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39:時間は有限だよ

 あの後は特に何事も無く、平穏無事に翌朝を迎えた。

 元々私に興味が無い叔父叔母がレイのことに気付くはずもなく、私の登校に合わせてレイは学校に帰った。

 ……学校が帰る場所ってのは、おかしな話だけどさ。


 まぁ、そんなこんなで何事も無く平日を送り、ついに待ちに待った週末を迎えた。

 そう。今週末と言えば、如月さんとの買い物だ。

 やはり、友達とこういう買い物に来るのは初めてなので、ワクワクする。

 ずっとこういうことには憧れていたから、いざ叶うとなると、少し緊張もする。

 けど、その緊張を超えるくらい……凄く、楽しみ。


 恋人であるレイには如月さんとの買い物のことは話したが、快く了承してくれた。

 私にはレイ以外を好きになるつもりなんて更々無いけど……まぁ、だからと言って内緒にしてて変な誤解を招いても良くないし。

 こういう経験が無いからこそ、注意しなくちゃ。

 レイに負担は掛けたく無いし。


 そんなことを考えている間に、目的地である西山駅に着く。

 ギキィィィィッというブレーキ音と共に、電車は停止する。

 私は電車が完全に停止するのを待ってから、椅子から立ち上がり、電車を降りるべく扉の方に向かう。

 少しして、電車の扉が開いた。


 車両から出た私は改札を抜け、駅を出て如月さんを探す。

 確か、この時間に駅前集合だったはずだけど……。

 私はスマートフォンを取り出し、時間を確認する。

 時間は待ち合わせ通り……だったら、もうどこかに……?

 そんな風に思っていた時、目の前が真っ暗になった。


「だーれだっ」

「ぎゃぁぁぁぁッ!?」


 背後から聴こえた可愛らしい声とは反対に、私はジャングルの野鳥の鳴き声のような叫びを上げた。

 と言うより、眼帯越しに左目に触られたことで物凄く驚いてしまった。

 私は反射的に目を覆う手を振り払い、なんとか距離を取る。

 眼帯に触れ、左目がちゃんと隠れていることを確認して安堵したところで、私はハッと我に返る。

 慌てて振り返ると、そこには、目を丸くして笑みを引きつらせながら立ち尽くす如月さんの姿があった。


「えっと……そこまでビックリするなんて、思わなかった……ごめん……」


 キョトンとしたような表情を浮かべながら言う如月さんに、私は慌てて「だ、大丈夫ッ」と答えた。


「ごめん……急のことだったからビックリしちゃって……あと、眼帯に触られると、ちょっと……心臓に悪い……」


 まだバクバクと高鳴る心臓の音を聴きながら、私はそう言った。

 すると、如月さんは顔の前で両手を合わせて「本当にごめん」と謝った。


「結城さんが来たのを見たらテンション上がっちゃって……次からは気を付けるね」

「うん……そうして貰えると有難いよ」


 私の言葉に、如月さんは「了解」と軽く敬礼をした。

 にしても……まさか、眼帯に触れられただけでこんなに取り乱すなんて……。

 眼帯に――眼帯越しに、左目に――触れられた感触が、未だに明瞭に残っている。

 ……もう、アイツ等はいないんだ……。

 落ち着け……私……如月さんは、アイツ等と違うじゃないか……。

 何度か深呼吸をして、気持ちを静めていた時だった。


「じゃあ、行こっか。結城さん」


 如月さんはそう言って、私の手を取った。

 ……って……。


「えっ?」

「えっ、って……手は繋いでも良いんだよね?」


 そう言って優しく微笑む如月さんに、私はしばし呆けてしまう。

 ……やっぱり……彼女は優しいなぁ。

 私は繋がれた手とは逆の肩に掛けた鞄を持ち直し、「うんっ」と頷いた。


「当たり前じゃん。如月さんなら大歓迎だよ」

「あははッ、何それ」


 笑いながら、如月さんは……指を絡めて来た。


「……ッ」


 反射的に、私はその手を振り払った。

 拒絶にも近い振り払い方に、如月さんは「え……?」と、目を丸くする。

 彼女の言葉に、私はその手をポケットに入れ、「ごめん……」と呟く。


「その繋ぎ方は……無理」

「……なんで……」

「それは……その……なんとなく……」


 ……レイと付き合ってるから。

 本当はそう言いたかったのに、言うことが出来なかった。

 恋人がいるから、他の人と恋人繋ぎなんて出来ない……と。

 正直に言うべきだったのに……言えなかった……。

 よく考えなくても、私とレイは同性同士だし、何より人間と幽霊だ。

 ……例え如月さんでも、受け入れられないだろう。


「……そっか……じゃあ、こっちの繋ぎ方ね」


 如月さんは、あくまで明るい声でそう言い、私の手を取った。

 今度は指を絡めない、ごく普通の繋ぎ方で。

 ……これなら……まだ、大丈夫かな……。

 そんな風に思っている間に、軽く手を引かれた。


「ホラ、早く行こう? 時間は有限だよっ!」

「……うんっ」


 如月さんの言葉に、私は小さく頷き、早足で彼女の隣に並んだ。

 ……もしも、レイのことを話しても……如月さんは、笑って応援してくれるかな。

 出来れば……話したいな。

 友達だし……こうして黙っていると、隠し事をしているみたいだから。

 応援されないような恋だってことは分かっているし、人に言いふらすような話では無いんだけど……如月さんには、話したいって思った。

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