19 早まるな…早まるなよ(フリでは無く)
読者の皆様どうもこんばんは、感想・ブックマーク有難うございます!
さて、それでは今週の不憫第二弾をどぞ!
日常的な朝の鍛錬が終わったので少し時間が出来た。普段はこの後『付き合え』の一言で色々連れ回す魔王だが、現在親父に環境破壊とその修繕の件について説教されている。
なんでも、親父の元庭師な幽霊曰く急激な植物の成長で土壌の養分が約10年分は削られたと。どう言う影響が出るか皆目検討もつかないので様子見が必要であるとの事である。つまりまあ、割と大事です……貴重な毒草とか魔草とかが植生しているらしく、絶滅したらどうしてくると親父は御冠状態。対する魔王は反論出来ない様子で小さくなっている。
何だかな…さっき少し感動したのに。
微妙な気分になりながら完全に伸びた状態のギルをチョンチョンしていた。目が覚める様子は無い。しかし呼吸しているので多分大丈夫だろう。例え大丈夫じゃなくても最悪大丈夫にするだろうし…主に魔王(従)が。
魔王の魔術は基本見た目地味なんだが機能事態は相当優れていると言って良いものが多い。但し、効果が有り過ぎるが為に副作用が起こる可能性が高いと注釈がつく点が非常に残念である。
何と言うか、修行方法からも察しているだろうが魔王は何事へ対しても度が過ぎるきらいが有る。ただ本人へブーメランするだけならいいんだが、甚大な被害を周囲が被る場合が多い…しかも本人無自覚。余計に質が悪い。そう言う点、同じく人外で一応常識らしきものが存在する(様に見える)親父がストッパー役買って出てくれているので何とかなっていると言える。
さて、そんな親父だが、さっきからさっさと行って来いと目線を送って来ている…俺が囮になるから今の内に街へ降りろ、と。
有り難くて少しジンと来た。
登録してから暫く顔出ししていなかったからな……もうそろそろ行かないと本気で除名からの指名手配にされ兼ねない。それに新しく出来た血の繋がらない弟のお披露目もしたい事だし。自活を目指す上でも人脈や職は大事だから是非とも頑張ってもらいたいものだ。
そんな訳で行きますか、裏ギルド。
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久々街へ降り、辺りを見回す。
周囲は人、人、人…と時々犬と思しきペット。だが、私やギルに気付いた様子を見せる人はほぼ皆無。寧ろ気付いていたなら騒ぎの1つでも起こっている事だろう。
「…本当にばれないものなのか……」
驚いてキラキラした目で私を見るギル…少しだけ優越感に浸る。修行の成果とも言うべきかな?隠蔽技術は最近になって段々化物じみて来た気がする。
多分師匠が鬼畜でスパルタだからだろうけど。
「まあね、流石に師匠には劣るけ「当然だろ」…そこは少し否定して欲しかったかな」
まさかの即答。
分かってはいるんだがな……御坊ちゃまというか、正直と言うか。悪く言えば遠慮が無い。思った事を口に出す、と言うより気付いたら口に出ているといった所か。
それ自体は別に個性の1つだろうし完全に悪いとは言っていない。仲間・家族としては、嘘を吐いたり虚実交えた事実を誘導する目的で語られたりするより質が大変宜しい。
だが、人・場所・状況を考えずに全員に対して同じ対応をしているというのは相当不味いだろう。早速深刻だといっても良い。特にギルは血筋上や立場上、将来魔人族の頂点に立つ可能性がある。そうなると、政治家となって普人族の手練達相手に立ち回らないといけない。しかも魔人という種族のデメリットとして嘘は吐けない事になっている事を前提として、である。
本人はそれ程重大であると捉えていなかったが、そうした対応せいでここ数日何度か配下の亡霊と揉める事も有った。仲介に入った口裂け女がその時のギルを見て懸念していた。家の外に出すなら目を離さないように気をつけろと忠告まで頂いた。
