212話 合体のデメリットは存外多い。
212話 合体のデメリットは存外多い。
肯定は薄く、否定は刃のように細い。
ふたつの意思が同じ器で反発し、
微細な断層が肉体にまで伝播していく。
「あんたが僕を信じていないのは最初から知っている! けど、それがどうしたぁあああ!」
(合体というのは良い事ばかりじゃないってことさ。プラスの要素だけではなくマイナスの要素まで合わさってしまう)
理屈は簡潔で、結果は致命的。
ゼンドートだけなら意地で維持できる『スペシャル』も、
『不信の不和』が混じることで脆く崩れ去る。
ゼンドートの強さの秘密は『自分の正義を信じ続ける限り無敵』というチート。
それが、今、セミディアベルのせいで機能停止状態にある。
それだけの話。
「う、ああ、あああ……」
頬がたれ、指が花弁のようにほどけ、再び寄り集まろうとしては形を取り逃がす。
輪郭が波打つたびに、足場の石が濡れた紙のように沈んだ。
――ゼンドートは、どんどんぐちゃぐちゃに崩れていく。
センは肩をすくめ、口だけ笑った。
「おいおい、ずいぶんとご機嫌じゃないか。そんなにドロドロになって、楽しそうだな」
「ぁ、ああああ……」
「煽りに対して返信することも出来なくなってんな。そのまま死んでくれるとありがたいんだが……」
そこで、『ゼンドートの融解』がふっと止まる。
歪んだ輪郭が、ゆっくりと元へ戻っていく。
どうやら、中の支配権が切り替わったらしい。
完全に整うと、男は口角だけを上げた。
「……さて、それでは、本当の最終決戦といこうか」
「……お前は……セミディアベルか?」
「そのとおり。とろけたゼンドートは邪魔だから、力だけ残してもらって、フラグメントは『遠いところ』にいってもらった」
「……ふーん、エッチじゃん」
興味なさそうに頷くセン。
そんな彼の態度を笑いながら、セミディアベルが、
「ゼンドートの弔い合戦をさせてもらうよ」
「殺したのは俺じゃなくて、お前じゃない?」
「いやぁ、あれは、自殺みたいなもんだよ」
「……だったら、弔い合戦にはならなくね? 恨まれる筋合いが一ミリもないんだが」
軽口を続けつつ、二人は、丁寧に間合いを詰め始めた。
重心が静かに沈み、掌がわずかに開閉する。
同時に構えを整えた。
空気が一拍だけ重くなった。
視線がぶつかり、足裏が床をつかむ音だけが残る。
次の一手を待つ沈黙だけが静かに場を整えていく。
★
風が、沈む。
そこに在るだけの空気が、粒度を増して粘りを帯び、
微細な砂鉄のように二人の輪郭へ寄り沿って集まる。
センとセミディアベルは、互いの心拍の隙間を読むかのように、
刃の厚み一枚ぶんの間合いを削っては戻し、戻しては削る。




