21 厄介な出来事(その1)
読者の皆様こんばんは。それでは今週の不憫第二弾をどぞ!
「これで最後…」
宿屋は何処行っても満室だった。
この時期都合が悪い事に祭りがあるらしく、観光客が多い多い。逆に言えば、この人通りの多い時期に来なければ任務が失敗する可能性が高いと言う事なのだろう。これだけ人通りが多ければ、そら不審人物が一人二人いても目立ちはしまい。
この場所がドの付く田舎だから仕方ないとはいえ、困ったものだ。
現地へ着いてから宿屋を何件も回っているのだが、子供だと侮られて泊まれないのは誤算だった。冒険者の資格も持てない子供へ社会的信用というのも確かに無謀な話なのだろうが。それ以前に、単純に厩を含めて満室という事態。
現在もう日が暮れかけており、宿を取れない危機に晒されている。
待ちかなでの野宿は正直気が向かない。人外マ境の森ならまだしも、街中は未経験。どこ行っても坊や扱いされている以上、人攫いとか追剝ぎが舐めぷしてくるだろう。問題は、それを撃退するにあたり騒動を起こすわけにいかないこと(成人数名を小学校低学年児童が伸してれば、騒ぎは免れないだろうが)
本当、どうしたものか。
今残す所は、この宿のみ。
建造物全体を見上げ、ゴクリと唾を飲む。
扉は黒檀製の細やかな細工が施されたもの。ドアノッカーは何とも豪華かつ上品なデザインをした金色の獅子。
建造物も周囲と比較して木造でない所からして相当なもの。外装にはおそらく花崗岩(白雲母)が使われており、屋根はあの黒くてすべすべっぽい見た目から、粘板岩だろうか。この世界では魔王城でしか見かけたことのない高そうな石像(真物では無いガーゴイルのことです)が設置されている。
何故にこんなど田舎に高級宿らしきものがあるのか。そして一体一泊幾ら掛かるのか。
ありあわせで泊まれるか、今から戦々恐々である(そもそも子供だからと追い出さないかという問題がある)
そうしてあーだこーだ考え立ち止まっている内に扉が開いた。自動式だったのか……ではなくてだな。
出て来たのは初老の燕尾服姿の男性。これまた高級そうだ。
上下共にぴしっとした着こなし。夕日に輝く眼鏡。グレーな長髪も解れなく無く整え一つに結われてあった。第一印象からしてこのド田舎街に相応しく無い程清潔感が有った。
うむ、是非セバスチャン等と御呼びしたい御老体だ。
そんな風に観察していたら、目と目があった。そして相手が一礼してきたのでこちらも。
どうやら子供であってもちゃんと客と見て礼儀正しく接するタイプらしい。この様子ならワンチャンあるかもしれない。よし。
「こんばんは、此方の宿は空室ありますか?」
舐められるまいと少し言葉に魔力を乗せる。語外に宿に泊めてよねってメッセージ付きで。
だけど初対面の相手に悪印象を持たれない様なるべく感じよく丁寧が語調で。
そんな私へ、セバスチャン(仮)は毅然と丁寧に返した。
「こんばんは御坊ちゃま、ええ空いておりますよ。」
どうぞお入り下さいと流れるように誘導され、私は建物へ入った。
そして、大理石製の内装を見て内心飛び上がった……お値段本格的にやばいのでは、と。
だが、考えるんだライ。今までは宿に入ることすら拒否されていたでは無いか。
家でもいいがちゃんと帰れよ坊主、だっただろうか。それとも、大人をからかうのも大概にしろクソガキだったか。全員こっそり今日1日話すたびに舌を噛む呪いと外出中転んだ先にクソが落ちている呪いを掛けておいた。ざまあみやがれ。
そうだ、金なんて何とでもなる。いざとなればちょっと裏路地で人攫い錬金すればいいのだから(外道犯罪者ライ)あるいは領収書書いてもらって裏ギルドの依頼経費として落とすか(あのギルマスなら何とかなりそう)
それより今は良さげな宿に入れたことを感謝しよう。これでひとまず今夜の寝床確保。
「で、これだけフラグ立ててみたのに足りたと。」
シックな寝室で寛ぎながら、天井を見上げてふと思う。やはり珍しい事に白い。
白い天井や壁はこの世界の街に入ってからは殆ど見かけたことがなかった。ほぼ茶色か黒で、それ以外の色は良くて灰色からかろうじて卵色。
だが、それも仕方が無いことかもしれない。
文明が中世ヨーロッパ前後で止まり、以降一歩も進んでいないのだから。そんでもって、地球には無い便利な筈の魔導も普人族側では進んでいないと来た。
