186話 死にゆく者こそ美しい。
186話 死にゆく者こそ美しい。
――そんな『場』を冷静に精査したセミディアベルが、
(まあ、こんなところか。……思ったよりは頑張ったかな。どうせなら、目を見張るほど頑張ってほしかったけど……今の彼では、この辺が限界だろうね)
ゼンドートの奥底で小さく呟いた。
その声はゼンドートには届かない。
限界の烙印を押されたことに気づきもしないゼンドートは、
「くそぉ……」
呑気に血を吐きながらセンエースを睨みつける。
次の瞬間、ゼンドートは『異様な違和感』に気づく。
「ん……? なんだ……これは……」
足がもつれる。
力が抜けるわけではない。
むしろ、パワーは暴走しそうなほどに溢れている。
だけれども、意識だけが、ずるずると体の奥底へと沈んでいった。
「な……なにが――」
気づいた時には、己の身体の支配権は既に掌から零れ落ちていた。
「――さて……それじゃあ、ここからは私が相手をさせてもらおうか」
低く響いた声とともに、姿勢が変わる。
戦場に立つのはゼンドートの肉体――だが、纏う気配はまったく別物だった。
副人格として潜んでいたセミディアベルが、表へと這い出てきたのだ。
ゼンドートは逆に奥底へ押し込められ、副人格へと降格する。
(セミディアベル公爵! なぜ邪魔をする! これは僕の戦いだ!)
「もちろん、そうだとも」
その声音は軽やかで、しかし氷のように冷徹だった。
ゼンドートの肉体を支配したセミディアベルは、
ゆっくりと首を回し、戦場の中心で余裕の一歩を踏み出す。
その姿は、まるで遊戯に臨む悪魔。
笑みの奥に潜むのは、冷酷な支配者の矜持。
「けど、私も、センエースと遊びたくなった。君ばかりが楽しむのは不公平だろう?」
小馬鹿にしたような声音。
その言葉に、ゼンドートは奥底で歯を食いしばった。
文句は山ほどあった。喉元まで込み上げる反駁が、意識の奥で渦を巻く。
だが――セミディアベルが表に立っている以上、何を叫んでも無意味。
抗弁は届かない。
無力を噛みしめるしかなかった。
そのやりとりを見届けたセンエースは、乾いた吐息とともに肩を竦める。
「誰が主人格をしようと同じことだ! 俺には勝てねぇよ。俺は無敵で不死身なんでなぁ! 貴様らは確定的に死ぬ! 俺様の業火にやかれて、もがき苦しみながら命を終える!! 滅びこそ我が喜び! 死にゆく者こそ美しい! さあ、我が腕の中で息絶えるがいい!」
「はは、そうだね。その通りだとも。君は無敵で完璧で最強だ」
セミディアベルは、楽しげに頷いた。




