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REINCARNATION  作者: 石燈 梓(Azurite)
最終部 Reincarnation
77/106

Part.1 Alert: You can control yourself.(4)


        3-1-(4)



 なんだかんだ言いつつ、ルネは子ども好きだと思う。


 夕食をみんなと食べ終えてから、わたしとミッキーは、彼を部屋に招待した。わたし達の部屋は、間の壁を取りはらって改装し、ひとつづきにしたものだ。広さは以前の三倍になり、真ん中にリビングを設けている。

 ルネはソファーの上に座り(ソファーに、ではないのよ。念のため)、片方の膝の上に腕を預け、もう片方の手でドナ君(四歳)とカウリー君(七歳)にサッカー・ボールを投げている。PK(サイコキネシス・念動力)を使って彼等の頭上にボールを浮かせて遊ぶ、彼の表情が穏やかになっているのは、嬉しかった。

 3Dのサッカー中継映像の中を子ども達が走り抜ける。小さな子ども達、特に男の子はルネが大好きだ。わたしは月産のメロンを切り分けながら、思わず微笑んだ。


 これなら、大丈夫。ライムにだって逢えるんじゃない?


 ミッキーは先にシャワーを浴びている。ルネは、ちょっと居心地悪そうだった。


「いいのかよ。お前ら新婚だろう? 一応」

「一応、ね」


 ルネは、右手の人差し指にボールを載せてくるくる廻した。カウリー君に、ひょいとそれを投げてあげる。わたしは、ミッキー特製のラウル星人用カクテルをグラスに注いだ。


「わたし達は、いつでも話が出来るわ。これからも、ずっと。ルネはそうじゃないでしょ」

「まあ、それはそうだけどな……」


 ルネはカクテルを口に運びながら、飛んで来たボールを器用に足先で蹴り返した。子ども達が歓声をあげてボールを追う。ルネは、ふいに声を潜めた。


「リサ」

「なあに? ルネ」


 ちらりとミッキーの入っているバス・ルームの扉を見遣り、彼は上体を傾けた。どうしたんだろう?


「確認したいんだが」

「何よ、改まって」

「ミッキーは、月に居ていいのか?」

「ええ?」


 一瞬、何を言われたのか判らなかった。しかし、冗談ではないらしい。地球色の瞳は真摯だ。わたしは、ごくんと唾を呑んだ。


「何のこと?」

「オレもそうだが、ミッキーも戦士(トループス)のランクが上がっているんじゃないのか、ってことだ」


 どきりとした。


「どうしてそう思うの?」

「……あいつのESPが強くなっている」


 ルネは囁くように答えて元の位置に身体を戻した。飛んで来たボールを受け止め、子ども達に投げ返す。わたしは黙って彼の精悍な横顔をみつめた。


「ミッキーが気づいていないとは思えない。凄いパワーが、あいつの中にある。何があった?」


 そうか、ルネは精神感応能力者(テレパス)だ。能力者同士は相手の力がわかるのだと、フィーンに聞いたことがある。


 わたしは昨年の出来事を思い出した。一月、ミッキーが潜在エネルギーを測定した際、彼のランクは判定不可能になっていた。眩しい白銀色の髪と、澄んだ碧眼を憶えている。あの時は皆川さんが記録を操作したので、ミッキー自身は知らないのかもしれない。でも、彼は改めて訓練を行い、今年の検査では問題なかった。

 ルネの言う通り――ミッキーが自分で気づかないとは思えないけれど、わたしは彼から何も聞いていないので、どう答えればよいか迷った。


 ルネは首を傾げ、片方の眉をもちあげた。唇が皮肉っぽく歪む。

 敵わないわね……。わたしは口を開きかけた。

 その時、


「…………?」


 驚いた。地震かと思い、そんなはずはないと考え直した。月には地震なんてないのだから。ましてドーム都市には。

 ルネが顔を上げ、ぐるりと天井を見渡した。グラスをテーブルから持ち上げたのは、彼も地震を連想したからだろう。カウリー君がサッカーボールを手に、不安そうに駆けてきた。ドナ君も。