その結果明らかに効率も衛生状態も悪い掃除方法しかないという悲しい現状。
それ以前に壁材となる物質への理解不足で白くする事が難しい状況もある。白色の外装にするなら最初から白い素材でなければならない上、定期的に白色を保つ事がもとめられる。日々の糧を得るのだって余裕の無い庶民には到底手の届かない話である。
一方で、日本よりも町並みが揃っていて綺麗な統一感はあった。
何てことは無い、庶民の家は大体木製か煉瓦で出来ているからである。断熱性と通気性どっちを優先させるかで地域による素材の違いは多々有るだろうが、ほぼ素材の選択肢は無い。安い素材は全部同じで、茶褐色系なのである。
結局、高級な『白』を使えるのはお金のある層。侯爵位以上の高位貴族屋敷か王宮くらいということになる。
そんな素材をふんだんに使用されたと見て良いこの屋敷、もとい宿屋。
さっき案内してくれた見た目執事なウォルター・F・フェルディナント(セバスチャンではなかった…)。彼こそがオーナー兼この館の主だとか。値段は普通の宿の2倍位だったが、建造物から調度品までクオリティーが全体的に高いので今から満足である。
私の選んだセットは一泊風呂と食事まで付いている優れもの。しかも食事は希望が有れば朝食昼食夕飯の3食次いでにお茶や軽食夜食まで付いて来る。風呂、というよりサウナ(=蒸し風呂)も希望が有れば掃除中以外の時間帯幾らでも入れると来た。
だた1つだけ気になった事があった。
「何で私しか客が居ないのか。変な認識阻害の結界とか無かった筈なんだがな。」
それだけが妙な点。
同時に気になるのはそんな状態なのに先歩と食べた夕飯もそうだがサウナにしても全部1級品かそれに匹敵するものを使用している事。どこから一体それだけ捻出しているのだろうと疑問を感じた。
「けど、店主が冒険者やっているなら納得出来るんだがな。あれ程威圧に耐えられる実力なら、な。」
私の初撃(=軽い威圧)を顔色変えずにスルー出来る程の実力なら可能性としては高い。見た目がそれ程強そうでなかったとしても、魔術師や剣士(短剣術)なら不思議ではない。特に後者はヒット&アウェーを求められる為、無駄な筋肉を削ぎ落とした方が良い。
ま、今考えても仕方が無い事か。それより今は依頼が大事。
それも明日だな、明日。今日は移動で相当消耗したから休む事にしよう。朝起きてから色々準備するから…少し早めに起きるかな。いつもの事だから大丈夫だとうけど保健掛けておこう。
「アラームセット。」
現時刻は夜の9時頃であり、起きるのは明日の3時…6時間眠れれるならまだ御の字。最悪昼寝すればいいし。
では諸君、おやすみ。
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実際に目が覚めたのは2時だった。いや、正確には叩き起こされたと言った方が良いのか。
「一体、いや。今そう文句を言っている暇もないか。」
何故こう、次から次へと行く先々でトラブルに巻き込まれるんだろうか。半ば平穏無事な生活を諦めているが、それでも理不尽感が否めない。ぐぬぬ……
「それにしてもセキュリティーどうなっているんだ?」
床へ横たわる素材化した黒っぽい魔物を足蹴にしながら思案する。
宿のクオリティー高いと思っていた認識を訂正する必要が有るか。最重要とも言える安全性が守られていないのだから。
これ泊まっているの私でなかったら確実に死んでいただろう。襲って来たのは低級のデーモン種(異世界謎生物の一種)。鋭い爪に毒を持つ奴らである。生命力が雑魚なので危険度的にはそれ程でも無いが、就寝中の奇襲である。
並の低級から中級の冒険者だったならば、あの世行きは堅いだろう。
「さて、起こすか。セバ、ゲフン、ウォルターさんも一応無事が確認するか。」
そうして部屋から音も無く抜け出した。ゴンは馬舎だから多分大丈夫、と言うより○部さん一撃で吹っ飛ばせるなら恐らく私の方が足手纏いになると思うので放置。
それより一般人(暫定)優先だ。
気配を遮断して部屋を出る。
廊下で魔力感知へと感知能力を切り替えた。幾ら暗視が有ると言え、寝ている私を警戒させない程度のステルス付きの敵だ。気をつけるに越した事は無いだろう。それに格下相手に負傷なんてした日には、親父と魔王に何されるか分かったのもではない。
地獄の修行ブートキャンプか必殺長耳塾か、或いはダンジョン単独ツアーか。
