130話 あなたの正義を魅せてくれ。
130話 あなたの正義を魅せてくれ。
ラストローズ辺境伯やカルシーン伯爵や3番のような、超実力者たちも、その目尻には、涙が浮かんでいるように見えた。
この状況で落ち着いているのは、事情を理解しているボクと、ボクのブレーンである『蝙蝠の7番』だけ。
ゼラビロスは、低い姿勢のまま、ウサギを狩る獅子みたいに、両手を優雅にブン回して、戦線を崩壊させていく。
人間の中では圧倒的な数値を誇るラストローズ辺境伯も、
「ぐぁあああっ!!」
ゼラビロスの軽い裏拳を腹部に受けただけで吹っ飛んで壁に激突。
人類最強格のラストローズ辺境伯ですら、魔王の前では赤子同然。
ゼラビロスの次の表的はカルシーン伯爵。
といっても、ゼラビロスは、ただ指を弾いただけだった。
それだけでカルシーン伯爵の魔法障壁がバリィンと脆いガラスみたいに粉砕され、続けざまに衝撃波が彼女を吹き飛ばした。
『誰も殺すな』と命令してあるので、命の心配はない。
正直なところ、ラストローズ辺境伯やカルシーン伯爵に攻撃する必要はないけど……『ゼンドート伯爵だけボコボコにする』と『なんで?』ってなるからね。
一応、この場にいる全員、ある程度のダメージは受けてもらう。
それはもちろん、ボクもそうだ。
ボクだけ無傷だったらおかしいもんね。
というわけで、ボクは、
「うわわわわ! やめて、やめて! ――うげぇえ!」
あえて、ゼラビロスに吹っ飛ばしてもらい、
瀕死になったというフリをする。
そこからはもう、低みの見物としゃれこむ。
地下迷宮研究会の面々は、勇気を奮い立たせて、必死に戦っているが、しかし、どこか、諦めムードが漂っていた。
そりゃそうだ。
魔王に勝てるワケないからね。
そんなこんなで、地下迷宮研究会の面々は、特に見せ場もなく、あっさりと壊滅。
残ったのは、ゼンドート伯爵だけ。
さあ、伯爵。
あなたの正義を魅せてくれ。
……ここからが、本当の……
――道徳の時間だ。
★
一人になったことで、ゼンドート伯爵は、覚悟を決めたように、スゥッと深く息を吸った。
今、この瞬間の顔だけを見れば、『戦士』の表情をしていると思えた。
「……僕は負けない。絶対正義の僕が負けるわけがない。僕こそが完成した個。完全なる秩序の化身。僕の敗北はこの世界の終わりを意味する!」
ちょっと何言っているか分からない……
あんたが負けても、世界は終わらんて。
むしろ、あんたが死んだ方が、世界が前進する気がする。
……あくまでも、ボクの感想に過ぎないけれど。