 そして、


「…………!」

「うわあっ!」


 今度こそ、心底びっくりした。先程より、さらに大きな衝撃――そうとしか、わたしには表現できない。――が部屋を揺らし、電撃のような光がルネの身体に走った。長身が青白い光に包まれ、子ども達がわたしにしがみつく。

 みひらいたルネの瞳が虹色に輝き、髪が蒼銀色に燃えあがった。同時に、バス・ルームの中から、ミッキーの叫ぶ声が聞えた。


「ルネ?」

「何だ? いったい……」


 わたしが恐る恐る呼ぶと、ルネは茫然と呟いた。彼の髪は猫のように逆立っている。ざわざわと揺らめき、それからゆっくりと鎮まった。身体を包む光が徐々に消えていく。

 バス・ルームの扉が開き、ミッキーがTシャツを着ながら出てきた。彼も驚いている。


「リサ、ルネ。大丈夫だったか?」

「ああ。お前も感じたのか、ミッキー。今のは――」


 片手で顔を覆うミッキーの長い指の間から、鮮やかな緑色に染まった瞳が見えたので、わたしは息を呑んだ。

 わたしはドナ君を膝に抱き上げた。


「二人とも、大丈夫? 今のは何?」


 しかし、ルネとミッキーは当惑気味に顔を見合わせているだけだった。

 その時、ヴィジュアル・ホーン(TV電話)が鳴った。


「……いいよ。おれが出る」


 ミッキーは手早く服をととのえると、ヴィジュアル・ホーンに近づいた。ルネが3D-TVの音量を下げる。

 モニターの前に立つミッキーの後ろ姿を、わたしとルネは申し合わせたように眺めた。ラウル星人(ラウリアン)本来の姿に戻ったルネは綺麗だけれど、まだ呆然としている。


「リサ、お前は大丈夫か?」

「ええ。わたしは平気よ」


 

『ミッキー先輩』


 ミッキーが応答のキーに触れると、モニターにフィーンが現われた。彼はAクラスの精神感応能力者(テレパス)だ。その表情を見て、フィーンも先刻の衝撃を感じたのだと分かった。それで電話して来たのだろう。

 フィーンはミッキーをみると、挨拶を忘れて青い眼をみひらいた。


『先輩。どうしたんです? その目』

「おれにも判らない……。すると、お前も感じたんだな? 今のを」

『ええ。大騒ぎですよ』


 ルネがソファーの背に片方の腕を乗せて振り返る。フィーンは軽く息を呑んだけれど、気を取り直して言葉を続けた。


『ESPを持つ学生は、全員感じたようです。さっきから連絡を取り合っているんですが、あれなら能力がなくても分かったでしょうね』

「月にいる全ESPERが影響を受けたわけじゃないだろう?」

『まさかと言いたいですが、それに近い騒ぎですよ。だって――』


「おい、ミッキー」


 ルネの声に、わたしとミッキーは彼を振り向いた。フィーンも口を閉じる。

 今しも 3D-TVの画面が切り替わり、《RED(レッド・) MOON(ムーン)》 の映像を背景に、ニュース・キャスターが現れたところだった。



『臨時ニュースです』


 ルネが片手を口元に当てる。キャスターが誰かを確認する暇もなく、画面は白くかがやく大型宇宙船を映しだした。


『先ほど、太陽系連邦標準時間21時18分、《RED(レッド・) MOON(ムーン)》 No.577 ポートから試験航行に出発した、銀河連合宇宙軍の恒星間巡航艦 《AONVARR(アンヴァル)》 号が、爆発しました』


「爆発?」

 ルネが、しわがれた声で呟き、強く眉根を寄せた。ミッキーは小鳥のように首を傾げる。画面には、優美な流線型の宇宙船が、《レッド・ムーン》 のかたわらで強い黄金の光をはなつ瞬間が流れていた。

