199 契約への署名
皆様お久しぶりです、大変お待たせしました。ブックマークありがとうございます、今後も頑張ります!
それでは今週の不憫をどぞ!
村の取り決めや家や魔術式に関する引き継ぎ諸々が終わった頃、エリックは5年で次代を育てて冒険者になる決意表明を私へしてきた。
農業初心者も、そのくらいあれば立派な農家になれると主張したエリック。
5年か……なら、私がエリックの先輩になるわけだ。
ちょっと想像してみて、あんまし違和感なかった(今と大体同じ?)
そういえば5年も経てば、殺人を伴わない犯罪のバッドステータスは大体消える。職業欄の『盗賊』の文字も消えるだろうし、問題なく冒険者になれる。
契約が切れる件で少し寂しい気もするが、こればかりは仕方が無い。
「なら、その頃連絡してくれよエリック。うまく都合があれば落ち合って冒険しような」
「俺でいいなら、頼みますよ若旦那」
そう伝えると嬉しそうに笑うエリック。その様子に、契約が切れてもおそらくこの関係は変わらないだろうと思った。
尚、冒険のお供にはキュウリと茄子が付いてくとのこと。
さて、あとはジーク兄貴の返事を聞きに行くだけだ。
親父と魔王は説得済み。
2人とも渋ったので、ジーク兄貴の抱える問題点を話した。特に、【双子共鳴】スキルの詳細、それにより受けた影響と思しき症状について。それで結局折れてくれた。
耐性系スキルに関して、親父は特に責任を感じたらしい。自分の料理が原因で私も蝕んでいた可能性があると気付き(今更)落ち込んでいた。
「あれでも素材的にアレだが一応解毒作用のあるものを使っていたんだが……悪かったな」
そう呟く親父。それより親父のアレと称した素材に恐ろしくなった私はきっと間違ってはいないのだろう。結局否や予感がしたので、今は聞き出すのをやめておいた。
それより次に親父の発した言葉の方が問題だった。
「種族が変わっている件に関しても、実は心当たりあるんだが……今はまだ話せない。修行で十分な力をつけてからでないと危険だ」
せめて俺から20本中1本は取れる程度はとってみろ。そうしたら、18歳までに教えてやる。そう続けた親父。
今まで鍛えてはきたが、私は未だ弱い。大陸という限定された地域規模で見ても上位に食い込まない程度なのに世界規模で見れば雑魚もいいところだろう。
こんなんでは、まだまだ自分の身を自分では守れない。
仮に今親父が真実をいえば、それを聞いた私は関係各所から狙われるようになるのだろう。それくらいやばい事実が血筋に隠れているのだと思う。
そうなったら最後、命を落とす。
親父も魔王も強いが、多勢に無勢。到底守りきれないとのこと。それ程深刻で厄介な事情を私は血筋に抱えているのだということだけは理解した。
……平穏を求めているはずなのに遠いところへ来てしまった。けれど、今よりもっと力をつければ、そのうち敵はいなくなるはずだ。そうなるまで頑張らねば。
「さて、兄貴はどうする? アンネ義理姉は?」
仲良く筋トレしていた2人の元へ行って、尋ねた。
多分後3日もしないうちに一旦帰らねばならない。特に裏ギルドのジャミール爺さんの安否助けないといけない。今回は予想以上にいい働きをしてくれたので、ボーナスもつけようと思っている。
それに、冒険者ギルド幹部と教会上層部へ与えた被害に関しても、その反響がどうなっているか知る必要がある。
冒険者飯の工場は潰れたので、半永久的にあの粗大ゴミもとい冒険者飯は販売停止になると思われる。成分調べると家畜のエサ以下なので、衛生上も問題あるしよかったのでは無いかと思われる。
一つ残念なことは、壊れた工場の解体前に事故原因探求やリバースエンジニアリングしないことだろう。
「俺はお願いしたいかな、ただやっぱり仲間は心配なんだよね……なんとか連れて行けないかな?」
そう尋ねた兄貴に私はこう答えた。
「君たちの実力では確かに、人外マ境での暮らしは厳しいだろうな」
四季が年間何度も変わり、唐突な嵐や落雷に追われ、魔物暴走だってしょっちゅうある。さらに砦は断崖絶壁にある事から雨雲が留まった場合には崖崩れの危険がある。
挙げたらきりがないが、人間の、ましてや保護者のいない子供が生きていくにはあまりに危険が多い環境と言えた。
そして、それ以外にもあの場所は生者にとって住み辛い地になっている。思い出すのは、現在人口ならぬ霊口が増えすぎたせいで常に肌寒く生暖かい怪しい雰囲気のある我が家。加えて、増えすぎた幽霊のせいで時々起こる霊力過多による災害。
多分、移り変わる季節のうち冬が圧倒的に多く、よく雪や霙が降る理由はそれが原因だろう。
だから、あの地で生存するには、半獣族の様に強靭な肉体を持つか、最低限幽霊を始めとする霊力を吸う連中へ耐性があるか、あるいは何かしら対抗できるスキルを持つ必要があるだろう。
それに、家屋の中も下手すると親父(骨董品)のせいで呪われているのかも知れない。最近家から出る前変な音が聞こえていたのである。
……ちょっと帰ったら見てみるか。
それ以前に、修行ともなると結構あの2人無茶振りするから、それに耐えられるならってところか?
