20話 討論の必勝法は、絶対に折れないこと。
20話 討論の必勝法は、絶対に折れないこと。
「思わない」
「おお……言い切りますね。ボク、今回ばかりは、流石に、けっこう、必死に頭をまわして……できるだけ芯を食った難しい質問をしたつもりなんですが……」
そこで、ゼンドート伯爵は、ゆっくりと歩いて、
たっぷりの間をとってから、静かに、執務席に、腰をかけると、
厳かな『ゲンドウポーズ』で、
「機械的だから思考を放棄しているというのは未熟な視点だ。これまでの人生において、僕が、『今、君が言った疑念』を一度も抱かなかったと思うかね?」
「いや、それは分かりませんが」
「では、こう言い換えよう。君の頭で思いつくことが、僕の頭で思いつかないということがありえると思うかね?」
「……ないかも……しれませんね。わかりませんが。あっし、バカなもんで」
……『お前の反論はすべて既知の雑音に過ぎない』なんて言われてしまえば、こっちとしては、もう、何も言うことがないな……
それって『後だしジャンケン』みたいなものだけど、実際、完封されてしまう。
ある意味で、素晴らしい一手だと思う。
「前提なら、散々踏んできたよ。思考の海で何度も溺れてきた。その上で導き出した最終結論が、僕の『正義』だ。それを、その場限りの安易な感情論で踏みにじろうとするなど、極めて下劣な行いだと思わないかね?」
「あなたが、いっぱいモノを考えて、自分なりの正義論を組み立てたのは認めましょう。実際そうなんでしょうよ。けど、いっぱい考えたからって、正しいとも限らないのでは?」
「そんなことを言っていては、いつまでたっても法など制定できない」
「……」
「万人とって、100%正しい善行……そんなものは存在しない。人は不完全だから、誰かの正義は誰かの悪たりえてしまう。だが、それでも、秩序を守らんとすれば、社会には、『感情を排除した法』が必須となる。つまりは、誰かがどこかで線を引かなければいけないのだ。そして、僕は、その『誰か』のポジションにいる。この都市の運営を任されている大貴族の一人だから」
「……」
「僕は、ただふんぞり返っているだけの愚者を、貴族とは呼ばない。生まれながらに背負いし『大いなる責務』を懸命に果たす者を……僕は貴族と呼ぶ。そして、僕は誰よりも懸命に、己の責務と向き合ってきた。そんな僕の正義を感情で踏みにじる行為は、決して許されない」
反論を失い、黙り込んでしまったボクの中で、モンジンがボソっと、
(こいつは危険だ。ゼンドートが言っていることは全て詭弁。『善悪の話』を、いつの間にか、『法の話』にすり替える……どっかの配信者みたいな詐欺手法。……だが、なまじ信念がある分、言葉に力が乗ってしまう。そうなると騙される者が出てくる。……心に芯がない者は、いつだって、『自身満々の強者』を信じたがり、そして、すがりつく)




