5話『私を魔王討伐の旅に連れてって!』
勇者一行が魔王討伐の旅に出るために、城下町の大通りを出立のパレードが王都をぐるりと囲むように築かれた城壁にある門に向けて進んでいく。
魔王討伐の旅に同行する勇者一行を一目見ようと王都内外から人が詰めかけ、魔族の強襲と魔王復活に沈んでいた王都は活気に溢れ賑わいをみせている。
グランツォ王国の騎士を先導に、楽団が続き、白馬に騎乗した勇者であるバスティアン・バラデュールが現れると、街には声援があちらこちらから上がり続けた。
堂々と白馬を乗りこなす勇者の姿は白銀のフルプレートメイルが太陽の光を反射していっそ神々しいまでに輝いている。
その後ろには本来パレードには使用されることがない地味な、しっかりとした造りの幌馬車が付き従う。
がっしりとした体躯の馬の手綱を操り、馬車の馭者台には、武装した聖女の雛のアンリネット・クシュリナーダ公爵令嬢が詰めかけた民に上品に手を振り返していた。
平民には持ち得ないシミ一つ無い陶器のような美しい白色の手を、上品に振り民の声援に応えている。
彼女の隣には『賢王の雛』ギルバート・グランツォ王太子の姿まであった。
本来ならばこの国の次代であるグランツォ王国の王太子が、魔王討伐の旅に同行する事はありえない。
しかし『賢王の雛』のジョブスキルの力は、平民には想像できないほどに強力なのかもしれない。
他の王国と協力し、持てる軍事力を投入して魔族と戦うのだと民達は考えていた。
魔族と人間による全面戦争となればどれ程の命が失われるのだろうか……と。
剣士や弓士、騎士等の戦闘特化のジョブスキルを持っている者ならば魔物の討伐の位は出来る。
しかし相手が魔族となれば話が違う。
強力な力を有する魔族に相対して、並みのジョブスキル持ちでは歯が立たない。
魔物相手に苦戦する足手まとい数千人の弱い兵士を出すよりも、レアスキルを保持した強者を少数精鋭向かわせる方が効率が良いのである。
例えそれが王族で有っても例外ではない。
魔王討伐の旅には勇者より落ちるが、レアスキル『狂戦士』を持つ次期騎士団長と有力視されているグレイトン・オフリーと、『魔術師』という数少ない不思議な力を有するギリオン・ベインズが同行する。
家名を持っている事からも分かるように、彼らも高位貴族に連なる者達だ。
そんな彼らの華々しいパレードが行われている中、エミーは一人王都の市場を駆けずり回っていた。
「おばちゃん! この鍋売ってくれない?」
店の外、路肩に追いやられるように打ち捨てられた不恰好に歪んだ鍋を指差す。
「あぁ、魔族が攻めてきた時に歪んじまって売り物になりゃしないがらくただから、欲しいなら持ってきな」
「ありがとう! あっ、この包丁ください!」
地面に布を広げ、その上に並べられている包丁の中から長めの包丁を選んだ。
「はいよ、危ないから気を付けて持って帰るんだよ」
布で刃を保護するようにしっかりと巻き背負った荷物いれにしまう。
頂いた鍋を頭に被ると笑われた。
「あんた、そんな姿をしてどこに行くんだい?」
薄く伸ばした金属板の四つ端を折り曲げて造られた料理用の平鍋の持ち手に縄をくくりつけ、胸に当てると縄を背中で交差させ、反対側の持ち手に通して身体に縛り付ける。
「私を捨ててなんの相談もなく居なくなった薄情な男を懲らしめに行くのよ」
「あはははっ、殴り込みかい? なんだい、好いた男に捨てられちまったのかい。 ならこれも持ってきな」
布に並んだ調理器具から汁物を掬うためのお玉を渡してくれる。
「見る目の無いバカ男なんかうちの自慢のお玉で頭にたん瘤でもつくってやんな、威力は保証してやるよ」
ニヤリと笑う店主のおばちゃんに礼をつげる。
きっとこのお玉で誰かに鉄槌をくらわせたことがあるのだろう。
「ありがとう!」
紐で荷物いれにくくりつける。
そのあとも色々な店を回って必要そうな荷物を買いそろえていけば、ずっしりとした重みが身体にかかった。
「針に糸に……保存食……」
大荷物を背負い込みブツブツ言いながらニヤニヤと歩く私はさぞや不気味だったことだろう。
「長縄も……」
思い付く限りの物は独立のために貯めていた硬貨で買いそろえた。
「足りないものは自給自足か途中で買い取ろう……」
思い付く物を買いそろえて長距離を歩くのに適した獣の革でできたブーツで1歩1歩踏みしめ、王都から出るべく四つある門のうちの一つへ辿り着いたのは勇者一行が辿り着く半時(一時間)程前の事だり
まだ人もまばらである大門を護る兵士に近づき、声を掛ければ私の姿について二、三質問をされたあと、出発の書類に名を記入させられ呆気ないほどに外へと出ることができた。
停めるべきか悩む素振りの兵士に頭を下げて微笑めば、沈痛な顔で送り出してくれた。
堅牢な外壁に護られた王都の外には、これまで一度たりとも出たことがない。
商人達が通って居るとはいえ、街とは違って盗賊も出るし、もちろん危険な魔物も跋扈している。
安全な場所からたった一人の男を追って旅立つのは覚悟がいる。
石畳と剥き出しの地面の境目はまるで私の決意を嘲笑っているようで、震える足はたった一歩がなかなか踏み出せない。
どうせ越えられやしないだろうと嘲笑われているようで、恐怖を振り払うために両手のひらで思いっきり両頬を叩いた。
覚悟を決めて踏み出した私を濃い森林の香りと野生の生き物の気配が包み込む。
もうここは……人間の住む世界じゃない。
「これからが本番なのよ、怖じ気づいてどうするの」
自分を鼓舞して森へと続く道を睨み付ける。
背後から聞こえたファンファーレにあわてて道を外れれば、長い草に足をとられて転んでしまった。
「さぁ、エミー……気合いをいれろ!」
これからやってくる一向に願いを聞いて貰えるとは思ってはいない。
彼らにとってエミーは足手まといでしかないのだから。
「待ってなさい! レオ!」
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