95 おやぢちゃれんじ(その3)
読者の皆様投稿が遅れて申し訳ないです。行間は後日調整します。
今回はきりがいいので短めです、それでは今週の不憫をどぞ!
さて、念のため霊を全て引き離してみたがやっぱり親父の言う通りどこか落ち着かない気分になる。なんというか、周りが全部敵だらけ、みたいな。原因は、普段ブロックされている自分以外に向けられた悪意とか害意が存在することを敏感に感知したことだろう。
現に、レミィリアさんからパクった魔眼の術式を自分へ展開すると怖い思念が色や形になって見えた。具体的に、輪郭のぼやけた黄緑色のモジャモジャだったり、細かい棘の密集体だったりと、バリエーションは様々。というか、一見するとカビっぽく見えなくない。
そしてそれらはなぜか私を明らかに避けていた…いや、私の周囲だけ消えていた。
あれか。さっきやりすぎた霊圧、アレの反動。
よく観察してみると、カビっぽい何かが霊圧の通ったと思しき所を主に避けていた。私が某野菜な人みたいなイメージで力を解放した際、ブワッて広がった場所だ。
だとすれば、私の霊圧って洗剤や紫外線か何かだろうか。そして悪意は殺菌消毒されたのか。
というか、これを使えば人とかに入っている悪感情とか色々消せるのでは。どんな相手にも悪意を抱かせないようにすれば説得とか勧誘とか容易になるし、新興宗教とか欲しがりそうだな。結構やばい能力かもしれない。
…よし、気のせいだということにしておこう。
気を取り直し、気絶した幽霊を全て部屋の隅にまとめる。そしてその上から何重にもプロテクトを掛け終えた。これでミスティフコッカスは近寄れないだろう。
なら安心して行くか。
自分から霊を剥がした反動で感知できる悪感情、実はさっきから同じ箇所に密集していることがわかっている。まるで何かを恐るかのように、ある一点へと逃げようとしていた。
その恐怖の感情へ、思わず笑みが漏れる…予想通り、と。
相手は相当焦っているらしい。それもそうか。私がそうさせたから。体を維持できるリソース源を切れば、自然と共食いする他ないだろう。
そう、実は現在ミスティフコッカスは兵糧を絶たれた状態にある。
奴らが国民へ使っていた『魂をよこせ』などとふざけた術式。あれを今まで入念に読み返していたのはこれを利用しようと考えていたからである。
そして、王宮へ入るまでに行ったことの一つとしてこの術式の『魂を輸送せよ』という箇所がブロックされるようにした。途端、面白いように吸い上げられかけた魂の情報は元の持ち主へと帰還していった。まるで引き寄せられるかの如く。
いくら強力な術式といっても魔王や親父に比べたら敢えて言おう、カスであると。元の持ち主の一部だったものを無理に引き剥がし吸い取ろうとしても、吸い口が1つしかない以上それを絶ってやればあっさり戻るのは至極当然の結果であった。
そうして彼らは順調に得ていた糧を失い、気付いたら王族の結晶も全て回収された後。そして王子と王の魂はなぜか側妃様以外行方知れず。シャンデリアか消化器かは知らないが。
そうして結局彼らは増えた自分たちを消耗することにした。
では、そこへ極上の魂を持った者が現れたら彼らはどうするか。しかもその魂には保護を全て引き剥がされた幽霊に等しい無防備な状態。
想像して再び笑みを深め、その場所へとまっすぐ向かった。
そして、部屋に着いた時点で私は意識を暗転させた…さてここからが本当の勝負。
思い出すのは前世の生物で習ったミトコンドリアの話。
酸素を使って活発な動きをする細胞と巨大化して集団になったほぼ不動の細胞。地球の生命体が全部単細胞だった時期、派手に生存争いをしていたらしい。だがある日生存するために融合した。
どんなやり取りがあったのか不明だが、結果的にミトコンドリアはATP農場として巨大な細胞の配下のようなものとなった。
そして単細胞で行われたこのやり取り、実はバクテリア相手にアメーバが行ったことがあるらしい(※これは事実です、米国で発見されました)
さてここまでの話で皆さん、私が狙っていることお分かりいただけただろうか。
そう、敢えて私は相手を取り込んで自分の中で飼ってしまおうと考えたわけだ。
何を馬鹿なことをと思われるかもしれないが、しょうがないと言っておく。だってもったいない精神と物欲ならぬ部下欲センサーが働いたのだから。
それに、人や国を死滅させた件は確かに大変酷い話であるが、あれらの原因はあくまで賢者で愚者な1人のマッド術者の責任である。そしてそいつは死亡どころか存在ごと消滅してしまった。
仮に消える瞬間意識があったならば、さぞ悔しがったことだろう…研究を続けられず、人様に迷惑がかかる術式だけ残して逝ったのだから。
それで被害者が浮かばれるというわけではない。だが、術式には罪がないのだ。むしろ、こんな術式にされてしまったことがすでに悲劇的すぎる。それほど術の構成方法が野暮であった。
しかし、だからと言ってこのまま放置できないのも事実。
このまま放置した場合、親父の頃以上に国を幾つか壊滅させてからきっと無くなる。だが、またその数百年後辺りで発生して猛威を振るうことになる。潜伏期間を経た分、より巧妙で面倒…厄介なやり方で。
そんなことになったらそれこそ人類V.S.ウィルスであっという間に人の文明は衰退。きっと文明を受け継げなくなって、あっという間に旧石器時代とかに戻ってしまうことだろう。
考えてみよ。
言葉が通じず狩と採取の不安定な食物衣服供給に加えて野宿…しかも病気とか怪我ですぐにアボンする。これではブラック企業とか鼻で笑うレベルの惨憺たるブラック人生である。
というか、今でさえ元日本人として許せない文明水準がさらに下がるとか…これを許してなるものか。否。断じて否である!
ただ壊すのも嫌だしかし放置もできない…だったらもう自己責任で突撃してからの飼育の他ないだろう。
そうして、王子と王(へ取り付いたミスティフコッカス)に向かってダブルチョップをかましたのであった。やったことは不敬どころか処刑レベルだが、反省も後悔もない。
というか、私は悪くない…はずである。
部屋に入っていきなり襲ってきたので反射的に動いてしまったのだ。反射的に相手へチョップを入れるのはもう仕方がないだろう…グーパンしなかった分許してほしい。
泡を吹いて倒れた2人、その周辺に散らばる給仕や護衛騎士の残骸…そこからウネウネと、黒い鎖が出てきた。それが私へ一斉に集まり意識が暗転した。
最後に親父と思しき男が叫ぶ姿を見えた気がしたのでとりあえずドヤ顔サムズアックしておいた。
大丈夫、問題ないと。
状況は間違いなくシリアス…である筈。




