29:元同中の誼
この学校では、一年生と二年生でそれぞれ宿泊研修というものがあるらしい。
一泊二日の研修を通して、自らの高校生活をより考えるきっかけとなったり、級友との絆やクラスの団結をいっそう強めたりするんだって。
研修の目的は、プリントに書いてあったものは三つある。
一つ目は、自主性や自発性を旨とした実践を通し、自らの日常生活を見直して自立的な生活を確立すること。
二つ目は、それぞれの役割分担を責任と積極性をもって果たし、強調と敬愛の喜びを分かち合うこと。
三つ目は、研修を通して学習習慣やクラスの団結や協力体制及び母校愛を確立し、今後の高校生活の基盤作りの一助とすること。
……まぁ、細かいことは良く分かんないけど、クラスの団結力を高める為の催し物ということだろう。
中学時代にもあったし、今更驚くことは特に無い。
問題は、HRが終わるまでの間に先生が言ったことか。
『それじゃあ、次の時間には早速宿泊研修に関する話し合いをするので、それまでに女子は五人グループを三つ。男子は四人グループを五つ。作っておきなさい』
……出たよ。ぼっちを絶望に陥れる絶望の言葉。
このクラスは、女子十五名と男子二十名の、計三十五名。
先生の指定した人数は相応だと思うが……さて、どうしたものか。
「「ねぇ」」
その時、頭上から二人の声が同時に降ってきた。
ふと顔を上げると、如月さんと有栖川さんが立っていた。
二人共、まさかハモるなんて思っていなかったのか、驚いたような表情で顔を見合わせている。
……ホントに、二人の存在には助けられる。
彼女等のおかげで、先生にグループを作れと言われた時に、絶望が少なくて済んだのだから。
「二人共……ちょうどいいところに……」
私はそう言いつつ、手で軽く宿泊研修に関するプリントを撫でた。
すると、有栖川さんは「ほぇ?」と間抜けな声で返事をしながらキョトンとし、如月さんは不思議そうな表情で首を傾げつつ、私を見る。
彼女等の反応に、私は続ける。
「えっと……良かったら、一緒のグループになって欲しいなって……思って……」
「私もちょうど誘いに来たところなんだぁっ」
有栖川さんはそう言って、キャッキャッと楽しそうに笑う。
すると、如月さんは目を見開いて「貴方もなの!?」と驚愕する。
貴方も……ってことは、如月さんも……!?
まさか、二人共私を誘おうとしてくれていたとは……。
気になるのは二人がバラバラに誘おうとしていたことだけど……まぁ、いっか。
「えっと……グループの人数も多いし……二人共一緒だと……有難いんだけど……」
二人が不仲である可能性の浮上に不安になりつつ、私はそんな風に聞いてみる。
すると、二人はお互いに顔を見合わせ、しばし考え込む。
如月さんに関しては、またもや彼女の優しさに甘えることになってしまう。
「む、無理にとは言わないよ? ……嫌なら……二人の内のどっちかと……」
だから、主に如月さんが断りやすいように、そう言っておく。
私のワガママを貫くわけにもいかないし、多少の我慢は必要だ。
まぁ、もしそうなった場合には如月さんと組むつもりだけど。
「……良いよ。有栖川さんも一緒で」
しばらく静寂が流れた末に、如月さんが先に折れた。
彼女が先に折れると思っていなかったのか、有栖川さんは目を丸くして「え?」と聞き返した。
すると、如月さんは一度溜息をついて、続けた。
「このクラスの女子は、基本的に二人で行動している女子が多いもの。先に三人を固めておけば、あとの二人を見つけるのは簡単な話よ」
「そうじゃなくて……沙希ちゃんは、良いの?」
「……何が言いたいの?」
目を丸くしながら尋ねる有栖川さんに、如月さんは冷ややかな声で聞き返す。
……あれ……? なんか、如月さんのキャラが違う気が……。
有栖川さんもそれに驚き、一瞬たじろぐ素振りを見せるが、少しして続けた。
「だ、だって……私のこと、嫌いなんじゃ……」
「……別に好きでも嫌いでも無いし、興味も無いけど?」
一刀両断。
歯に衣着せぬ物言いに、有栖川さんは「えぇっと……」と苦笑する。
すると、如月さんは私の肩にソッと手を置き、続けた。
「何より、結城さんの頼みだもの。……これくらいなら、断る理由が無いわ」
……レイへの伝言を断った理由は何なんだろう……。
基準が分からない。でも……了承してくれたことは、嬉しい。
「有栖川さんは……良い?」
「……如月さんが良いなら……私も大丈夫だよ」
そう言ってニコッと笑む有栖川さんに、私はホッと息をつく。
これで……あと、二人か。
如月さんの言い分から考えるに、このクラスは二人で一緒にいる女子が多いみたいだし、探せばすぐ見つかるとは思うけど……。
「あれ? もしかしてそこ三人グループ?」
すると、早速そんな風に声を掛けられた。
……そこで、あれ? と、何かが引っ掛かった。
この声……どこかで聞き覚えがあるような……。
「そうだけど……二人は?」
「私達余っちゃってさぁ。良かったら一緒に組まない?」
そう言って手を合わせてくるのは、ボブヘアの女子生徒だった。
顔には、よく見ないと分からないくらいではあるが、薄く化粧をしている。
その隣に立っているのは、背中まであるロングヘアの女子生徒。
ボブヘアと同じく、薄く化粧をしている。
……うーん……二人共、別に化粧しなくても綺麗な気がするんだけどなぁ……。
化粧で化ける人とかいるみたいだし、そういうタイプなのかな……?
「ダメかなぁ? 如月さん」
私含めた三人共が何も言わずにいると、ボブヘアの方が、続けてそんな風に言ってきた。
……ん? この子、もしかして如月さんの知り合い?
不思議に思っていると、如月さんは少し引きつった笑みを浮かべた。
「そんな……私に聞かれても……」
「お願いっ! 元同中の誼でさ?」
ねっ? と念を押すように言うボブヘアちゃんに、私はハッと気付く。
そうか……どこで彼女の声を聴いたのか、合点がついた。
前に、トイレで如月さんの話をしていた子だ……!
今年はこれで書き納めです。
よいお年をお迎えください。




