24 門番と狐危一髪とキノコの山森
読者の皆様どうもこんばんは。更新が遅れて申し訳ないです。
それでは今週の不憫をどぞ!
夕刻。門番の男は街から漂ってくる夕餉と少し焦げ臭い薪の焼けるの匂いに今日の夕飯なんだろうかと思いを馳せる。同時に自分は夜勤だから今日は家族と過ごせないことへの一抹の寂しさも。
いつもの如く門を閉めようと鍵を取り出した所で気配を感じた。
振り返るとそこには子供と大型犬サイズの白っぽい動物が居た。子供は軽装に変わった形の短剣を2本と少し長めの剣を背負っていた。動物は首元に従魔の証として配布されている首輪があった。
そこで門番の男は納得する。冒険者もどきの少年とその使い魔と思しき犬……これはきっとあれだと。冒険者に憧れて親の反対を押し切ってこれから夜の森に突撃する無謀な少年だと。
それ程良く有る話しなのだ。
何を隠そう、この門番の男もそんな経験が有った。あの頃の自分は……まあその話しは一旦置いておこう。
それよりも今は職務を全うしないと。
「少年、悪い事は言わんからこの時間出て行かん方が良いぞ。」
そう一言声を掛けかけた瞬間、殺気が自分へと向けられた。
ブワリと脂汗が全身から吹き出す…同時に身体が震え、動かない事に気付く。何と強烈な。心臓を握られる様な威圧だ。冒険者引退を余儀なくされた古傷が微かに痛む気がした。
だが、奇妙にもそれは直ぐに霧散した。
殺気から解放されると思わず膝をついていた……まるで全速力で走った後の様に全身びっしょりで呼吸が荒く、辛い。今まで息を止めていたらしく、空気が足りないのか頭がくらくらした。
そして自分の職務をふと思い出し、慌てて少年と犬の居た方向を見る。こんな殺気を放てる存在が外にいるなら尚更引き止めねば…そんな使命感と共に、咄嗟に顔を上げる。
だが、そこには誰もいなかった。
そこに居るのはただ何かに対し真剣な顔をしていた、今は唖然とした間抜けな顔を晒す膝をついた男一人。門を通るのは、未だ春を感じさせない鋭利な寒さを纏う風。
オォォォオオオ
いつのように唸り声を上げ、風は門の外、西側の森へと向かう。奥へ奥へと森を揺らしながら塵や木の葉を巻き上げ空高く、遠く彼方へと駆け巡って行った。気づいたら一人、唖然と風が通り過ぎる様を見送っていた。
「……夢、だったのか?」
先程まで居た筈の姿は跡形も無く、痕跡自体もなかった…まるで最初から存在していなかったかの様に。当然の如く、男は混乱した。どこへ行ったのかと。
そこへ同僚が何事かと駆けつけて来る。
男は自分が未だ膝を折った状態でいる事に気付き、慌てて立ち上がろうとした。そして意外にもあっさり立ち上がれた…これは流石に可笑しい。普通殺気に中てられた場合直ぐに立ち上がる事なんて出来ない筈なのに。ぐっしょり濡れるまでかいた汗までもがまるで幻だったかの如く、無くなっていた。
心配する同僚へは、立ちくらみをしたと言っておく。すると同僚は心配して夜勤を交代してくれると言ってくれた。男は有り難くその申し出を受け入れた。今度奢るとも。
鍵を手渡し門から通りへ歩こうとして、ふとした気配に一瞬だけ振り返る。だが、そこには鍵で門を閉めはじめる同僚の姿しか無かった…さっきそう言えば門の隙間を風と共に何かが通り抜けた気がしたんだが、気のせいか?
「…ま、気のせいだったんだろう。」
最終的に、男は気のせいだった事にした。
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あ、危なかった…
ゴンザレスに跨がった状態で森の影から門番が去って行く様子を見る。そして安心して深呼吸をした。どうやら疲れが出た為白昼夢を見たという結論に至ったらしい。
バレなくて本当に良かった。
しかし、門番が私をガキ扱いしようとした時ゴンが殺気を放ったのには驚いた……褒めるべきか叱るべきか正直迷う。要は雑魚が私を馬鹿にして餓鬼扱いしたと怒ったのだから。まだ一緒に暮らしてそれほど経っていないと言うのに何故にこれほど懐いてくれたのか分からん。可愛く格好いい癒しのモフモフが懐いてくれる分には凄く嬉しいので大歓迎だが。
だが、次回から穏便にする様説得する必要は有るか……後もう少し遅かったらあの門番社会的に死んでいた。主にビビって色々チビって。同僚なんかに来られて見られていたならば、間違いなくアウトだったと思う。
余りに申し訳なく思ったので、詫びとして古傷を直しておいた。
どうやら左腕の節から下と右足の膝下の骨が複雑骨折を起こした事があるらしい。処置が適切でなかったのか所々変な風に繋がれ、更にねずみ(骨折で発生した骨片が筋肉中を彷徨っている状態)が有るのか動かす度に痛みと痺れが有る様子だった。
よく門番の仕事が勤まる…冒険者時代は多分中堅所の上位だろうか。中世の技術レベルでなかったらきっと今は上級者だったろうに、惜しい事をしたものだ。
試作品の準エリクシール(改)をこっそりすれ違い様掛けておいた……汗腺から汗と混じって薬効成分が速攻で吸収される優れものなので痕跡が残らない優れものだ。
