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第四話 『冒頭と人物と借り物と』

 小説の命は二つ。「冒頭」と「人物」だ。

 私が頭を悩ませる命題も二つ。「妻と娘」、それに「佐藤裕子」だ。


 あれから件の佐藤裕子からは何のアプローチもない。いや、私が知らないだけで、娘のケータイには定期連絡のように繋がりあっているのかも知れないが。今の一瞬に、室内体感温度が一度ほど下がり、私は身に覚えずの震えに襲われた。端的に言えば身震いだ。……定期、連絡、だと?


 ラジオ体操第一のテーマが都合よく脳内で回転しだしたので、私はさっそくリフレッシュの為に身体を動かす事にした。さー、まずは立ち上がり、大きく腕を前後に回しましょうー。

「もぅ、お父さん! なにやってるの!」

 珈琲ブレイク。腕を回した拍子にテーブルのカップをこけさせかけた私は妻に小言を言われてしまった。

 すまん、すまん。


 娘が例えばそう、風呂に入っている時に、偶然にも私が娘の部屋へうっかりと踏み入ってしまってだ、そうしてまたうっかりとケータイを机から落としてしまったとしよう。そうした時に私が、自身の良心に従ってだ、そう、ケータイが壊れたのでは娘が色々と困るであろうと気を回してだ、故障の確認の為に、事前になぜか知ってしまった暗証番号で開いて確かめたとしてだ、それを咎められる謂れは果たしてあるだろうか。


 ない。そう、ないはずだ。

 なぜなら、私の心には(表面上)何の疚しい思惑も存在しない故である。


 ああ、しかし、待て。急いては事をし損じるという諺もあろう。今回、このミッションはあまりにリスクが大きくはないか。もし失敗したとして、娘と私の人間関係には重大な亀裂が走らないと誰に断言できよう。そう、先日にも娘と私の隔たりが、親と子の如何ともしがたい立場における断絶が、承知されたところではなかったか。そこには罠が、罠がある。


 利便性ゆえの罠。小説においても同じ、テンプレ小説は確かに書き良いだろう、面白いだろう、多種多様を誇るだろう、一見では。これは、一見ではそう見えるというに過ぎない。友達親子が一見では理想の形態に見えるが如しなのだ。親子の立場における断絶を取り除き、親が子の立場にまで降りてきた所に、友達親子の利便があり欠点がある。何事においても、そは同じ――。


 同じなのだ。

 私には解かる。これを小説に置き換えた時、私には手に取るように見えるのだ。


 テンプレ小説は、類似の設定で次々とバージョンを広げていく手法である。シェアワールドや二次創作の同類と言って差し支えないほどだ。では、この三者は何者であるのか? そう、「借り物」なのだ。

 借りているモノは何だ? お察しの通り、世界観であり、人物であり、物語のスタートだ。


 それがなぜ問題であるかが解からないなら、友達親子の危険性にも思い及ぶまい。


 多くは言う必要を認めない。

 タダで読めるネットの海に、これらの類似は幾らでも存在する。それこそが、問題点だ。


 商品価値を持つものは、制作困難なジャンルと分かちがたい繋がりを持つ物に限定されていくだろう。例えば、アニメ・ドラマの原作。作者のブランド化。表紙絵。本物とバッタ品の区分が出来ていく。制作過程が困難で、誰もが作れるモノでない、それが付加価値としてプラスされねば売れない時代がやってくる。クオリティではなく、純粋に制作過程の複雑行程を踏むモノだけが揺るぎない価値観として君臨する。


 価値とはなんだ――


 借り物で「作品の命」を補ってきた作者は、葛藤を避けた友達親子は、家族から逃げた仕事人間は――

 経験不足に陥るだろう。


 私のように。

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