 男性キャスターの声が冷静に告げる。


『繰り返します。本日、連邦標準時間21時18分、《レッド・ムーン》 No.577ポート上空にて、試験航行中の大型巡航艦が爆発しました。船名は 《アンヴァル》 号。銀河連合宇宙軍の恒星間巡航艦です。艦長は、ラグ・ド・グレーヴス大佐――』


「ラグ……!」

 わたし達は、一斉に息を吸いこんだ。ルネの眼が大きくみひらかれる。ミッキーも。

 わたしは、3D-TVに映る彼の姿を凝視した。


 そんな、馬鹿な!


『この事故で、グレーヴス大佐をふくむ五名の銀河連合第一軍のパイロットが、現在行方不明です。試験航行ですので、一般の乗客は乗っていません。《レッド・ムーン》 No.577ポートを中心に半径12万kmの宙域は、現在、宇宙船の航行は禁止されています。シャトルをご利用の方は、今後の情報にご注意ください。……銀河連合軍の発表によりますと、この事故による一般の乗客の被害はありません。《レッド・ムーン》 にも被害はない模様――』


「ミッキー」

 わたしは震える声で彼を呼んだ。ミッキーも複雑な表情をしている。


 信じられない。何かの間違いだと思いたい。ラグが(あの、殺したって死にそうにない人が)命を落すとしたらこんな場面だろう、とは思う。思うけれど、それが今だなんて信じられない。こんな風に突然。

 ルネは唇を噛んでいる。眉間に皺をきざみ、宇宙船の爆発の瞬間の動画をにらみつけていた。電話の向こうで、フィーンは放心している。

 わたし達は全員、ぼんやりと考えた。ラグが――彼の能力が、先程の衝撃を起こしたのだろうか。


 ニュースが終わると、画面は再びサッカーの試合中継に切り替わった。3Dのボールが行ったり来たりする。数分間それを眺めたのち、ミッキーが首を横に振りながら呟いた。


「何かの間違いだろう?」

「ああ。まったく馬鹿な間違いだぜ」


 ルネが苦々しく言って、すっと立ち上がった。地球人の姿に戻っている。栗色の髪を掻きあげ、舌打ちした。


「冗談じゃない。ポート・No.577と言ったな」

「どうするんだ?」

「行って来る」


 わたしとモニターのフィーンは、はっとした。そうだ、ルネは 《DON(ドン・) SPICER(スパイサー)》号を持っている。あれなら、シャトルが停止していても 《レッド・ムーン》 に近づける。

 ミッキーは、心配そうに声をかけた。


「ポートは閉鎖されているぜ?」

「関係ない。あのおっさんに今くたばられたら、困るんだよ」

「…………」

「もっと悲惨な現場から何度も還って来た奴なんだ、あいつは。冗談じゃない。こんな事故で、くたばってもらってたまるかよ」


 ルネの口調は怒っているように聞えた。――ううん、本当に怒っている。噛みしめる歯の間からもれる声は、濁っていた。


「行って来る。この眼で確かめずに、あんな報道を信じられるか」

「判った、ルネ。おれも行こう」


 ミッキーが踵を返した時、再びヴィジュアル・ホーンが鳴った。わたし達は全員、画面の向こうのフィーンも、ぎくっとした。

 使用中の回線に第三者が入って来るのは、珍しいことではない。しかし、こんな時にというのが、すごく嫌だった。


「……はい」


 ミッキーは当惑している表情を隠そうともせず、ヴィジュアル・ホーンの応答キーに触れた。フィーンもこちらの様子を見守っている。彼の隣に、もう一人、見慣れた男性の顔が映った。