以前砦付近の森へ迷い込んできた盗賊をひっ捕らえた時人体実験しているので効果は検証済み。自然治癒で元のあるべき場所へあるべきものが遺伝情報に従って戻るだけだから異常とか副作用とかあんまない筈。難点は、後5年完治するのに掛かる事か……ムムム、やはりあの原料をわざと入れなかった事が駄目だったのかも知れん。次回作はもう少しグレードダウンしたあの素材を使って検証してみるか。
そうこう色々考えている間に、目的地へと到達した。
「さて、こっから狭いし危険だから私も歩く。ゴンは大型犬サイズになれるな。」
ここまで乗せてくれた感謝の意味を込めて首筋を掻き、頭を撫でる。気持ち良さげに目を細める姿は愛嬌があり、いつもの凛々しい姿とのギャップにもえる。軽く毛繕いもしておく。折角の奇麗な白金の毛に小枝や葉が付いているのは本狐としても気分が悪いだろう。宿へ帰ったらマッサージだな。完璧である。
これから行く道についての注意事項を幾つか言っておいた、何せ生死に関わる重要な事だから。
行き先の方向を見ると、夜なのに随分明るい静かな森がそこにはあった。
ふわりふわりと粒か綿毛らしきものが飛び交い、怪しい光を不規則に辺りへ撒く。照らされる木々は大きさこそ威圧される程有るというのにどこか生気が感じられない。葉は萎び、木肌も何処か黒くなっていた。
だが、その足下や胴には所々光る帽子…いや、笠が有る。
完全にここから異質な森。今までのところが初心者〜中級者の森だと仮定するなら上級者〜特急者の森だといえるだろう。それ程景観だったり雰囲気だったりが違いすぎる。仮に、森に人格でもあったのならば多分別人格に切り替わった瞬間を見ている気分なのだろう。
深すぎる森にはこうした現象が見られると以前より魔王から聞いていたが、こうして見てみると改めて壮観だと思える。原因は大概魔粒子濃度が蓄積された結果だとか。中には先の魔王が毬藻にした森の様に多種多様な毒植物を成長させる森も有る。そんな感じでその場の環境で育つものも変わってくる。
ここは茸が大繁殖している様だ…元気はそれ程無いにしても、一応木々と共存関係ができているみたいだ。分解者としての本分とも言えるが、随分と土壌の状態をよくしているらしい。ここの土なら恐らく何でも栽培できるだろう……撒かれた胞子を殺してからでないと使えない様だな。ま、我が家の草食魔王えもんが何とかしてくれるだろう。家庭菜園の話前にしたら興味示して居たし、帰宅後相談でも持ち掛ければ速攻解決するだろう。
依頼と茸のついでに土壌も少し採取していく事が決定した。
しかし、茸が凄い数群生しているな。かつての地球時代見かけた覚えのある類のものも有あれば異世界特有のやつまで色々だ。地球のやつなら、例えば紅天狗茸とか月夜茸とか…あれは木耳か?びっしりと木肌に付いていた。我が家に女性陣は幽霊と怪談組みくらいしか居ないが、多分持って帰ったら喜ぶだろう。採取リストに速攻で追加…ご褒美に渡せるアイテムはあればあるだけ有利だ。
ま、一つだけ注意するべき点はあるだろうがな。そう思いながらこちらに向かって飛んでくる放出されたばかりの光る胞子を指先から炎を出して消していく。同時に自分とゴンの周囲へ薄い結界を張った。
異世界御用達茸も地球と同じ品種っぽい茸も、食用・毒どちらともどうやら攻撃手段を持っているらしい。それがさっきの胞子…大方空気感染して肺から何かしら攻撃するんだろうけど。
動物の気配がここから途切れている理由はそこか。
滑りけのある地面に足が取られない様注意しながら進む。そしてやっぱりというか、ここにはスライムが生息しているっぽく時折結界を張った靴底で力強く踏み潰して核だけ美味しく頂いていく。ついでに時折素材になりそうな茸の採取を注意しながらしていく。
幸い密閉できるボトルはポーション用のものを沢山持っているのでその場で殺さずこうして持っていける。しめじや椎茸の栽培とか増えすぎない程度に抑えてやってもいいかもな。家帰ったら少し考えて見ようかと思った。
そんな感じで恐ろしくも美しい『茸の森』の景観を楽しみつつ、寄り道しながら進んで行った。
暫くして、ゴンが立ち止まる。
「…ああ、着いたな。」
ギルマスの言っていたことを思い出す。
「いいかしら?
現地に着いたら南側の森を目指しなさい。とっても気配が生ぬるい森よ、東側と間違わない様にね。その森を抜けた先には茸の群生地体があるの。その中に…」
見上げて思わず呟く。
「『巨大な移動する茸』を目印って…いや、確かにそうだけど。」
なろうの小説を読んでいた時、ふとこうした幻想的な茸の森の出てくる作品あっただろうかと疑問に思いつつ書いて居ました。あったら多分読みます。
見た目可愛いし美味しいですよね、茸って。その実態は分解者(=地味に生態系上位者かも?)だけあってなのか結構グロかったりえげつなかったりするんですが。けど、なぜか憎めない。可愛いは正義だからでしょうか?
さて、次回は彼らの追って居たものの正体がわかります!それでは次回もどうぞよろしくお願いいたします。




