64:私の家寄ってく?
「な……なんで、二人がここに……?」
私と薫を交互に見ながら、如月さんは言う。
それに、薫はキョトンと首を傾げながら、口を開いた。
「そう言う沙希ちゃんこそ、こんな所で何してるの?」
「こんな所で、と言うか……家が近いだけよ。さっきまで境内の掃除をさせられてたの」
「……あ、そっか!」
如月さんの言葉に、薫は納得した様子で声を上げた。
二人の言葉をしばらく吟味してから、私はハッと気付く。
「あ、そっか……如月さんち、神社なんだっけ」
「流石に神社に住んでるわけじゃないけどね。ここの墓地も私の家が経営してるんだけど……二人でお墓参り?」
「いやぁ……これには色々と事情が……」
私はそう言いながら、視線を逸らす。
どう説明すれば良いものか……というか、どう説明しても怒られそうな気がする。
流石に、幽霊と人を合わせようとしているのはヤバいよね。
どう誤魔化そうかと悩んでた時、如月さんは首を傾げ、口を開いた。
「もしかして……長くなる話?」
「いや、あの……」
「……長くなるなら、私の家寄ってく?」
「えッ?」
「沙希ちゃんち?」
予想だにしていない返答に、私と薫は、つい聞き返した。
私達の反応に、如月さんは「うん」と頷いた。
「ここから近いし、時間も気にしなくても良いでしょ?」
「いや、でも悪いよ……」
「別に、私の両親は気にしないわよ。それより……結城さんが神社で何をしていたのかが気になるなぁ?」
そう言いながら、如月さんはジト目で私を見てくる。
彼女の反応に、私はソッと視線を逸らした。
まぁ、彼女の言葉は分かる。霊感がある人からすれば、墓場なんて自分から好んで行くような場所ではない。
別に、幽霊だらけというわけではない。というか、墓地に幽霊自体は全くいないのだ。
しかし、やはり死んだ人の骨が埋まっている場所であるせいか、独特な空気感がある。
寒気というか、蔓延する怨念というか、そんな感じ。
多少の悪寒程度なので、ずっとこの場所にいられない程のものではないが、それでも必要以上に入りたい場所ではない。
どう言い訳をしようか悩んでいた時、ポンッと肩に手を置かれた。
「嘘ついて誤魔化せるなんて……思わないでよね」
「……」
如月さんの言葉に、私はガクガクと頷いた。
降参だ。彼女には敵わない。
無言を肯定だと受け止めたのか、如月さんは私から距離を取り、薫に視線を向けた。
「有栖川さんは? これからどう?」
「え? えーっと……私は大丈夫だよ」
「良かった。じゃあ、行きましょうか」
明るい声で言う如月さんに、私は内心で溜息をついた。
……気が重い……。
とはいえ、このまま彼女の隠し通せるかと言われると微妙だし、むしろここで話してしまった方が良いのかもしれない。
そう思った私は、薫と共に、如月さんの家に向かった。
「ここだよ」
そう言って、如月さんは目の前にある家を手で示す。
……本当に近かった。
先程私と薫がいた場所から、歩いて二分くらいで着いたと思う。
歩いてくる中で分かったが、如月さんの家は如月神社のすぐ裏にあり、墓地は如月神社のすぐ隣にあった。
私達が歩いて来た道は、墓地から如月神社の反対側にあったので、気付かなかったのだ。
如月神社横の細い路地を使って裏に周ると、如月さんの家は、本当にすぐ近くにあった。
と、言うか……結構古い家だな。
決して、ボロいと言いたいわけではない。
どちらかと言うと、古風と言うか、和の雰囲気がして良いと思った。
玄関なんて引き戸だ。開くと、カラカラと小気味よい音がした。
「それじゃあ、遠慮なく上がって」
「お、お邪魔します……」
「お邪魔しまーす」
如月さんの言葉に、私と薫は玄関に上がる。
中も凄く和な感じがして、線香のような、独特の匂いがした。
……そういえば、人の家に上がるのなんて、初めてかもしれない。
「お茶とか用意しておくから、私の部屋行ってて。そこの階段上って右手の一番奥の部屋だから」
「あ、うん」
「分かった」
台所に入っていく如月さんの言葉に、私達は言われた通りに階段を上がる。
「ねぇねぇ、神奈ちゃん」
階段を上がりながら、薫が小声で声を掛けてくる。
彼女の言葉に、私は「何?」と振り返った。
すると、薫は一度後ろに振り向いてから、私を見た。
「沙希ちゃん……なんで急に、家まで来てなんて言い出したのかな? 神奈ちゃんはともかく、私とはそこまで……その……」
「……多分、私達がお墓に来た理由が、何かしらの幽霊関係だってことに気付いたんじゃないかな。如月さん、頭良さそうだし」
「……もしかして、沙希ちゃんも幽霊が見えるの?」
薫の言葉に、私は、しまったと思った。
多分、今日の話のことで如月さんも幽霊が見えることを話すことにはなるだろう。
でも、これは本人から説明するべき出来事であり、私が無断で話して良い内容ではない。
「えっと……うん……」
しかし、ここまで話したらもうどうしようもないので、私は素直に認めた。
すると、薫は目を伏せて「そうなんだ……」と呟いた。
階段を上り切った私達は、如月さんに言われた通り、右手の一番奥にある部屋に入った。
そこは――恐らくだけど――如月さんの部屋だった。
綺麗に整頓されており、清潔な感じがした。
ごく普通の部屋で、特筆すべきことは何も無……あぁいや、本棚になんかすごい本入ってる。
かなり古びていて、パッと見紙も黄ばんでいる本が多数。
中身は分からないけど、多分お経とかの本だと思う。
……大変そうだなぁ。
「ここが沙希ちゃんの部屋、かぁ……」
キョロキョロと辺りを見渡しながら、薫は呟く。
その時、部屋の扉が開いた。
「お待たせ……って、何ずっと立ってるの? 座ったら?」
お茶が入ったコップを三つと、何やらお菓子が入った器が乗ったお盆を持った如月さんが、どこか呆れた様子で言う。
彼女の言葉に、私と薫は、テーブルを挟む形で座った。
すると、如月さんはお盆を置き、私から見て右側の方に座った。
それからコップをそれぞれの前に置き、お菓子が入った器をテーブルの真ん中に置いて、お盆を脇に置いた。
「それじゃあ……説明してもらえる? なんでわざわざ、二人でお墓に来たのか」




