第八話 勇者の自意識は絶対過剰!?2
「ど、ど、ど、どうしよう勇者が攻めてくるぜこんちくしょー!」
「兄様落ち着いてください、途中から発言がおかしくなっています」
「つっきー、まわり壊しちゃ、め、だよ」
「主はなにをしているのだ?」
「分からないなの、でも壊しちゃだめなの」
「報様は勇者が攻めてくると聞いて焦っているのでしょう」
「焦って壊すレベルじゃないと思うな。というか月様に勝てる奴なんて居る訳無いのに」
閑話休題
「うん、ごめん。焦り過ぎちまった」
俺が焦る間にやってしまった所業を今此処で懺悔しよう。
まず第一に手当たりしだい荒地に聳え立つ岩山を拳で破壊。その結果最初にいた地点から直径十キロメートル圏内が更地になった。ちなみに十キロメートル移動しても空白の大地からは出れなかった。
そして第二に八つ当たりの対象が無くなった事で地面を破壊し始める。結果、一箇所に最大直径およそ一キロメートル、深さおよそ二キロメートルの大穴が開いた。まだ埋めていない。というかその分の土を消滅させてしまいました。穴は下に行くにしたがって小さくなる円錐型。
第三にそれらの行程に於ける魔力の放出によってまたもや霊樹が増える。あっ、でも霊樹って壊れないんだね。どうやら霊樹は魔力が具現化したものらしく、生半可な攻撃だと跳ね返され、半端ない威力でもその霊樹を構成していた魔力が移動して別のところに生える。まさしくチートだね。情報提供者はしろ。と、いうかしろほとんどなんでも知ってるなぁ。本人曰く、「たまたま兄様の知らない内容を知っているだけだよ」だそうです。……お兄ちゃんを悶え死にさせる気ですか?
「とりあえず、迷宮でも設置するかぁ」
ちなみに神共からふんだくtt……享け賜った≪絶対過剰切札≫と≪超能力『全能の瞳』部位:右目≫、≪超能力『構成の瞳』部位:左目≫を使用する。
≪絶対過剰切札≫に含まれる切札の説明は全部は受けていないが迷宮に関するところだけは聞いてきたのだ。≪傲慢≫≪嫉妬≫≪憤怒≫≪怠惰≫≪強欲≫≪暴食≫≪色欲≫、俺は最初これらに対応するシリーズの迷宮を造ろうかと思っていたのだが如何せん一つ問題があった。ボス、所謂ラストボスはどれにするかと言うことである。七つの大罪は厳しさの順番で言うと≪傲慢≫が最も重い。だが≪傲慢≫に拘る必要は無いのではないか。そこでたどり着いたのが≪原罪≫である。原罪といえば神が造った楽園の中でアダムとイヴが犯し、その罪は全人類に染み渡っていると言われるあれだ。
十番の≪原罪≫。美しき楽園の庭に赤い果実を実らせた一本の木がある。木の幹には緑色の蛇が巻きつき、木の隣では男と女がその赤い果実、神に定められた禁断の果実を口にしているという絵。
≪超能力『構成の瞳』部位:左目≫を使用し作製する迷宮を思い浮かべる。≪超能力『構成の瞳』部位:左目≫は思い浮かべたイメージがはっきりしていて、時間をかければ無生物なら造り出せる。もしくは他人のステータスを覗き見できるという二つの能力が含まれたもの。≪超能力『全能の瞳』部位:右目≫は火、水、風、土、光、闇、無の七属性を使えるようになり、七属性全ての魔法を無詠唱で発動できる超ハイクオリティな超能力だ。今回は≪超能力『構成の瞳』部位:左目≫の補助を行なう為に使う。
イメージとしてはラストボスのいる迷宮だからやっぱり魔王城に似せた西洋風の城かな。城壁の色や内装の色はもう既に決めている。後は階層とかボスの位置とか階段の位置とか仕掛けとかモンスターの出現場所とか……途中からみどり達も交えた会議になっていって図案が完成したのはそれから六時間後のことだった。
「あ~やっと完成。皆お疲れ様!」
完成した城の中ではいろんな引越し作業が行なわれていた。まず、霊樹の一部の迷宮への植え替え。なにやら精霊達が協力してくれるらしく数百本が城の中に移された。
今回作製した城は迷宮であると同時に俺達の住処にする予定だったので、『居住・生活フロア』と『迷宮フロア』に分けて作製した。
ちなみにこの迷宮の名前は『白黒失楽園』と名付けられた。迷宮の名前は入ってすぐにある絶対に壊れない不滅物質設定されている看板に刻んでおいた。勇者は多分律儀に読んでくれるだろうと信じている。だって勇者だし。
白黒が指すようにこの迷宮は床、壁、天井全てが白黒のチェッカー柄で統一されている。もちろん設置されている仕掛け用の不滅物質も白か黒色だし、文字も白地に黒字か黒地に白字だ。シャンデリアも黒色である。よって仕掛けが見つけにくくなっている。ただし扉とかは別だ。どちらかの色で塗りたくられているので扉が見つからないなんて事はないように工夫されている。
さて、『居住・生活フロア』はというと白黒ではない。普通の家と全く変わらない内装である。照明は電気ではなく魔力を使っていたりトイレは水魔法で流している等あるが、特別変わった事はない。強いて言えば物凄く広いという所だけだ。
まぁ、そんな訳で。三日後のトレーニングルームを造ったりプールを造ったりと娯楽施設造りに走っている時、ようやくそいつらは現れた。
金色の剣を持つイケメンな青年。杖を持った魔法使い。ガッチリとした体の拳闘士。錫杖を持った僧侶。典型的王道の勇者パーティである。
さぁ、お出迎えの時間だ。
「さあ、いでよ!俺の≪絶対過剰切札≫!!!」
俺はその中の一枚を右手で持って迷宮フロアへと続く転移装置に乗った。