本人にも一応注意したらしが、多分危機感は抱いていないのだろう。或いは今の所その対応を取る衝動自体が抑えられないといったところだろうか。
実際、今朝の魔王(従)との鍛錬でさえこのスタンスは変えないのだから……そのせいで避けられない一撃を斧によって狙われた訳だ。同時に此方までとばっちり喰らって被害が増えた事は言うまでも無い。
お星様寸前事件は、実を言うと今回だけではない。
訓練の度に毎回冷や汗をかかされるハメになっている。ある意味ギルが鍛錬する様誘導したのは私自身なので自業自得かと割り切っている。達観したとも言うが……だけど被害が1/2になると期待していたのに2倍になるとは。グフッ
最近だと、どれ程凹されてもめげず魔王をディスる姿へは逆に一種の敬意を抱いている。勿論悪い意味でだが。成長出来ない由縁はその辺の頑固さにこそ有るんだろうと何となく思った。
「…まあいいや、兎に角これから行く場所は危険だから変に首を突っ込まない事。もし守れないようなら容赦なく3食親父に作ってもらう事になるから十分注意してくれ。」
真顔で冷静に注意すると、ギルは数日前を思い出したのかさっと顔から血の気が引いた。親父の破壊料理?という洗礼を数日前受けたばかりなのでどうやら効果抜群な様子。
やはり親父の料理(と呼べない何か)は最強らしい…胃腸に訴えSAN値とHPを削る方向で。
「あ、ハイ…頑張ります。」
「よろしい。」
頼むぞ……少なくとも街へ本来捕虜・人質たる『魔王の弟』という要人を連れ出す事へ親父が出した条件なのだから。守れなかったらあの毒々しい明らかに腐敗した何かが…ううぅ、考えたく無い。
2人して真っ青になりながら貧民街を足早に通り抜けて行った。
だが案の定、懸念していた事態となった。
「おいおいおい…勘弁してくれよ。」
乞食らしき老人が衛兵に足蹴にされている姿へ正義感を発揮して手を出してしまった。だがそれ自体は別にそれ程深刻ではない。そう、別に手出ししても良い。
ギルが衛兵を蹴散らした結果老人は今も生存してると思う、感謝もせずさっさと逃げたので知らん。
だが、ギルはあろう事か衛兵へ少し傷を負わせただけで逃がしてしまった…ばっちり認識された状態で。流石に派手な言動と攻撃行動は私の掛けた隠蔽ならば簡単に解ける、特に街中であれば。私のみだったら違ったが、生憎他人へ結界を応用した術式を掛ける方向へはド素人。今まで最凶2名と行動していた故そんな機会が無かったのだから想定外だった。言い訳でしか無いが。
だが言わせて欲しい……手出しして良いのは自分で処理出来る時だけだと。
重ねて言うが、正義感で以て虐げられた弱者を救済する事自体は別に良いとは思う。時代や状況次第ではそれこそ賞賛される行動だろう。
だけどそれが出来るのは、行動に移して良いのは強者のみ。
義勇の心と行動は、所詮は強者の持つ余裕である。自分自身の身を案じる必要も無いある種の隔絶した存在なればこそ、下々の事へ気を配る事が許される。そう考えるとある意味高位の傲慢であるともいえる。つまり、感謝されるどころか余裕ぶっていると助けた相手からも非難される覚悟で行うのが正しい。
それなのに……
弟弟子は自分の事で精一杯胸一杯。その上他人に保護されているという状態。覚悟の面にしても、老人に逃げられた時点で唖然として固まった隙に衛兵達に逃げられる体落。
到底正義感など発揮して良いものではなかった。
「一撃で意識刈り取らない。だからと言って口封じもしない。中途半端に正義感発揮して自分の周囲へ掛かる迷惑を考えない。同時に自身を危険に晒す……
一呼吸置いてから、言葉へ魔力と怒気を乗せる。
“世の中舐めてんのか?”
