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71:後腐れ無く終われる方法

<結城神奈視点>


 放課後になり、屋上にて、私達はナギサの真意を聞いた。

 あの嘘が、彼女なりに悩んだ結果だったということも知った。

 やはり二人を会わせるという私の選択は軽率だったかと悔やんだが、ナギサは、私は悪くないと言ってくれた。


「まぁ、幽霊になったとはいえ……私だって、薫に会うべきだったと思うし……神奈ちゃんがいなかったら、絶対お互いの存在を知らないまま終わってたよ」


 ニッと笑いながら言うナギサに、私は何も言えなくなる。

 終わってた、というのは……成仏のことか。

 如月さん曰く、幽霊には三年という期限が設けられている。

 その期限を超えれば、幽霊は自然と成仏するらしい。


「……私も……お姉ちゃんに会えて嬉しいよ」


 薫はそう言って、どこか泣きそうな笑みを浮かべる。

 彼女の言葉に、ナギサは目を逸らしながら「そっか」と呟いた。

 すると、薫は服の裾を握り締めて、続けた。


「でも……こうやって会うと、なんか、こう……色んな感情が、グワーってなって……何から言えば良いか、分からなくて……」

「……ゆっくりでいいよ。時間はあるんだからさ」


 微笑みながら言うナギサに、薫は顔を上げてから、その顔を赤らめて「ん」と頷いた。

 ……しばらくは二人きりにしてあげるべきだろう。

 そう思った私は、如月さんとレイを連れて、校舎の中に入った。


「……それで、これからどうするの?」


 校舎に入ってすぐの、下り階段のすぐ手前の場所で、如月さんがそんな風に聞いてきた。

 彼女の言葉に、私は「どう……?」と聞き返した。

 すると、彼女は静かに頷いて続けた。


「ナギサさんと、有栖川さんを引き合わせて……その後は?」

「その後……なんて……考えてないけど……」

「……」


 私の言葉に、如月さんは静かに眉を潜めた。

 そんな顔しないで欲しい。

 考え無しに行動し過ぎたことは自覚しているけど、二人が姉妹だって分かったら、誰だって会わせてあげたいと思うじゃないか。

 今だって、屋上からは、楽しそうに談笑する有栖川姉妹の声が聴こえる。


「……このまま三年経つまで、ナギサさんを放置しておくつもり?」


 静かに言う如月さんに、私は言葉に詰まる。

 すると、彼女は私を見て、静かに溜息をつく。

 それから屋上への扉に視線を向けて、ゆっくりと続けた。


「正直、私は反対。……このままじゃ、有栖川さんはナギサさんに依存することになる」

「依存って……」

「わ……私も如月さんに賛成です」


 如月さんの言葉に、意外なことにレイが賛同する。

 どういうつもりだろうかと視線を向けてみると、彼女はグッと唇を噤み、少ししてから口を開いた。


「有栖川さんは……あの様子から察するに、きっと、ナギサさんのことが本当に大好きだと思います。……だからこそ……幽霊であるナギサさんに、縋り続けてしまう気がします……」

「……縋る……?」

「う、上手くは言えないんですけど……なんていうか……ずっとナギサさんを心の支えにしてしまいそう、というか……」


 レイの言葉に、如月さんは少し間を置いてから、「そうね」と小さく呟いた。


「まず、有栖川さんは一度、ナギサさんを失っている。失っているからこそ、ナギサさんの存在の大きさも、いなくなった時の喪失感も知っている。だから、こうしてまた出会ってしまえば、もう失いたくないと考える。……ナギサさんが生きていた頃以上に、姉に執着するようになる」


 ……なんとなくは、分かった。

 まだ完全に理解出来たわけではないけど……ホントに、なんとなく。

 つまり、このままだと薫は、幽霊であるナギサさんに執着して……前に進めなくなってしまう。


「でも、じゃあ、どうすれば……」

「……正直、こればかりは有栖川さん本人に委ねるしかない」


 小さく呟く如月さんに、私は屋上への扉に視線を向けた。

 ……薫は、どういう答えを選ぶんだろう……。

 分からない。けど……出来れば、前に進んで欲しい。


「ただ、本当にナギサさんに依存し過ぎて、これはマズイなぁと思うレベルになったら……流石に手を打つ」

「……手を打つって……」

「ナギサさんを強制的に成仏させる」


 如月さんの言葉に、私より先に、レイが「如月さん……ッ!」と声を発した。

 私はそれに、少し考えて、口を開いた。


「……そんなこと出来るの……?」

「……出来る」


 小さく呟く如月さんに、私は言葉を失った。

 すると、彼女は一度レイを見てから、屋上への扉を見て、また私を見て続けた。


「幽霊が成仏する方法は……大きく分けて、三つあるわ」

「……三つ……?」

「まず、一つ目は三年の月日をひたすら待つ。……ナギサさんの場合、これは出来るだけ避けたい」

「薫が、ナギサに依存してしまうから……?」


 咄嗟に聞き返すと、如月さんはコクッと頷いた。


「そう。それで、二つ目はお祓い……まぁ、強制的に成仏させる方法ね。これは幽霊や遺族の意向を無視してでも行える方法。……だから、最悪の場合はこれを使う」

「……」


 如月さんの言葉に、私は唇を小さく噛む。

 もしも、薫がナギサに依存し過ぎてしまった場合は……この方法を取ることになるのか。

 出来ればそうならないで欲しいけど……難しそうだ。

 私が何も言えずにいると、如月さんは続けた。


「あとは、三つ目。……多分これが一番、後腐れ無く終われる方法ね」


 彼女の言葉に、私はハッと顔を上げる。

 すると、如月さんも私を見て、静かに言う。


「……幽霊が、現世に残した未練を解決させること」

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