66話 コスモゾーンっつぅのは……
66話 コスモゾーンっつぅのは……
ダンジョン魔王が目を丸くする間もなく、パリピーニャの拳が次々に叩き込まれる。
左右、回転、肘、膝――全身が武器。
その一撃一撃が、小型爆弾のように空気を裂き、風圧が壁や床を削る。
脚が一歩踏み込まれるたび、床に蜘蛛の巣みたいなヒビが入って、そこからダンジョンの微細な埃が舞い上がっていくのが見えた。視界の端がじわじわと白くかすむ。
目にも止まらぬ連撃に、ダンジョン魔王はよろめきながら、
「ぬぉお……し、信じられない……貴様、魔王を使役できるのか……」
その声には、動揺と畏怖と、明確な敗北感が滲んでいた。
背筋に冷や汗が走ったのか、肌の上を滑り落ちる雫まで見えそうだった。
口元が引きつり、肩がわずかに震えているのが、こっちからでも分かる。完全に気迫が抜けていた。
まあ、それはそれとして……
「なんだろう……ダンジョン魔王って、同じセリフを言うようにプログラミングされているのかな?」
呟きながら、つい呆れが滲んでしまう。
拳の雨が魔王を容赦なく叩いている最中だというのに、どうしても気持ちが緩んでしまう。
プログラマーの意図に従順なNPCのセリフを聞いているみたい……
(人格データが流用されているのは間違いないな……コスモゾーンは、こういうところで、手を抜く悪癖がある。その気になれば、無限の人格パターンを反映させることもできるはずなのに)
モンジンの声は、なんだか妙に達観していて、冷笑じみていた。
「前から思っていたんだけど……そのコスモゾーンってなに?」
(全宇宙を演算している汎用量子コンピュータ。実質的に神みたいなもの)
淡々と言われても、全然ピンとこない。
それで分かると本気で思っているのだろうか。
一般人をナメないでもらいたい。
「ごめん、わかんない。全部の単語が分からな過ぎて、右から左だ。幼稚園児にもわかるように言って。汎用とか量子とか演算とか言われても無理だから。なに、演算って。計算とは違うの?」
正直に言った。言いながら、自分でもちょっと情けないと思ってる。
でも、わからないもんは、わからない。
ただ、これ、ボクが悪いわけじゃないと思うんだよね。
普通、わからなくない?
汎用量子コンピュータって言葉……パっと言われてわかるもんなの?
(……逆に、すげぇな、お前)
なんか、モンジンの声から『濃厚な呆れ』がダダ漏れしていた。
その反応は、普通にムカつくなぁ……
汎用なんて言葉、普通、使わないじゃないか。
絶対に、ボクの方が正しい。




