126話 理不尽な命令。
126話 理不尽な命令。
「本当に、ヒステリーな女というのは厄介だな。人の話を理解する知性をもっていない。僕はずっと理性的に、穏やかに話しているだろう。そんな私に剣を向け、大声を荒げるなど……とても貴族的とは……いや、人間的とは思えないね」
蛮族を見る目を向けるゼンドート伯爵。
「やれやれ、まったく……本来であれば、君たちは、即座に断罪されるべき。……しかし、君たちは非常に優秀な貴族であり、僕ほどではないが、正義を愛しているようにも見える。だから、今すぐに剣を治めるのであれば、今回の件は不問にしようと思う。感謝しろ……とは言わないが、まともな精神の持ち主であれば、僕の寛容さに、心の底から感謝するだろうね」
これも、演技じゃない。
『バグった冗談』みたいなことばかり言っているけど……
ゼンドート伯爵は、ずっと、ガチの目で言っている。
あんなに『曇りのない眼』を見たのは初めてかもしれない。
ゼンドート伯爵の目は……多分、『この世でもっとも澄んでいる』と言っても過言ではない。
ボクは、今、『目が澄んでいるからといって、正常であるとは限らない』という、だいぶ特殊な社会真理を体験している。
漫画でも、映画でも、大概、『目が澄んでいる人は善人だ』と相場が決まっているのだけれどなぁ……
ゼンドート伯爵の『妖刀みたいな切れ味の発言』に対し、ラストローズ辺境伯が、
「ゼンドート伯爵……私は、あなたよりも上位の貴族だ。私の命令には従ってもらう。5番に危害を加えるな」
その強い命令を受けて、ゼンドート伯爵は、
どうやら、ずいぶんとピキったらしく、
紳士とは思えない表情で、
「……ナメるなよ、坊や。確かに、爵位は君の方が上だ。しかし、年齢と立場と経験値は僕の方が上だ。真っ当な命令なら、従ってやらなくもないが……理不尽な命令に従う気は一切ない」
その発言を受けて、ボクは、つい、噴き出しそうになってしまった。
理不尽な命令って……
どこに理不尽な要素があったんだ……
自分より上位の貴族の命令を聞くのは当たり前だし、
『燕の5番に対して暴行しないように命令する』のも、貴族としては当然のことだろう。
『どんな理由があろうと窃盗は悪い事』……という考え方を否定する気はない。
窃盗は普通に犯罪だ。
けど、だからって『犯して殺す』のは、普通にやりすぎじゃない?
それは、いくらなんでもじゃない?
『罪や罰』に対してどう考えるかは各々の自由だけど、流石に……ねぇ……




