176話 えてして不可侵で不可思議な閃韻の定理。
176話 えてして不可侵で不可思議な閃韻の定理。
経験値を稼ぐ。
存在値を上げる。
戦闘力を上げる。
毘沙門天を鍛える。
エグゾギアをソリッドに磨く。
――というのを、淡々と、延々と、滔々と、繰り返し続けた閃光。
5兆年が経過した時には、82京を越えた。
まだ半分以上時間を残していながら、前回の記録を大幅に更新。
ウィトゲンシュタインの工房によって磨き抜かれた毘沙門天とエグゾギアは、
もはや、別物のように進化していた。
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――白灰の舞台が、赤黒に染まる。
推進孔が咆哮し、灼熱の尾を引いて、センの身体が荒々しくスライド。
纏う【修羅】が跳ねて揺らぐ。
蜃気楼になって残像を霧にする。
その姿は、もはや鎧ではなかった。
重厚な外殻を削ぎ落とし、露わになったのは、
灼け爛れた筋線維と黒金の骨格。
右腕は砲の顎を備えた異形で、亀裂から紅炎がリーク。
左腕は長大な槍骨となり、振り抜けば大気がスクリーム。
頭部は兜も仮面もなく、六つの光球が裸の眼窩にバーニング。
顎は『喰らうため』にカタリ、と噛むクリック
背には翼も羽衣もなく、代わりに六基の噴射孔がスマッシュ。
パルスが爆ぜるたびにまき散らす蒼いフレアドライブ。
その肉体は『防御』という概念を完全にトラッシュ。
『斬り裂き』『焼き払う』ためだけに存在するストーム。
その背後に、毘沙門天の剣翼がブレイズ。
六本の剣は無数に分裂し、雲のような剣群となって空間をクローキング。
一本一本に詩が刻まれ、数式がランダムにダッシュ。
野獣の祈りみたいにしみ込むノイズ。
それらは、もはや自律する眷属。
詩と刃で編まれた明朗なフロウ。
ある時は高貴な陶磁のウォール。
またある時は明瞭で敬虔なオラクル。
剣翼群は、もはや単なる武装の粋を越える。
強欲に世界を喰らう月光のシンボル。
対峙するは虚無に佇むエルファ。
眼は濁り、呼吸はなく、ただ剣戟だけが無限にフォーク。
静謐なる敵意の残響が押しつぶすフロントラインのリンク。
剣翼群とエルファの斬撃がクラッシュ。
空間はガラスのようにスラッシュ。
舞台の地平はひび割れ、上下左右のコンセプトすらリバース。
――だが二人は止まらないスコール。
オーラと魔力が咲き乱れる虚理の豪雨。
センが踏み込み、修羅の右腕がエクスプロード。
紅の砲撃が虚無を穿ち、同時に背の剣群がフライト。
百の流星がエルファを囲む、まるで閃光のダンスナイト。
爆ぜる。
裂ける。
廃都のリリックを気まぐれに。
三人称の咆哮をリフレイン。
エルファは沈黙のまま迎え撃つ。
爪と牙、罪罰と虚無、命と華が衝突。
幾万も咲く崩壊のフラワー。
撃ち落とす様は優艶なスラッガー。
センは笑う。
灼け爛れた顔の奥で、六つの瞳が邪悪に笑う。
――まだ舞える、と声もなく。
エルファの目が語る。
――『その狂気の動悸はなんだ?』
真摯な真理を問う喧騒。
センの解答は、いつだってチェーンソー。
いななく、グルグル、飛ぶ節操。
翼をかかげ、修羅の体をはためかす。
己のすべてを刃に変えて――
白灰の舞台を、紅黒の修羅色に塗りつぶそう。
まだ終わらない。
まだ5兆年。
その程度で咲く花はカスミソウ。
燃えカスになる骨はアルビオン。
あまねく狂気を定理にする幻想。
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