184話 えげつない反社の神の一手。
184話 えげつない反社の神の一手。
センの問いに、ゼンドートの中でセミディアベル公爵が小さく嗤う。
喉の奥から響くその笑い声は、冷笑と残酷さを孕んでいた。
(ゼンドート……彼の疑問に答えるから通訳してくれ)
うながされ、ゼンドートはわずかに顔を歪めつつも、
セミディアベルの言葉を、一切変更せず、そのまま口に出す。
ただ、流石にセミディアベルの抑揚を真似したりはしない。
淡々と、国語の教科書を音読するように通訳する。
「――対価は君が払っている。私は、君が払ったお金でご飯を食べているんだ。より正確に言えば、君から盗んだ財布からお金を出してご飯を食べている。なんにせよ、対価は払っているということさ」
「ふざけた話だぜ……」
センエースは吐き捨てるように呟き、額の汗を拭うこともなく、射抜くような眼光を細めた。
そして、冷ややかに片手を掲げる。
その指先から、禍々しい黒炎がふつふつと立ち上る。
「この状態で、俺自身がサイコジョーカーを使うとどうなるのかね……」
即座に疑問を形にしてみた。
「……サイコジョーカー」
宣告と共に、闇がセンの身体を包む。
暴走する負荷の衝動。
筋肉は軋み、血管は爆ぜるように悲鳴を上げ、神経は焼き切れる寸前で震え続ける。
常人なら即死の痛覚。
だがセンエースは、奥歯を噛みしめ、両脚を大地に突き立て、一歩も退かなかった。
「ぐっ……使えるのは使える……が、こいつはいったい……どういうことだ……『負荷』が増えただけで……出力が一切上がってねぇ」
額から血混じりの汗が滴り落ちる。
それでも瞳は曇らず、冷徹に現実を見据えていた。
ゼンドートが唇を震わせながら通訳する。
「君が受けた『サイコジョーカーの負荷』の分だけ、こちらが強化されるという仕様に調整してあるんだよ。かなり難しい挑戦だから、完璧に実行できている私を褒めてほしいところだね」
ゼンドートの中で告げるセミディアベルの声には、冷徹な愉悦が滲んでいた。
それは――神の理をねじ曲げることすら厭わぬ、狂気を孕んだ嗤い。
この仕様こそ、セミディアベルが『センエースを葬るため』に費やした最高峰の『神の一手』。
ありとあらゆる可能性を試行し、無数の時間と労力を費やし、ついに完成させた絶対の鬼策。
これを食らった相手は、誰であろうと立つことすら叶わない。
そのはずだった……が、
(……しかし、相手がセンエースだと、せっかくの神の一手も『ちょっとしたハードル』程度におさまってしまう)