「どうする?」
悩ましげな顔をする兄貴。究極の選択を迫られているのだから仕方が無い。どちらの道も茨の道だが、どちらかしか採用できない。
考え込んでしまった。さて、本当にどうするのだろう。
夕飯が終わり、帰宅の準備をしている最中。兄貴がテントに尋ねてきた。
「ちょっといいかな?」
「ん、決まったのか。わかった」
幽霊に後は任せて、兄貴の背中を追う。
そして行った先は森の中。気配を察するに誰も無い、いや、アンネ義姉がいるか。
さて、一体どんな話を持ってきたのか。
「結論から言うと、俺は弟、お前と一緒にお前の家に行きたい。けれど、弟分が心配なんだ……だからお前に頭を下げて何とか顔を定期で見れるようにしてくれるよう頼むことにした。頼む」
頭を下げる兄貴。
なるほどね。私に全部ゆだねるということか……ま、悪い選択肢ではない。
「確かにそういった手段はあるね。あるにはあるんだけど……今の兄貴では無理だ」
パッと嬉しげに顔を上げるが、すぐに萎びた兄貴。影にいるアンネ義姉の目線が攻めている様だな。思わず苦笑を浮かべた。
「アンネ義姉もちゃんと一緒に聞いていいよ、隠れていないでさ」
別に隠すような話でも無いし。それにである。
「アンネ義姉は、私の個人情報持っている関係で絶対来てもらうから、無関係ではいられないよ?」
その言葉にパッと驚いて出てくる義姉。兄貴も流石に驚いた顔をしているが、同時にどこか合点がいったという表情を浮かべていた。
少し怖い表情で睨みつける義姉を兄貴が首を振って宥め、私へ降参するように両手をあげる。
「じゃあどのみち選択肢は実質ないだろう、俺も行くよ、というかお願する。ただ、方法があるなら顔を見せる手段を教えて欲しい。何だってやるからさ」
……ん? 今大事なこと言ったな、兄貴。
「今、何でもやるって言ったけど間違いない? ねえ?」
ニヤリと笑って私がたずねると義姉が苦虫をかみしめた表情を浮かべ、兄貴は苦笑を浮かべて頷いた。
「ああ言ったよ。ただ、俺と義姉の命はちゃんと保証してくれるんだろ?」
「……そらそうだよ、私をなんだと思っているのさ」
ブスッと言い返すと、兄貴がならば任せると本気で言った。おいおい、本当にそんな安易に言ってもいいのかね? まあいいけど私的には。
「そういうわけで、兄貴もここにサインよろしく」
かつて魔王と親父が私へ書かせた契約書。まるっと同じものを2人に用意させてこの日のために取っておいたのである。
尚、私の他にこれへサインしたのはギルのみ。とっても大変な目に遭っている。きっとここにいたら「おい馬鹿やめておけ」と騒ぐことだろう。
そして、兄貴はそこへサインした。
『ジークハルト・ルツ・フォン・*****』と、実名フルネームで。
今年もよろしくお願いいたします(^^)




