17話 善意には善意を。悪意には悪意を。
17話 善意には善意を。悪意には悪意を。
「じゅ、17番……こ、この……体調不良……お前がやったのか……な、治せ……殺すぞ……」
「面白い冗談だね。どうやってボクを殺すの? もう、指一本動かせないみたいだけど」
「……う……ぅう」
バカな51番でも、流石に、状況が理解できてきたらしい。
真っ青な顔が、さらに青くなっていく。
マジでやばい……と、ようやく、しっかり把握できたようで、
「……た、助けて……」
なんて、そんな、甘えたことを口にしてきたもんだから、
ボクは鼻で笑って、
「助けてくれるよ、たぶん。これまで『あんたが親切にしてあげた誰か』が……ヒーローみたいに、助けにきてくれるよ、きっと。……悪意しかバラまいていないなら……無理だろうけどね。あんた、誰かに優しくしたことある? 誰かを助けたことある? もしないならさぁ……助けてもらえるワケなくない? この理屈、わかる? バカだから分からない?」
「あ……アネゴッ……た……たすけて……たす――」
ボクに命乞いしているのかと思ったけど……これは、違うな。
空に向かって、『アネゴ』とやらに救いを求める51番。
どうやら、その『アネゴ』とやらのことだけは、真剣に慕っていた様子。
必死に救いを求めていたが、しかし、ついに、
「……っ――」
「もう、何も言えない? けど、ボクの言葉は聞こえているようだね。失神したってわけじゃなさそう。……マパネットから聞いたけど、意識はあるらしいね。喋れなくなって、指一本動かせなくなって眼球すらまともに動かせない……けど、それでも、意識だけはある。決して、死んではいない。そういう状態にするウイルスだって聞いた」
「……」
「お前らは殺さない。ていうか、ボク、誰も殺したくないんだよね。だって、殺したらさぁ……そいつの命を背負っていくコトになるもん。やだよ。なんで、お前らの汚い命なんて背負わないといけないんだ。鬱陶しいよ。邪魔、邪魔」
「……」
「仮に、お前らが、魔王組の他のメンバーから『使い物にならないから』って、殺処分されたとしても、それは、魔王組の連中が悪いんであって、ボクは何も悪くない。ボクはお前らを殺していない。ボクはただ身を守っただけだ。過剰防衛でもない。だって、魔王召喚のことが他の誰かにバレたら、ボク、殺されるもん。総合的に考えて、余裕で正当防衛だ。……女神法や都市方針に照らし合わせた時には、そういう判定にはならないだろうけどね。この世の中って、ほんと、ボクに対するあたりが強いよ。勘弁してほしいね」
「……」
「……ハッキリ言っておくけど、もし、あんたらが、ボクに親切にしてくれていたら、ボクはあんたらに親切で返していたよ。善意には善意で、悪意には悪意で返す。ボクはそういう人間だ。決して聖人君子でもなければ、漫画の主人公でもない。ただの平凡な……どこにでもいる……人間だ」
あらかた物色し終わった。
現金が120万ぐらいあったから、とりあえず貰っておく。
ボクから奪った100万と、もともとあった20万ってところかな。
しけた事務所だ。
……できれば、『マジックアイテム』とか『魔カード』とかも欲しかったけど……
この事務所、そういう魔法関係の物品は何もなかった。
ほんと、しょうもない事務所だよ。
あ、ちなみに『魔カード』ってのは、魔法が封じられたカードのこと。
『凄まじく便利なアイテム』なんだけど、一回きりの消耗品なのが玉に瑕。
「じゃあね、クズども。これから、色々と大変だろうけど……知ったこっちゃないね。ボクに悪意を向けたことを後悔しながら、とことん苦しめ」
最後にそう言い捨ててから、ボクは、事務所の奥にある『隠し扉』を開ける。
こういう反社連中の事務所には、もしもの時のための『抜け道』があるもの。
表から出ると、誰に目撃されるか分からないから、
この抜け道からソっと抜け出すことにする。
一応、ロングコートにフード姿だから、目撃されても、ボクだとはバレないだろうけど、念には念を……
ラストローズ辺境伯から、ちょっとだけ怪しまれたりもしていたからね。
……でも、あれ、なんでなんだろうね?
ボク、何一つ怪しくないと思うんだけど……
ボクなんて、どこからどう見ても、ただのショボい奴隷でしょ。
★
……事務所の抜け道は、
歓楽街の外れまで繋がっていた。
人の気配がまったくない場所に出たボクは、
ロングコートを脱いで、小脇に抱えて、家まで走った。
家に帰る道すがら、
『鴉の51番たちを、植物人間にしてしまったこと』に対して、
多少の罪悪感みたいなものが沸いてきたけど、
「……反撃されたくないなら、最初から攻撃しなきゃいいだけだ。必死に生きているだけの人間の邪魔をするな、くそったれども」
自分の言葉で、自分の心に整理をつけて、
ボクは、9番が待っている家へ帰った。
ポルのオッサンのことはどうでもいい。
すでにオッサンに対する復讐は終わっているから、死ねとも生きろとも思わない。
ボクの人生の邪魔だけはするな。
邪魔さえしないなら……『植物人間ウイルス』は使わないでおいてやるよ。




