172話 18兆年の旅路。
172話 18兆年の旅路。
『非常に魅力的な提案ですが、上限は変更できません』
「いい嫌味だ。なかなか有能なAIじゃないか」
と、一度、ファントムに言葉を流してから、
「俺が望むのは、もちろん上限の9兆年だ。それ以外の選択肢はありえない」
その宣言に対し、センの中にいるアバターラが、
(折れて灰になったら殺すぞ)
と、エールを送ってきた。
センはニタリと笑い、
「誰に言ってんだ」
――そうつぶやいた直後、ゲートが開く。
空間が裏返り、景色が万華鏡のように砕け散る。
センの足元が崩落し、意識は光と闇の奔流に呑み込まれていった。
――そして、またまた始まった。
誰も覗き見ることのできない、センエースだけの、長い長い時間旅行。
★
一瞬だけ意識を失っていたセンだが、
「……」
意識を取り戻すと同時、センは、
「……よう、会いたかったぜ、ハニー」
目の前にいる人物の姿を視認すると同時、
ニっと微笑みながらそう言った。
目の前にいたのは『エルファ・オルゴレアム』。
ここは、前と同じで、何もない、だだっ広い空間。
上下の境界も地平線もなく、ただ白と灰がにじみ合う無限の舞台。
足元には確かに『床』があるが、その材質も色も曖昧で、踏むたびに波紋のような揺らぎを返す。
音も風もなく、ただ『戦うための場所』だけが設えられている。
その中心に、ポツンと立っているエルファ。
前と同じで、そこに生気はない。
眼光は虚ろに濁り、呼吸のリズムすらなく、ただ敵意だけが残像のように漂っている。
センは鼻を鳴らし、
「……モード・バグビースト/フルスロットル。EXP_MULTIPLIER=38x、デバッグフラグ:ALL ON。パラメータ書き換え実行――」
と声をかける。
直後、エルファの口がカクつくように動き、低い機械音が重なる。
『ACKNOWLEDGE/ハンドシェイク完了。EXECUTE:Mode_Switch() → BeastKernel/Throttle=FULL。Stack領域再編成――完了』
普通の呼びかけではうんともすんとも言わなかったソウルゲートエルファだが、
特定の『裏コマンド』にだけは律儀に反応する。
『EXECUTION COMPLETE/プロトコル移行成功』
「……前の時は、『隠しデバッグ仕様』をまったく理解できていなかったから、序盤の効率が最低だったんだよなぁ……けど、今回は初手からオーバークロック・モードでいかせてもらう」
そう言いつつ、センは、
右腕に装着した黒鉄の腕輪を左手でギリと握りしめる。
「エグゾギア【修羅】……起動」
瞬間、脳内を焼き尽くすようなノイズが奔った。
数字列も文字列も整列せず、ただ赤黒い火花のように散り、乱れ、弾ける。
『素体融合――強制開始』




