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14 技巧派冒険者たち


 ほどなく、やぶを漕ぐようにして冒険者が現れた。

 男2人に女1人の3人組。

 サムライ、拳闘士、弓術士の組み合わせだ。


「ち、地鯨龍エルダヴァール……」


 長身痩躯のサムライが愕然とした顔で言った。

 サムライといっても西洋甲冑姿だが、目くじらは立てないでおくか。


「死んでんのか? ……って、尋ねるまでもねえな、こりゃ」


 拳闘士の男は、ワイルドな風貌の獣人族。

 たぶん、狼系。


「何で斬りつけたらこうなるのかしら? こんなに分厚い鱗殻が……、背骨も真っ二つだわ」


 弓術士の女はエルフの血が入っているらしい。

 耳の先が少し尖っていた。

 ハーフエルフというやつだろう。


「ねえ、ムライザ。サムライって、ブシドー極めたら空間ごと斬れるようになるんでしょ? ほら、イアイとかバットー術とかって、あれ」


「ええ。ですが、そんなの英霊クラスの話ですよ。それに、これは、サムライではなく魔術師の所業ですね。高位の土魔法、そして、水魔法も……。相当な手練れが地の底からエルダヴァールを引きずり出して首を斬り落としたようですね」


「オレの見立てじゃ、ほぼ瞬殺だな。勝負になってねえ。明らかに次元が違いやがる。赤子の手をひねるみてえに一瞬で決着だ」


「戦闘狂のロォガルが言うならそうなんでしょうね。やっばい奴がいたもんだわ」


「ユミリ、過去形にしないでください。周囲に誰か隠れていませんか。まだそれほど時間は経っていないはずです」


 三人は鷹のような目でぐるりと周囲を見渡した。

《存在隠匿/ハイデン》と幻術の重ね掛けだ。

 見つかるはずがないとわかっていても、遮るものがないと背筋に寒気が走る。

 特に、ロォガルは鼻が利きそうだ。

 幻術で欺けるのは五感のうち、視覚だけ。

 雨が降っているから、気づかれることはないと思うが。


「……誰の匂いもしねえな」


「それは、おかしい。足跡は残されています。誰かいたはずですよ。この足跡、男物のブーツですね。人数は1。スキルか、魔法か。いずれにしても、必ず誰か隠れています」


 ムライザと呼ばれたサムライはかなり目端が利くらしい。

 頭のいい奴特有の光が目に宿っている。


「そう言われて初めて気づいたぜ。しやがるぜ、匂いが。ビンビンに香ってきやがる。なんで、今の今まで気づけなかったんだ?」


「認知をすり抜けるスキルの使い手なのでしょう。私も足跡を足跡だと認識するのにずいぶん手間取りました」


「は? あたしなんて、まだ足跡見つけらんないわよ? ほんとに誰かいるの?」


「ロォガル、臭跡と足跡をたどってください」


「了解だ、大将。匂うぜ、匂うぜ。こいつぁオレの大好物、犬系獣人の匂いだな。しかも女だ」


 これまでか。


「いい鼻してるな」


 と、俺はスキルと幻術を解いて姿を見せた。

 正直、冒険者を舐めていた。

 追跡師というジョブもあるくらいだ。

 逃げ隠れする者がいれば、それを暴き出す者もいるということだ。


 とまあ、このときは完敗を喫して俺はずいぶん落ち込んだのだが、後になって彼らが王都屈指の技巧派パーティーだと知った。

 冒険者ランクは3人とも聖級。

 人外を除けば、トップクラス。

 俺の隠遁術はそんな彼らにとっても驚愕に値するものだったらしい。

 姿を現しても、30秒くらいは目を白黒させていた。

 うわっ、本当にいたよ……、って感じで。


「なによ。思いっきり人族じゃない。男だし。このポンコツ狼!」


「誰がポンコツだ! あのガキ、マジで犬臭ぇんだよ。犬飼ってやがるな。メス犬だ。ぜってえ間違いねえ」


「二人とも警戒を怠らないで。少なくとも、あの少年は私たちより数段うわてですよ。たぶん、刀を抜く暇すら与えてくれません」


 俺を見るムライザの目には、言葉の割に敵愾心はなく、むしろ好奇心に満ちていた。


「エルダヴァールを討伐したのは君ですね」


「そうだが?」


「そして、倒したまではいいが、処分に困っている。そうですね?」


「そこまでわかるのか」


「ええ。君の足跡、同じところをぐるぐる回っていましたからね。どうやって持ち帰ろうかと考えあぐねていたのでしょう」


「ご名答。いい鼻にいい目か。ポンコツはそっちのエルフだけみたいだな」


 俺が肩をすくめると、ムライザはフッ、と笑った。

 ロォガルも馬鹿みたいに大笑いしている。

 ユミリだけがカンカンだった。


「これほどの魔物を仕留めてしまうとは。見たところ、お若いようですが、すごいですね君は。名前を訊いても?」


「マヤトだ。別に有名な魔術師とかではない」


「のようですね。私の心当たりにもその名はありません。彗星のごとく現れし若き凄腕魔術師ですか。ふむ」


 ムライザは早くも俺の正体に察しをつけたようだった。

 それでいて核心に踏み込んでこないのは、思慮深さゆえだろう。


「おっと、私としたことが名乗り遅れましたね。名をムライザ・ハルキリーと申します。当パーティー『王都四輝星フォースター』にて、恐れ多いことにリーダーを任されています」


『四』という割に3人しかいないんだな、と思ったが、口には出さなかった。

 前衛に、サムライのムライザと拳闘士ロォガル。

 しかし、後衛は、弓術士ユミリ1人だけ。

 バランスを考えれば、魔術師か治癒術師が必要なはずだ。

 それがいない理由を察せられないほど愚かではない。


 それより、俺の関心は別のことに向いていた。


「星……か」


 南南西に星の導きあり。

 模倣のおっさんの占い通りになった形だ。

 胸の底で湿った笑い声が聞こえた気がした。

 ヤなおっさんだ。


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