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79:聞きたいことがあるんです

「……じゃあ、ついでに如月さんも誘ってみる?」

「なんでぇッ!?」


 私の提案に、薫はギョッとした表情で聞き返した。

 嫌そう……というわけではないけど、かなり驚いているみたいだ。

 ポリポリと頬を掻きながら、私は続けた。


「いや……如月さんは、ホラ……料理センスが絶望的だから……」

「……あー……」


 私の言葉に、薫は納得した様子で呟く。

 ……宿泊研修での料理は酷かったからな。

 あれは練習しないとダメだ。薫程切羽詰まった状況ではないにしろ、料理は出来た方が良い。


「でも……私、沙希ちゃんに嫌われてるし……」


 一人考えていると、薫は暗い声でそう呟いた。

 彼女の言葉に、私は「そうなの?」と聞き返した。

 すると、薫は「そうだよぉ!」と、どこか訴えるように言った。


「え? 神奈ちゃんもしかして、気付いて無かったの?」

「気付いてなかったって……え?」

「だって……沙希ちゃん、神奈ちゃんに対する態度に比べて、私への態度すごく冷たいよ!? 私と神奈ちゃんが話してるの見たら、ゴミを見るような目で見てくるし……!」

「それは大袈裟なんじゃ……」

「大袈裟なんかじゃないって!」


 力説する薫に、私は気圧される。

 「分かった、分かったから」と宥めつつ、少しだけ考える。

 ……如月さんがそんな人だとは、思えないけどなぁ。

 まぁ、確かにちょっとクールというか、冷淡な部分はあると思う。

 けど、なんだかんだ言って助けてくれたりするし、根は優しい子だと思うよ?

 これをどう薫に伝えようかと、思考を巡らせていた時だった。


「……あの時は違ったのに……」


 ポツリと呟く薫に、私は「あの時?」と聞き返す。

 すると、彼女はハッと顔を上げて私を見た。

 それから、すぐにフルフルと首を横に振った。


「何でもないよっ!」

「いやでもさっき……」

「とにかく! 私は別に一緒でも良いけど、向こうは私と一緒は嫌なんじゃないかなぁ……って」


 薫の言葉に、私は「うーん……」と考え込む。

 別に、如月さんは薫のことも、嫌ってはいないと思うんだけどなぁ……。

 なんだかんだ、親身になって色々助けてくれたし、少なくとも嫌ってはいないと思う。

 私に協力しただけ……って可能性もあるけど、もし薫のことが嫌いだったら、そもそも協力すらしないと思うし。


「まぁ、これから如月さんと話すことがあったし、ついでにこのことも話してみるよ。……最終的に決めるのは彼女だからね」

「……分かった」


 絶対断りそうだけどなぁ……と思っていそうな表情で、薫は答えた。

 彼女の反応に笑いつつ、私は教室の扉を開けた。

 さて、如月さんは……っと……。


「……あれ?」


 教室を見渡した私は、小さく声を漏らした。

 ……如月さんはどこ?

 パッと見渡してみても、明らかに彼女はいない。

 席を見た感じ、学校には来ているみたいだけど……。

 トイレにでも行っているのかな? と思っていた時、鞄にしまっているスマートフォンのバイブレーションが鳴った。


「うわッと」


 驚きつつ、私は慌てて鞄に手を突っ込み、スマホの電源を点けた。

 するとそこには……如月さんの名前が表示されていた。


---

<如月沙希視点>


「ふぅ……」


 スマホの操作を終えた私は、小さく息をつきつつ、制服の胸ポケットにそれをしまう。

 汗の滲む右手の中には、職員室の先生を言いくるめて借りた屋上の鍵が握られている。

 ……なんで、こんなことをしているんだろう。

 良い子でいなければならないのに、私のしていることは……何なんだろう。

 授業をサボったり、先生に嘘をついたり……両親の求める良い子とは程遠い。

 別に、昔から根っからの良い子だったわけではないけど……ここ最近、明らかにおかしい。

 表向きは良い子の優等生でいなければならないのに、それとはかけ離れた行動をしてしまう。

 感情が表に出ることも多くなり、その感情に任せて動いてしまう。


 ……結城さんが絡むと、私はおかしくなる。

 これを……人はきっと、恋と呼ぶのだろう。

 いや、結城さんへの恋心など、とっくの昔に自覚はしているのだけれど……それでも、改めて自覚してみると苦しかった。


 ……こんなの病気だ。

 私が、私で無くなってしまう。

 心と、頭と、体が……一致しない。

 胸が苦しく締め付けられて、痛くて苦しくて苦いだけ。

 こんなのは、これが最初で最後で良い。

 結城さんのことは諦める。

 でも……この問題だけは、解決させる。

 乗り掛かった舟だ。せめて、好きだった人が幸せになれるその時までは……支えよう。


 私は一度深呼吸をしてから、右手に握り締めていた鍵で屋上の扉を開けた。

 外に出ると、朝の爽やかな風が、前髪を揺らす。

 髪が乱れるのを手で押さえながら、私は、奥の方にいる人影に視線を向けた。


「……如月さん?」


 扉が開く音に振り返ったレイさんは、私を見て、不思議そうに声を上げる。

 それに、私は何も言わずに、彼女の元に近付いた。


「あの……どうしたんですか? 結城さんじゃなくて……なんで、貴方が……」

「……聞きたいことがあるんです」


 私の言葉に、レイさんは目を丸くして、動きを止める。

 それに、私は足を止めることなく続けた。


「ねぇ、レイさん……いいえ、雨宮怜さん」


 レイさんとの距離が一メートルくらいになったところで、私は足を止める。

 真っ直ぐ彼女の目を見つめたまま、私は続けた。


「……生きていた頃の記憶、ありますよね?」

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