表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/124

38:何ですかあの人達は

 あれから適度に町を散歩した私達は、そのまま家に戻った。

 その時には晩御飯は終わっており、リビングでは叔父と叔母がテレビを見ていた。

 私はその邪魔をしないように素早く台所に行き、冷蔵庫の中を物色し、使える材料を見つけて自分の晩御飯を作って食べた。

 その間、レイは私から片時も離れることなく、私の傍に寄り添っていた。


 食事を終えるとすぐに、風呂を洗わなければならない。

 風呂を洗うのも、私の仕事だ。……と言っても、一番風呂は叔母が入るのだけれど。

 浴槽に洗剤を吹き付け、古いスポンジで浴槽を擦り、綺麗にしていく。

 ある程度拭き終わった後は、シャワーで洗剤を洗い流し、掃除終了だ。

 浴槽に栓をして浴槽にお湯を入れてから、私は風呂場を出てタオルで足と手を拭き、リビングに向かった。


「……お風呂、掃除終わりました」


 小さくリビングの扉を開けてそう言うと、義理の叔母が「わかったわ」と言って立ち上がり、風呂に入る準備を始める。

 ……これで、やることは無くなったな。

 そう思ってリビングを後にしようとした時……テレビを見ていた叔父と目が合う。

 見つめ合う数秒間。……先に逸らしたのは、顔を見られることが苦手な私だった。

 私は顔を逸らした動きに合わせて踵を返し、リビングを後にして、自室に向かった。


「……何ですかあの人達はー!」


 パタン……と私が扉を閉めたのを見計らい、レイがムキーと怒り始めた。

 彼女の言葉に、私は鞄から教科書等を出しながら「急にどうしたんですか?」と聞く。

 すると、レイはプクーと頬を膨らませながら私を見つめた。


「結城さんは悔しくないんですか!? あの二人の態度!」

「……もう慣れたので」

「……慣れるくらい、長いことこんな感じなんですね」


 ショボン、と落ち込んだ様子で、レイは言う。

 彼女の言葉に、私は苦笑交じりに口を開いた。


「そんな気にしなくても良いですよ。……どうしようもない問題ですから」

「そんなこと……言っても……結城さんがあんな扱いを受けていることが悲しいんです」

「……そう思ってくれるだけで嬉しいですよ」


 私はそう言いながら椅子を引き、腰を下ろす。

 すると、レイは「そもそも」と怒気を孕んだ声で続けた。


「あの二人おかしいじゃないですか。なんで結城さんの晩御飯まで作らないんですか」

「……昔から厄介者扱いは受けていましたし……家族だと思われてないんですよ」

「思っていなくても結城さんは家族じゃないですかー! それに、洗い物は放置したままで、結局結城さんが全部片づけてましたし! 結城さんのこと家族だと思ってないなら、洗い物だって自分たちで洗うべきですよ! 家族じゃない人に洗い物なんて、普通させませんよね!?」

「……めんどくさいんですよ」

「だからってそれを子供の結城さんに押し付けるのはおかしいじゃないですか!」


 頬を膨らませながらプンスカと怒るレイを見ていると、無意識のうちに口元が緩んでいた。

 私は「ははッ」と小さく笑った。


「何がおかしいんですかぁ! ていうか、結城さんは優しすぎですよ! ちょっとくらい怒らないとダメです!」

「あぁ、いや……怒ってるレイも可愛いなって」

「なッ……今はそういう話をしてるんじゃないですよぉ!」


 顔を真っ赤にしながら言うレイに、私は「あははッ」と笑ってしまう。

 ……別に、叔父や叔母に対して全く恨みが無いわけではない。

 怒りだってあるし、なんで自分がこんなことをしなくちゃいけないんだっていう苛立ちもある。

 自分がこんなことになっている運命を、何度も呪ったこともある。

 けど……私にはどうしようもないからと、ずっとその感情から目を逸らしてきた。見て見ぬふりをしてきた。

 いつしかその怒りや苛立ちは、私にとって当たり前になってきた。

 そしてその感情に気付かないフリをして、自分を守った。


 怒っても、苛立っても、呪っても、嘆いても……私のことを慰めてくれる人なんて、いるはずがないから。

 目の前にいるレイのように……私の為に怒ってくれる人なんて、いなかったから。

 ……好きな人が自分の為に怒っているのは、思っていた以上に……嬉しいものだ。


「……さぁて、勉強しますかね」

「ちょっ、私の話はまだ終わってませんけど!?」

「勉強が終わったら聞きますよ」


 私の言葉に、レイは「結城さぁん!」と情けない声を上げた。

 彼女の言葉に、私は頬杖をつきながらケラケラと笑った。


「嘘ですよ。もうちょっと話します?」


 そう言って見せると、レイはパァッと明るい笑みを浮かべた。

 しかし、すぐに不安そうに私の手元を見つめた。


「でも、結城さんは良いんですか? 勉強しなくて……」

「別に、勉強は風呂に入ってからでも、レイが寝てからでも出来ますし」

「……いえ、結城さんの邪魔したくないですし、大人しく待ってます」


 そう言って、レイは私のベッドに腰かけ、手はお膝の状態になる。

 ……見られてたら、それはそれで集中出来ないけど……。

 でも、私はそれ以上何も言わず、机に向き直りペンを持った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