207話 その目はなんだ?
207話 その目はなんだ?
「9番だけは殺さないで」
息が乱れ、声が震え、言葉の最後がかすれる。
利己ではなく、たったひとつ残った『大事なもの』のための命乞い。
9番はきゅっと食いしばった。
小さな意思表示。
両拳が衣の中で固く握られる。
ゼンドートはその一部始終を、退屈そうな横目で眺める。
彼の足音は止まらない。
処罰は前へ進む意思を持つ。
そのとき――9番の瞳が、わずかに色を変えた。
怯えの湿りが一片ずつ剥がれ落ち、底に沈んでいた硬い光だけが残る。
震えが止まり、肩の力が抜け、背骨の線がまっすぐに立つ。
まるで、初めから恐怖など持っていなかった者の目。
「……なんだ、その目は……どういうことだ? なぜ、君のようなただの奴隷に……そんな目ができる? それは……超越者の目だ。君ごときの瞳に宿っていい光じゃない……」
ゼンドートが足を止め、ほんのわずか眉を寄せた。
純粋な不可解。
理屈に合わない現象を前にした学徒の顔。
9番は視線を外さないまま、すぐそばで土下座する17番へ声を落とす。
「センパイ……ずっと守ろうとしてくれて……ありがとう」
礼の言葉は、小さいのに、よく通った。
「僕も……センパイを守りたい」
決意の告白。
次の瞬間、9番の皮膚が微細な紋で満ちた。
ウロコにも似た光の粒が表層を走り、
関節の輪郭が『別の継ぎ目』へと差し替わっていく。
背面に、ちいさな『核』が灯る。
澄んだ鈴の音に似たシステム音が、乾いた空気をひと振りで洗った。
――変形が始まった。
四肢は短く、胴は凝縮し、頭部に小さな冠角。
二頭身のフレームに、古い神紋の鎧が内側から『生着』していく。
携帯ドラゴン――エルファの系譜を思わせる『携行型の神性体』が、9番の輪郭へぴたりと一致した。
「ど……どういうこと……? え? 9番が……携帯ドラゴン……え?」
17番が顔を上げ、言葉の端を取り落とす。
混乱は正しい。
説明不能が連続している。
だが、視界の中心で進む現実は、整然としていた。
携帯ドラゴンと化した9番の口から、澄み切った詠唱がこぼれる。
古層の鍵語。
結合を許す真名。
『オルタナティブプライマルトランスフォーム・モード‐ルシファー』
宣言は、鍵。
光の輪が一度だけ瞬き、龍の外殻が流体のようにほどけて伸びる。
薄い金の線分が17番の肩から胸、腰椎へと『正しい順』で絡み、関節ごとに小型の推進孔と護符パネルが『吸い込まれるよう』にはまっていく。
冷たい鎧ではない。
温度を持った堅牢。
鼓動のリズムが17番の心拍へ重なり、震えのテンポを内側から鎮める。
龍装が収束し、額のあたりでかすかな鈴音が鳴って――装着、完了。
9番は『鎧』となり、17番を包み込む。




