30:こういうのは仲良い人同士で
目の前にいるボブヘアちゃんは、前にトイレで如月さんの話をしていた子だ。
そして同時に、私の見た目がどうとか言っていた気もする。
てことは、隣の子は一緒に話していた女子!?
なんで十三分の二の確率で、よりによってこの子達が来るかなぁ……。
「……他のグループは、もう埋まってるの?」
すると、如月さんは特に表情を変えることもなく、そんな風に尋ねた。
彼女の言葉に、ボブヘアちゃんは「うん」と頷いた。
それに、如月さんは「ふぅん……」と小さく声を漏らし、少し間を置いてから続けた。
「……私は別に構わないけど……二人は大丈夫?」
「私は構わないよ~」
如月さんの問いに、有栖川さんは朗らかに微笑みながらそう答える。
すると、如月さんは私に視線を向けて来た。
ぐッ……この流れで嫌だとは言えない……。
仕方が無いので、私は小さく溜息をつき、コクッと頷いて見せた。
「私も……大丈夫」
「……じゃあ、良いよ。一緒に組もう」
如月さんの言葉に、ボブヘアちゃんはパァッと明るい笑みを浮かべ「やったぁ」と言う。
……うーん……気さくな良い人っぽいんだけどなぁ……。
やはり私の見た目がどうとか影で言っていた印象が強いので、少し苦手意識を持ってしまう。
なんとなくボブヘアちゃんから目を逸らすと、隣に立っていたロングヘアちゃんと目が合った。
「ぁ……」
「……」
私と目が合うと、ロングヘアちゃんは僅かに目を丸くした。
しかし、すぐにその目を細め、フイッと視線を逸らす。
……どうしよう……上手くやっていける自信が無い……。
一人呆然としていた時、授業開始のチャイムが鳴る。
一時間目は宿泊研修の説明とか色々と役割を決めるらしく、担任の先生が入ってきた。
「じゃー班ごとに纏まって座りなさい。それから、代表で誰か一人は前に来なさい」
「……じゃあ、私が行って来るよ。皆は席動かしたりしといて」
如月さんはそう言って、教卓の方に歩いて来る。
その間に私達は席を動かし、五つの席を一つに纏める。
ひとまず私は自分の席が近くにあったので、そのまま席につく。
すると、隣に有栖川さんが座った。
「……」
そして、その様子を、ロングヘアちゃんがジッと見てくる。
な、何だろう……この子にここまで見られる程のことなんてしたっけ……。
動揺しつつも、私はソッと目を伏せる形で隠す。
その時、如月さんが何枚かのプリントを持って戻って来た。
「如月さん。何の用だったの?」
「班の名簿と、役割分担を書くみたい」
ボブヘアちゃんの質問に、如月さんはそこまで言って、私にふと視線を向けて来た。
彼女は隣り合って座る私と有栖川さんを見て、一瞬だけ真顔になった。
しかし、すぐにスッと微笑み、空いている席について配られたプリントを机に広げた。
「じゃあ、さっさと決めちゃおっか。役割は……班長と、副班長と、入浴と、食事が二人」
「班長と副班長は分かるけど……入浴と食事、って言うのは?」
どこか気怠そうな声で尋ねるロングヘアちゃんに、如月さんは髪を耳に掛けながら「えっとね」と言いつつ、プリントを見つめる。
少しして、彼女は続けた。
「入浴は、お風呂に入った時に更衣室に忘れ物が無いか、とかを見る役らしいよ。食事は主に食事の準備とか……あと、一日目の夜は班で食事を作るみたいだから、その材料とかの準備だって」
「ふーん……じゃ、私入浴やる」
そう言って、ロングヘアちゃんはヒラヒラと手を振った。
彼女の言葉に、如月さんは少し間を置いてから「なんで?」と尋ねた。
すると、ロングヘアちゃんは頬杖をつき、口を開く。
「……やることほとんど無いから」
……めんどくさがりなだけかぁぁぁ。
まーでも、私はそれで構わない。
私もやることが少ない係が良いけど、入浴係はちょっと……。
左目のことがあるから、一緒に入ることは出来ない。
後で先生に聞いてみようかな。
「それじゃあ、えっと……」
「……黒澤 千里」
名前が分からず固まる如月さんに、ロングヘアちゃんこと黒澤さんは、無表情のままそう言った。
すると、如月さんはフッと微笑みを浮かべ「黒澤さんだね」と言った。
「じゃあ、黒澤さんは入浴係だね。……班長は……」
「そりゃあもちろん、如月さんじゃないの?」
少し身を乗り出しながら言うのは、ボブヘアちゃんだった。
彼女の言葉に、如月さんは目を丸くして「えっと……」と言葉を詰まらせる。
「私は学級委員長としての仕事があるから……出来れば、仕事が少ない副班長だと有難いかな」
「あぁ、そっか……じゃあ、私班長する」
そう言って、ボブヘアちゃんはヒラヒラと手を挙げた。
彼女の言葉に、如月さんは「良いの?」と聞き返す。
すると、ボブヘアちゃんは「うんっ」と頷いた。
「まぁ、残った役を考えるとさ、結城さんと有栖川さんは二人でやった方が良いと思って。こういうのは仲良い人同士でやるもんだし」
「……まぁ……うん……」
ボブヘアちゃんの言葉に、私は頷く。
班長なんて私には無理だし、ボブヘアちゃんと二人で食事係をするのも気が引ける。
彼女の言う通り、有栖川さんと食事係をするのが一番落ち着く。
「そっか……じゃあ、結城さんと有栖川さんで食事係ね。で……滝原さんが班長だね」
「……うん」
確認するように言う如月さんに、ボブヘアちゃんこと滝原さんは、小さく頷いた。
……なんか、急にしおらしくなった気がするような……?
不思議に思っていた時、袖を小さく摘ままれた。
「ん?」
「神奈ちゃん。一緒に頑張ろうね」
視線を向けると、有栖川さんがそう言ってはにかんだ。
彼女の言葉に、私はなんだか嬉しくなって「うんっ」と頷いた。
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!




