182話 おっと、電話だ。
182話 おっと、電話だ。
センエースが絞り出すように吐いた言葉は、鋼よりも重く冷たかった。
「……ふ、ふざけやがって」
その声音に、ゼンドートがゆるりと笑みを歪める。
「センエース。ずいぶんと苦しそうだな。……ふむ。その『苦しみ』に、少し興味がある。……セミディアベル公爵……お手数ですが、少しだけ、あれの苦しみを経験させてほしい」
(別にかまわないよ)
軽やかな声音が、ゼンドートの内側で響いた。
次の瞬間、ゼンドートの全身に、灼熱の奔流が叩き込まれる。
「……っ! む、これは……っ」
最初の一拍は、まだ余裕があった。
……センエースが『少し苦しそう』にしているのを見て、
ゼンドートは、『根性の鬼である自分ならば問題なく耐えられる』と思った。
だが――
「ぐ――ぎゃああああああああああああああああ!!!」
悲鳴が絶叫に変わるのに、3秒とかからなかった。
肉体ではなく『魂魄』が裂かれる。
全身の血管が焼けただれ、骨の髄から灼熱の杭を打ち込まれるような錯覚。
のたうち回り、床を爪でえぐり、喉を潰すほどの叫びを繰り返す。
「やめろ……やめろぉ! 消して、消して、消してぇ!!」
狂乱の中で、ゼンドートは己の内にいるセミディアベル公爵に必死で懇願した。
(もちろんだとも。私は部下のお願いに対して常に真摯に対応する男だ。おっと、電話だ。すまないが、少しだけ待って――)
「セミディアベルゥウウウウウウウウ!」
(ははは、ちょっとしたジョークじゃないか。そんなに怒らないでくれたまえよ)
軽い調子で、苦痛の回路を絶つセミディアベル公爵。
圧力がすっと消え、ようやく呼吸が戻った。
「ぶっ……はぁ……はぁ……っ……!」
苦悶の余韻に震えながら、ゼンドートは鋭く顔を上げる。
額にはびっしりと汗。
その視線の先には、なおも立ち続けるセンエースの姿があった。
「い、今の『苦しみ』を……センエースは背負っているのですか?」
(そうだね)
「バカな……ありえない……あんな『重荷』を背負って……あんな涼しげな顔ができるわけがない……!」
(まあ、彼もそれなりには苦しそうにしているよ。センエースに『あの顔』をさせるほどの『負荷』というのは、相当なものだろうね)
「ぐ……ありえない……嘘だ……あれを受けて、立っていられる者など、いるはずがない」
(どういう感想を抱くかは君の自由だ。ただし事実は事実として受け止めてもらわないと困る。まあ、今回の件に関しては、君がセンエースの痛覚をどう思おうと関係ないからどうでもいいけれどね)




