197 逆転裁判と弱肉強食
読者の皆様どうもこんばんわ。ブックマークありがとうございます、今後も頑張ります!
それでは今週の不憫をどぞ!
一時パニックに陥り収集がつかなくなりそうだったところをなんとか魔王が収めた後、エリックに事の次第を尋ねた。もちろん野菜被害者の会一同で囲んで。
皆いい笑顔を浮かべている。
ここ数日強行軍の如く移動し、やっと安住の地に着いたと思ったところで突進してきたホラー野菜連合。奴らのひき逃げ被害者は私だけではなかった。慌てて結界張らなければ赤子を含む子らに被害が及んでいたかもしれない。
魔王に凹られ青タン作ったエリック。
元仲間から散々説教を受けて情けなく鼻水を垂らして下を向いていた。一応後悔はしているらしく、グズグズデモデモ言いながらも謝罪はした。
だが曰く、反省は全くしていないとのこと。
「で、一応言い訳は聞くが?」
野菜連合群を見る。
今はミニサイズになって周囲を旋回する野菜。目鼻口が穴なので表情こそわからないが、どうしていいかわからずオロオロしていることだけは伝わった。
そう、我々に恐怖と混乱を加えた彼らに謝罪もさせず、解散させるつもりはないとのこと。しかも、である……
「野菜のあの顔なんとかならなかったのか?」
「『「え、そっち?!」』」
これ結構大事なことだと思うのだが。
巨体の野菜に埴輪みたいな目鼻口という発想がまず私には理解できない。もっとこう、巨大化させるにしても可愛くはできなかったのだろうか。幼児向けアニメキャラの着ぐるみみたいな感じで。
そうすればもっと子供受けも良かっただろうに。
だってほら、某夢の国マスコットも大人気だろう? リアルネズミは結構嫌われているのに。まして人間大で現れたら全員逃げるだろう。そういうB級映画もあった気がするし(適当、だけど実際にあります)
そう思って尋ねてみたのだが、周囲からは頭を抱えられ、親父はため息ひとつの後頭を殴られた。
「痛い、普通に痛い。親父に殴られた。」
涙目で親父を睨むと、ちょっと黙っていろと言われてしまったので隅っこへ行くことにした。いいもん、子供達にはわかってもらえ「それより、そのやさいさんてなに?」「うん、顔こわいとかどうでもいいけど、すごく気になるな!」……
「ほら、これこそ真っ先にするべき質問だろ?」
子供ってたまに残酷だな(9歳児)
バツが悪そうに目をそらすエリックは、ため息をひとつ吐いた。
「話せば長くなる話なんだが……」
我々3人の去った後1週間くらいはアンドレイと共に街の整備をしていたらしい。特に畑仕事は一から習ったとのこと。
あらかた指導が終わってアンドレイが勝手に帰還した後の1ヶ月、気が滅入ってしまったとのこと。今まで孤独に過ごしたことがなかったせいで1人で待つのが辛かったのだと。
そして、畑仕事をしている最中ふと呟いたのである。
「誰か一緒に過ごしてくれる人いないかなぁ」
などと。
そしたらなんと、育てていた野菜が一気に育ったではないか。挙句、どんどん巨大化していく。慌てて周囲を見回すと、手入れしていた野菜全般でも同じことが起こっていた。
気づいたら、野菜たちから念話が届いてきた。
《ますたー》
《ますたー》
《ますたー》
・
・
・
不気味な見た目と反してとても慕ってくれる野菜たち。彼らは曰く、精霊未満な存在の憑依だとのこと。
魔粒子を潤沢に含む特殊な土で育ち、エリックの魔力が馴染んだ彼ら。その上魔族の呪詛を抑える特殊な術式の発動した特殊環境下で育ったことが原因かもしれない。
あるいはエリックのスキルが原因か。
「だが、それで街の清掃だとか整備とか、畑仕事や道具作りまで色々やってくれたんだよ……こんなオレをマスターと慕ってくれるしよ。」
だからなんとなく怖い顔しているけど愛着が沸いちまってな。
だから、悪かったから消さないでくれ。
オレが、オレがおめぇら見てつい、突っ走っちまったから。敵だと思ったか、オレの真似しちまったんだよ。今度からはちゃんと言い聞かせるから、見逃してくれ。
そう嘆願するエリック。
困ったようにエリックを見上げ、主人を困らせている元凶たる我々へ威嚇する野菜たち(魔王と親父の睨みで撃沈するが必死に争っている)。
そして、周囲から冷たい目にさらされる我々。
「……おい、これどうするよ?」
「……私に聞くな。」
親父に収集つけろと言われ、無理と突っぱねる私。魔王は兎も角としてこういうのは貴族たる親父の方が得意なのではと耳打ちすれば、生前ぼっちだった自慢をされた。これ、どう返答するのが正解なのか。
とりあえず、魔王同様親父が使えないということは理解した。
さて、この状況。マジでどうしたものか。
なんか気づいたら、野菜轢逃げ犯が悪いはずなのに我々が悪役になっている。これ、許さなかったらダメなパターンではなかろうか。じゃないと器が小さいとか不評被害を受けることになるやつだろう?
