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48:すごく幸せなことだと思う

「……梓沙が……如月さんのこと、好きだからさ」

「……へ?」


 予想もしていなかった言葉に、私は間抜けな声で聞き返す。

 しかし、黒澤さんはそれ以上何も言わずに、トントンと野菜を刻み始める。

 ちょ、ちょっと待って?

 梓沙って……滝原さんのこと、だよね?


「……滝原さん、如月さんのこと好きなの?」

「……うん」

「えっ、いつから?」

「さぁ? 私が梓沙と出会った時にはすでに恋してたから。……かなり前なんじゃない?」


 平然と言いのける黒澤さんに、私は「そうなんだ……」と小さく呟く。

 なんていうか……驚いた。

 同性愛なんてものが、こんな身近に転がっているなんて思いもしなかったから。

 けど、レイのことがある手前、私に否定する道理は無い。

 いや、否定するつもりも無いんだけど……うん……。


 けど、滝原さんが如月さんのことを好きだということで、納得する部分もある。

 彼女が熱烈に如月さんとなかよくしているところだとか、いつも如月さんに憧憬を抱いているところだとかね。

 でも、そっか……好きなのか……。


「……ヤキモチ?」

「まさか。ただ、ちょっとだけビックリしただけ。でもまぁ、いつも如月さんのこと見てるもんね、彼女」

「そうだね。……バレバレ」


 小さく言いながら、黒澤さんはジャガイモを刻む。

 彼女の言葉を聞きながら、私は皮を剥き終えたニンジンをザルに入れた。

 タマネギは……皮剥くのは簡単だし、このまま黒澤さんに任せちゃおうかな。

 そんなことを考えつつ、私は口を開いた。


「でも……滝原さんは幸せ者だね」

「……え?」

「だってさ、黒澤さんはこんなにも滝原さんのことを考えているじゃん? 私に如月さんのことをどう思っているのかも……ライバルを減らす為でしょう?」

「……」


 私の言葉に、黒澤さんは答えない。

 トントンと順調に野菜を刻むのを眺めつつ、私は続けた。


「自分の恋愛を応援してくれる友達がいるのって、すごく幸せなことだと思うんだけどなぁ」

「……別に……応援なんて……」


 小さく呟きながら、黒澤さんは目を逸らす。

 ……彼女にはどこか、素直じゃない節があるな。

 でも、黒澤さんのことをちゃんと考えていて、きっと優しい子なんだろうなって思う。

 滝原さんは良い友達を持ったと、心の底から思う。


「ただいま~……っと。料理順調そうだね?」


 その時、噂の主の如月さんが帰って来た。

 彼女の言葉に、私は「うん」と頷く。


「後は野菜を切るだけだよ。……ところで、何の用事だったの?」

「ん? あぁ、晩ご飯の後の肝試しについて、ちょっとね」

「へぇ……肝試し」

「うん。先生達張り切ってるよ」


 苦笑いを浮かべながら言う如月さんに、私は「そうなんだ」と苦笑した。

 肝試しを否定するわけじゃないけど、幽霊が見える私達からすれば、多分子供だましくらいにしか見えないと思う。

 そもそもホラー系のジャンルなんて、霊感がある人間が楽しめるはずないんだけどね。

 如月さんも同じことを思っているのか、微妙な感じの表情だ。


 そんなやり取りをしている間に、黒澤さんがタマネギを含めた全ての野菜を切り終える。

 私達は早速鍋で野菜や肉を炒め、水を加えて煮込む。

 ルーを入れてさらにグツグツと煮込み、あっという間にカレーが完成した。


「凄い……美味しそう……」

「こっちはこれで良いけど……後はご飯だけだね」

「おーい」


 感嘆の声を漏らす如月さんに答えていた時、遠くから声がした。

 振り向くとそこでは、有栖川さんと滝原さんが、炊飯ジャーのようなものをこちらに運んでくるのが見えた。


「……米炊けたの?」

「おー! バッチリだぜ!」


 黒澤さんの質問に、滝原さんは満面の笑みを浮かべ、グッと親指を立てる。

 彼女の言葉に、如月さんが「おぉ」と小さく声を上げた。


「ちょうどいいタイミングだね。こっちもちょうどカレー出来たところ」

「そ、そうなんだ……! 良かった!」


 如月さんの言葉に、滝原さんはそう言って顔を赤らめた。

 ……先程の、黒澤さんの言葉を思い出す。

 滝原さんは……如月さんが好き、か……。

 この事実を知ってしまった以上……私も、滝原さんに何か協力するべきなのだろうか。

 けど、如月さんにそういう気が無い場合、彼女を不快にさせる可能性だって大いにある。

 ……難しいな。


「神奈ちゃんっ」


 考え事をしていた時、有栖川さんが私の顔を覗き込みながら、名前を呼んで来た。

 突然のことで驚きつつも、「何?」と聞き返す。

 すると、彼女はシャモジとカレー皿をそれぞれの手に持ち、首を傾げた。


「ご飯。……どれくらい食べる?」

「あっ……えっと……普通ぐらいで、良いよ」


 私の言葉に、彼女はパッと明るい笑みを浮かべてから、「んっ」と頷いた。

 ……まぁ、こういう恋愛事は、当人達で解決するべきだろう。

 恋愛経験が少ない私が下手に手を出して、変に掻き乱しても良くない。

 ここは、黒澤さんの言葉は聞かなかったことにして、今まで通り過ごすのが得策か。

 それよりも……普通ぐらいって頼んだのに、こんもりと大量のご飯をカレー皿に盛っている有栖川さんにツッコむべきかな……。

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