194 覚悟
読者の皆様どうもこんばんわ。ブックマークありがとうございます、今後も頑張ります!
今回は少し短めで、シリアス入ります。それでは今週の不憫をどぞ!
あれから結局2ヶ月かけて砦に戻ってきた。その間襲撃(魔物)とか襲撃(教会)とか色々あったが、とりあえず離別した人々以外に死人が出なかったことだけは良かったと思っておこう。
とはいえ、全く別れがなかったわけではなかった。
悲しいことに、教会の教えが浸透しすぎたこのご時世。やはり、魔族・魔人族を嫌う人や関わりたくない人は一定数いた。そして、そういう人々が回復次第途中から離脱していったのである。
多分今頃殺されているか、あるいは、捕まっているか。例えまともに生存者できても、街には行った時点で詰むだろう。末路は教会に捕まるか始末されるか。
苦楽を共にして少しでも情が湧いた分あの別れはだいぶ気が滅入った。
多分教会の襲撃者が襲ってきた時、一生追われ狙われる状態が嫌だと感じたのかもしれない。あるいは、集団の歩みを少しでも早めたいと離脱したか。
特に高齢者の離脱が多かった。
寝たきりだった老人が突如起き上がり、教会の信者として一緒に居れないと騒いだのである。そして、彼らは親父特製ポーションの空き瓶片手に森の中へと消えていった。
止めようとしたんだが、覚悟を決めた大人を止めることは無理だった。あの全て悟ったような、静かな表情に説得は不可能だった。
すれ違いざま達者でなと声をかけてきた彼ら。その夜、野営中遠吠えが絶えなかった。おそらく、もうこの世に……
彼らももう少し私に力があれば、無理にでも連れて行けたかもしれない。
「落ち込むなとは言わんが、それを表に出すな。」
魔王が言う。彼らの覚悟に対して失礼だと。
教会や奴隷商人に売られた人々。元より廃棄処分予定の奴隷だったと話していた彼ら。親父特製ポーションで体が動くと調子に乗った後、よる年波には勝てないと眉が下がっていた。
移動時は毎度すまなそうに謝ってきた彼ら。圧倒的に集団の足を引っ張っている、情けない、申し訳ないと介護担当者へ漏らしていた。けれど、生きていたいと
。
そう、生きたかった。死にたくなかったのである。なのに、自分から死地へ向かっていった。
そして彼らは幽霊になることなく、成仏した。自分たちの行動に満足したから。良い人生を歩めたと、人生に納得したから。
もっと、自分たちの生涯を呪ってもいいのに。
わかっている、わかっているとも。だが……
「それとも、それをお前の悲劇ぶりたい気持ちで彼らの高潔な意志を汚すか?」
ただの自己満足にしかならんがな。
そう語気を強めた魔王もまた、悔しいのだろう。魔王が『魔王』として、現存する100数名に受け入れられたのも彼らのおかげだったのだから。
異種族問題以前に『魔王』であることを、実をいうとシニア世代は初対面で知っていた。
そして、人生数十年生きれば価値観だって固まるのに我々を非難しなかった。どころか、パニックになりかけていた大多数の人々を宥め説得した。説教していた。
そして、不年寄りと仲良く話している姿に子供たちが一番早く魔王を受け入れた。続いて傍観していた人たち、そして、私の作った食事を拒否した人たちも。
だから、魔王も悔しいだろう。もう会えないのだから。
「わかっているよ、」
砦について全員いるか確認した後、総勢70人弱の老齢な勇者達に黙祷を捧げた。面倒見てもらっていた子供や介護していた人たちは泣いていた。
彼らのおかげで3ヶ月で済んだ。この時間短縮の意味は大きい。
おかげさまで、教会の追っ手を撒けるのだから。
「だから、彼らの自己犠牲に意味を持たせるためにもさっさと行こうか。」
魔王に返事をし、私は砦のメンバーに声を掛けて明日には出発できるよう準備を促した。
ハーメルンのメンバーとの約束を守ったことで、今後冒険者登録する際私の後見人になってくれることが決まった。同時に、少し常識を教えてくれるとハムルさんに言われた。
「多分このままいくと、同じ間違いをすることになるだろうからな。」
今でこそ力をある程度誤魔化しているが、過去目を付けられた経験があると話すハムルさん。同時に、私も既に目を付けられているだろうと。
思わずハムルさんを見ると、冒険者ギルドAランク以上に対する通達を見せてくれた。
「そこに載っている子供ってお前さんだよな?」
確かにそこには心当たりある特徴が書かれていた……狐を飼っている貴族連れの子供の情報求ム、と。しかも、時折幼子やスライムを連れていると。
出没場所は裏街、裏ギルド、元賭博現観光『フォルスダウン』、他。
なるほど、あの最初の依頼か。もしかしてアランだろうか。場合によっては帰ったら没シュートするか、人外マ境の中級ダンジョンへ。
いや、それはさすがに早計か。
悩んでいると、ハムルさんが小声で呟いた。
「君は隠しているが隠していないからなぁ……もう少し自然に実力は隠さないとな。」
アレを基準にしているからしょうがないだろうけどと、魔王を指差しながら笑った。それに関しては私も同意しかない。
「いいかライ君、実力は隠していい。だけど、隠し方が悪いとすぐ見つかる。そこまではいいね?」
「うん。」
「完全に隠すのも、魔王レベルの標準で隠すのも、普人族の街に入れば悪目立ちする。けど、それが君の今の状態だよ。」
君はステータスを見ていないみたいだから、それも原因かもしれないね。そう付け加えたハムルさん。思わず目をそらすと、苦笑しつつ続けた。
「実は目立たない方法って、見た目に見合った実力を敢えて表出しておくことなんだよね。」
魔人族・魔族と呼ばれる我々にありがちな間違いだったけど。そう続けたハムルさんの目は、悟ったような表情を浮かべていた。
「ライ君も覚えておくといいよ。ついでに、君が建てた街に着くまである程度見立ててあげるよ。」
ステータスはこちらに見せなくていいけど、自分で見てある程度今の実力は把握するといいよ。そうアドバイスするハムルさんに私も覚悟を決めた。
尚、犠牲になった高齢者達にもちゃんと一人一人物語があります。ここで語れないのは残念ですが、その内彼らに関しても回想等で出てくるかもしれないです。