かといって、許すといったら言い出しっ屁として後々問題起きたら全部私のせいにされそうだし。本当、どうしようもない。
そう思っていたら、案の定子供たちが足元に来て……ん? こっちを見上げてキラキラした目で見つめてくる2人。
「ライにぃちゃ、うまうま?」
「おいちぃ?」
それは、あっという間の出来事だった。
2歳児の食いしん坊組2人がミニ野菜へと近づいていく。
咄嗟に逃げ出したブロッコリーやかぼちゃ。それに続くレタス、キュウリ、ほうれん草、他。それらはまだよかった。
しかし、リア充完熟トマトとピーマンはその場に留まっていた。
気づいていなかったのだろう。だって、彼らはずっと2匹だけの世界作って周りから隔離していたから。
2歳児の影に気づいてからでは全てが遅かったのだった。
この時私は、熟して赤くなったピーマンは甘くてフルーツみたいに美味だったことを思い出していた。相当気をつけて育てないと収穫できないことや、さっさと食べないと腐ることも含めて(閑話休題)
2人の手が伸びて、捕捉され。瞬く間もなく2人の口元へと近づいていく赤い物体。そこには慈悲も情もなく、弱肉強食な食物連鎖の世界が繰り広げられていた。
ガブリ、もぐもぐ……どどーん
「「!!?! ンマウマぁ、もっと!!」」
あっという間に食べた彼らの目先には、逃げた野菜たち。どれも完熟食べ頃。どういう原理か知らんが、季節外れのはずの野菜も人外マ境の荒野育ちのせいか旬無関係に収穫できる。
そして、ターゲットロックオンされたレタスとキャベツは……なんとか逃げ切った。最後の方は息荒げて泣きながら全力疾走していた。野菜連合突進中より早かったかもしれない。
「ゲップ……ねむねむ」
「グエップ…………むにゃむにゃ」
腹ペコモンスター2名は食後の運動に疲れて、そのまま寝入ってしまった。いつものパターンである。平和そうに野菜の夢でも見ているのか、時折周囲の野菜たちがビクッと震えていた。
もう一度言うが、止める間も無く行われたあっという間の犯行だった。
この一連を見ていたエリックは、涙目になり、うるうるし、そして……
「あ、あいつらならしょうがないかな。特に思い出もなかったな。」
全然大丈夫だった模様。
それにしてもあのグルメな2人の児童がヨダレ垂らしながら追いかけるほどということは、である。
「なるほど、美味しいのか「やめなさい。」」
親父に空気読めと叩かれる私。いや、悪いとは思っているが、たぶん全員が思ったことだろう。見回すと、確かにそんな表情を浮かべている大人たち……ついでに親父。
エリックは今度こそ涙目になっていた。
「おねげぇだから、こいつら見逃してやってくれ!!」
頼み込むエリック。
ちょっと悩みつつ、エリックへ質問する。
「でもこいつらの食事とかどうするんだ? ついでに我々の食事も収穫物食えなきゃ飢えるぞ?」
その質問へは、エリックの野菜連合が答えてくれた。
貧農エリックが世界へ追加した新種族『野菜人』。別に覚醒して金髪になったり手から光線出したりはしないそうです、今のところ(え)。美味しく愉快な隣人です、可愛がってやってください。
尚、前半で出てきた巨大ネズミの映画って『BEN』という作品です。今は亡きKING-of-POP幼少時代の歌声が3作目に使われています。ホラー作品なのにほっこり泣ける作品です。




