11歳か12歳くらい?身なりが良さそうで髪の色も目の色もキラキラ補正が有る…救いとしては私よりひどくないことか。色彩は青髪橙目。青は紺色に近く、橙も茶色系統。これくらい普通が一番。ある意味安心する。全然安心できないが。顔立ちは幼いがはっきりしている。貴族らしく端正で、どちらかといえば少し怯えが見え隠れする…将来有望。イケメン滅ぶべし。


 少しだけ前世の私の思考が暴走するがとりあえずなだめる。だが無駄なようで色々内心荒波が起こっていた。


 …いや、わかっている。現実逃避してはいけない。いい加減認めなければ。


 多分これはウォルターさん違い。



「君はどこの『家』のウォルター?」


「ヴァイマール家。グルジュ王国第12位ヴァイマール侯爵家の妾の子供…ウォルター・グリムス・オブ・ヴァイマール、です……」



 …どうやら本気で私は厄介ごとに好かれているらしいと心底自分の運命を呪うのだった。



 裏のサブタイは【這い寄る変態・トラブルホイホイ】ですかね。


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