余計な事をこれ以上言わせまいと、殴り飛ばして意識を刈った。
「悪いが、家まで送ってやってくれ。親父へは後で詫びを入れとく旨伝えといてくれ…今夜ミートローフにするから、親父特製スープはギルだけ飲むと。」
今回護衛兼スラムの案内役を勤めている元スラム浮遊群霊一体へ頼む。魔王弟を抱え、溶け込む様に建物の影へ消えた。同時に周囲に集まって来ていた浮遊霊を希望通り配下へ加えた上でさっきの下衆な衛兵共を駐屯所へ付く前に喰らう様伝える。
嗚呼、こういう汚れ仕事にも馴れた者だな…既に日本人としての殺人への忌避は無いも同然だ。元からこの世界へ馴染む様なステータスにして貰っていたが、それでも少し罪悪感を憶えていたんだがな……最近だと悪人、特に敵意や悪意を此方に向けて来る相手に対しては有る一件以来容赦が無くなった気がする。
さて、愚…義弟を裏ギルドへ紹介するのはまた今度だな。
修行で少しは改善されたと思ったがやっぱり時期尚早だったと考えるべきだな。見極めが甘かったと要反省案件だ。今回の件は戒めとして憶えておこう。将来魔獣を育て訓練する際に活かせればいい。
だがそうなると、今後はどうしようか…一時期魔王グルジオラスへ預けるのもまた1つの手段か。いや、ぶっ飛び過ぎているからあの性格に染まられる怖れも有るし。親父は論外として…帰宅までには考えておくか。
「失礼する。」
相変わらず分りにくい裏ギルドの扉を遠慮なく開く。そして前以上の混沌が広がっている様に一瞬で硬直した。
「オルラ、この〇〇ヤロウ××してるんじゃねぇ!!」
ヒュン、グシャッ
「『ギャァアアアア…』」
「ハァ〜姐さんもっと叩いて、罵って下さい、ハァ、ハァ…」
「爆発は刹那、刹那は芸術…故に爆発は芸術だぁぁぁあああ!!!」ヒュルルルルル…チュドーン
「「「『マッスル、マッスル、ワッショイ、ワッショイ…』」」」ムキムキムチムチテカテカ
「フッ、これだから雑魚は……愚民共の方がまだ己を分かっていると云うものよ。まあよい。結局我が邪眼の前では皆平等に羽虫以下であると理解しているなら、な。」
あの、エリスさん(受付嬢?)…鞭で刃が飛ぶってどう言う事?それと最後のヤツ、お前だけはさっさとくたばれ。
ジャム爺さん(白衣白モジャ)室内で火炎瓶投げんな危ないから。それからそれは最早芸術ではなく犯罪。お巡りさんこっち…あ、やっぱりなんでも無いです。ここ非合法な裏ギルドだった…
筋肉共、ここジムや部室じゃ無い。確かにその筋肉は(精神汚染的)凶器だが、暗殺とかに需要ないし少しは暗殺者らしく忍べ。ここは某忍ばない忍びで狐な世界じゃないんだからな。
最後の受付嬢、もうコメントはしまい…数年後頑張れ、としか言えねぇ。
「私のレミィに色目使いやがったのは誰……あら、久しぶりじゃな「失礼しました!!」…え、ちょっ!?」
パタンと扉を閉める、そしてもう一度深呼吸をしてから扉を開いた。そして視界に入って来る暴力的な惨景を現実であると何とか辛うじて受け入れる…夢であって欲し、かった。
「ちょっと何扉また閉めようとしているの!」
ギルマスの“にらみつける”で既に削られていたSAN値が更に悪化したので“にげる”のコマンドを使おうとする…だが最早逃走付不可の状態異常が掛かっていた様だ。
「「今帰ったら指名手配!!」…あ、ハイ。」
更に駄目押し『指名手配』、死亡フラグ登場だ……親父・魔王居ないし逃げ切れる気がしない。グフッ、無念…色々諦めがついたので内心盛大な溜め息を吐きながら、渦中へと踏み入れた。
そして改めて思った、私の判断は間違っていなかったと。
それはそうだろう…………確かにギルにこの『カオス』は早い。気のせいとかでは無く、染まったらヤバいイロモノ系しかこのギルドには居なかったらしい。
そうだな…暫く親父と魔王に稽古つけれ貰えば良いか、私みたいに。
前話に関して色々訂正箇所が見付かったので、行間とまとめて処理する予定です。もう暫くお待ち下さい、申し訳ないです。
それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します!