嫌な想像を一旦払拭して、警戒体制を整える。探知上、敵は結構いる。廊下には早速10体前後天井から床まで存在する様子。こちらも同デーモン種か。
デーモン種の最大の特徴は相手を欺く方向に長けている事。特に相打ち狙いで質の悪い状態異常を付与して来る狡猾な連中だ。
戦闘は奇襲で毒爪使う以外は魔術主体。紙装甲魔術師の戦術と同じ。例外はナイトやバーサーカーの剣・肉弾戦。とはいえ、それは上位種なので今は状態異常の魔術式のみ警戒すれば良い。
つまり、状態異常が異常に効果を示さなくなった私のワンサイドゲーム。
故に、警戒していた割りにさっくり片付いてしまった。
正直拍子抜けであった。
すると、起こされた事に対する怒りが沸いて来る。今大体2時45分、起きるの3時。二度寝するには中途半端な時間である。
嫌な笑がこみ上げてくる(深夜テンション)
もうかくなる上は、下手人へ御礼参りするしか無い(八つ当たり)
「さァて、この宿へ呪詛掛けやがった連中をしばき倒しに行くか。」
いや、その前に手当が先だろうと、負傷中のウォルターさんへ近づく。
ウォルターさんは無事だったものの、御老体故なのかそれとも無理が祟っていた為なのか足へ軽度の怪我を負っていた。腫れているので毒にやられたか。
「お客様。誠に、誠に申し訳ないです。私が至らないばかりに……」
申し訳無さげに、無念な表情で平謝りして来る。だがこの人が悪い訳ではない。
「いえいえ、それより怪我直しちゃいましょう。その後事情を大体察したので報復してきますのでご安心下さい。」
怪我治したら清掃作業、終わったら買い物次いでに依頼。
順序が若干おかしい気もするが、気のせいだろう。中途半端に起こされたこの怒りと悲しみと腹立たしさを何とかしなければ次へと進める気がしないし、ストレス解消にはやっぱり新たな食材の発掘が良い。
何より呪詛に晒されて衰弱してっぽいウォルターさんを働かせるのは気分が悪い。
「じゃ、行ってきますんで絶対安静で。」
念のためHPポーションを3つ押し付けて私は夜のまだ明けぬ田舎街へと繰り出した。
さ・て・と、本当に仕返しは何がいいだろうか。
メテオは流石に近所迷惑だしやめておくが、それに匹敵する何かをしてやらないと気が済まない。出来ればホラーな方向で良い案、良い案……
うん、名案があった。と言うか、今の今まであの『迷言』忘れていた私が阿呆と言うべきか。
「召喚からの〜…」
異界から呼び出した異形な連中へ簡単な指示を出すと、流石得意分野であるだけ有って好々として案を出して行く。流石は一時期登下校中な全国の小学生を震え上がらせただけはある。
そうして今回の実行役として選んだ連中を呼び出す。
「じゃ、宜しく頼む。」
報酬は刈った連中好きにするか私の手料理か。選択肢を提示すると、終わってから決めるという声が大多数派な様子。喰らうにしても相手の魂が余りに汚れきっていたら不味いと思うのだがその辺はどうでもいいのか。
「しっかし提案したアタシが言うのもなんだが、エグイ仕返しを選んだね。」
「成長期の睡眠時間奪ったんだから妥当だろう? 私は別に悪く無い筈。」
魔物の肉と血使ってひとりかくれんぼ再現はやり過ぎだっただろうか。降霊する幽霊を『○怨』原産の佐○母・息子というのも度が過ぎただろうか。
まだ『リ○グ』原産ロン毛と井戸が本体の貞○さんや○鬼ならぬ阿○鬼より断然マシだと思うが。
「そういう事ではなくてだな。まあいいや、それよりホラ」
「?」
「アイディア出したんだから酒寄越しな。」
口裂け女ならぬ口酒女はやっぱりお酒が大好きらしい…本当、口開かない・酒瓶持ってない状態なら普通に隠れ巨乳スレンダー美人なんだけど……
「♪酒〜、私の酒〜♫
ん、なんだ? なんか文句でも有んのか? アァッ?」
なんというか、色々残念だった。
執事のウォルターの姿はHELLS○NGに登場する初老の男性姿です。ただ、本作品では『悪役放棄』と違って狡猾で戦闘狂な感じが抜けたイメージでしょうか。只管温厚な印象を面に出している感じです。
ネタバレは良く無いですが、次回以降の予告を兼ねて一応……さて、彼はこのまま穏やかな老人で終わるかいなか。お楽しみに!
それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します。