『ミッキー。良かった、居てくれたか』

「鷹弘」


 皆川さんの蒼ざめた頬がゆるんだ次の瞬間、ルネを見つけてこわばった。


『ルネ……。帰って来ていたのか』


 皆川さんのこの反応は意外だった。ルネは無言で眼を細める。


「お前は無事だったのか、鷹弘」


 ミッキーはホッとしていた。皆川さんとラグ・ド・グレーヴスはいつも一緒に行動しているから、(くだん)の大型船に親友の彼が乗っていなかったと知って安堵したらしい。


「良かった。ちょうど今、ニュースを観ていたんだ。あの船に、お前は乗っていなかったんだな?」

『ああ。俺は、コントロール・タワーから、エンジンをモニターしていたんだ』


「ラグは乗っていたの? 皆川さん」


 わたしの問いに、皆川さんは黙ってこちらを見返した。普段は穏やかに微笑んでいる顔が、今は緊張して硬くなっている。真摯な黒い瞳を見て、わたしは事実を察した。溜め息をつく。


「乗っていたのね……」

「おい、おっさん」


 ルネが唸るように話しかけた。皆川さんは苦し気に言った。


『ニュースを観たのなら、話は早い。実際は、少し違う。爆発ではなく、消えたんだ、どこかへ』

「消えた?」


 ルネとミッキーとフィーンの声が重なった。皆川さんは、大きな頭を縦に揺らした。

 ミッキーが促す。


「どういうことだ、鷹弘」

『電話じゃ言えないんだ、ミッキー。とにかく、助けて欲しい。お前の力を貸して欲しいんだ』 

「…………?」


 どういうこと? 皆川さんがミッキーに、力を貸して欲しい、なんて。戸惑うわたし達の隣で、ルネはぎりぎり歯を噛み鳴らした。


「じれったい野郎だな。さっさと用件を言え、用件を!」

『……《AONVARR(アンヴァル)》号は、今日が初めての試運転だったんだ。十二機のクオーク・エンジン全てに点火して、アステロイド・ベルト(小惑星帯・火星と木星の軌道の間にある)まで行って帰って来る予定だった』


 歯切れの悪い皆川さんの説明に、ルネは毒気を抜かれて繰り返した。


「クオーク・エンジンが十二機、だと?」

『そうだ』

「どういう船だ。アンドロメダまで行こうってのか?(注*)」

『…………』


「鷹弘」


 ミッキーは、足元にしがみつくカウリー君の頭を撫でてあげながら、形の良い眉をひそめた。滑らかなテノールが親友を労わる。


「お前、今、どこにいるんだ? 電話で話せないなら、おれがそっちへ行こうか」

『いや、ミッキー。俺が行く。会わせたい人もいるんだ。俺は 《レッド・ムーン》 にいるんだが……ことは急を要する。これからすぐ行っていいか?』

「ああ。構わない」

『《アンヴァル》は、爆発したわけじゃないんだ』


 皆川さんは太い眉を曇らせた。低い声が悲痛に聴こえた。


『第八エンジンを点火した途端、消えてしまった。余剰次元の隙間に滑りこんだとしか考えられない。それで、お前の能力(ちから)が必要なんだ、ミッキー』

「…………」

『お前だけが、あいつを追いかけられる。ラグを……。《アンヴァル》号と一緒に消えてしまった、ラグとライムを助けてくれ』


 あまりのことに、ミッキーは何と言っていいか判らない様子だったけれど、わたしとフィーンは息を呑んだ。

 ルネの眼がさらに大きくみひらかれる。狂おしいほど鮮やかに、蒼い瞳が煌いた。


「待て、鷹弘。何と言った? おっさん」

『…………』

「乗っているのか? ライが。あの船に――乗っていたのか?」


 ルネは皆川さんを見据えて――にらみすえて叫んだ。煙草でかすれた彼の声は、血を含んでいるようだった。


「それを先に言え! 馬鹿野郎!」






(注*)クオーク・エンジンは、この話では核融合エネルギーを利用したエンジンという設定です。小型の太陽くらいの出力がありますので、十二機と聞いてルネは驚いたわけです。

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