24:無理しちゃダメだよ
「うぅ……」
一限目の授業を終えた私は、そのまま机に突っ伏した。
昨晩変な夢を見たせいか、寝不足気味だ。
あの後も僅かに過呼吸になったりしたせいで、中々寝付けなかった。
一応鞄の中には予備の眼帯を詰めてきたし、精神的には安心なんだけど……寝不足のせいか、頭が痛く、体も重い。
なんとか学校に来たものの、休めば良かったと後悔している自分がいる。
一限目の授業も、正直全く集中出来なかった。
寝不足くらいなら大丈夫かと高を括ったのがまずかったか……。
「はぁぁ……」
「神奈ちゃん……大丈夫?」
声を掛けられ、私は顔を上げた。
すると、心配そうに私の顔を覗き込む有栖川さんがいた。
彼女は私を見て、心配そうに続けた。
「なんか、顔色悪いし……風邪引いたんじゃない?」
「えっ……いや、そんなことは……」
大丈夫だと答えようとした時、有栖川さんは私の肩を掴み、自分の額を私の額に合わせてきた。
彼女の言う通り熱があるのか、やけに重ねられた額が冷たく感じた。
しばらく私の額の温度を測った後で、有栖川さんはゆっくりと額を離した。
その顔は、心配そうに歪んでいた。
「神奈ちゃん、熱あるよ? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ……微熱だから」
心配掛けなくてそう言ってはみるものの、実際体は大分辛かった。
有栖川さんと話している間も両肘をつくことで、突っ伏しそうになる体をなんとか支えているような状態。
でも、熱があるのか……そう言われると、さっきよりもしんどくなってきた気がする。
「……」
私の言葉に、有栖川さんは不服そうな顔をする。
そんな顔されても、仮に有栖川さんに体調が悪いと言ったところで、どうしようもない気がするし。
だから、私は小さく笑って、続けた。
「大丈夫だよ。少し休んだらすぐ全快するか……」
「無理しちゃダメだよ」
続けた私の言葉を、有栖川さんは平坦な声で遮った。
それに私は「え?」と聞き返し、笑顔で固まった。
すると、彼女は私の手を掴み、軽く引いた。
突然のことに、私は驚く。
「えっ? 有栖川さん……?」
「保健室行こ? 早くっ」
そう言いながら、有栖川さんは私の手を強く引く。
彼女の言葉に驚きつつ、ひとまず私は立ち上がる。
私が立ったのを見て、すぐに彼女は私の手を引いて歩き出した。
「……ぁ……」
教室の扉の方まで歩きながら、私は小さく声を漏らす。
……有栖川さんも、如月さんみたいに、私の手を当たり前のように握ってくれている……。
その事実に嬉しくなった瞬間、ズキッと頭が痛んだ。
あぁ、ダメだ……これは本格的に熱がある……。
掴まれている方とは逆の手を額に当て、僅かに顔を顰めてしまう。
有栖川さんに手を引かれて教室を出た時、ちょうど教室に入るところだった如月さんと鉢合わせた。
「あっ……」
つい、声を漏らす。
すると、如月さんは私と有栖川さんを何度か交互に見てから、その視線を私に固めた。
「えっと……何してるの?」
「……神奈ちゃん、熱があるみたいだから、今から保健室に連れて行くの」
「ふぅん……」
有栖川さんの説明に、如月さんは少しだけ目を細めて、そう呟く。
どうしたんだろう……と思っていた矢先、如月さんは私と有栖川さんの繋いでいる方の手を掴んだ。
うん?
「如月さ……」
「私が連れて行くよ。学級委員長だし……友達だから」
強い口調で言う如月さんに、有栖川さんはキョトンとした。
しかし、少しして彼女は、ギュッと私の手を強く握った。
……ん……?
「やだ。私が連れてく」
「……なんで……」
「……ごめん……ちょっと本気で辛くて……喧嘩なら後にして貰えない?」
痛む頭を押さえながら、私はそう言う。
最初はただの寝不足だと思っていたが、病は気からと言うのか、熱があると言われると段々辛くなってきた感じがする。
とりあえず休みたいので、なぜか喧嘩を始めそうな二人を治める。
「あ、そっか……じゃあ、早く保健室行こっ」
有栖川さんはそう言うと、私の腕に抱きついてきた。
突然のことに驚くが、頭痛が酷くてそれどころではない。
すぐに私は有栖川さんに腕を引かれ、半強引に歩かされる。
小さな体からは想像出来ないその力に、私は驚く。
「ちょっ、有栖川さん! 早い早い!」
「あ、ごめんっ……」
数メートル程歩いた所で慌てて窘めると、有栖川さんはそう言って歩を緩めた。
うぅ……強引に歩かされたせいで、頭が痛い……。
ズキズキと痛む頭に内心で呻いていると、有栖川さんは私の袖をギュッと握り締めた。
「ご、ごめんね、神奈ちゃん」
「あ、いや……大丈夫、だけど……」
「……無理させたくないって言ったのは……私なのに……」
そう言いながら、彼女は悲しそうに目を伏せた。
まぁ、無理したらダメだって言って無理矢理連れ出したのは有栖川さんだしなぁ……。
しかし、別に今はそういう細かいことはどうでもよかった。
それより、早く保健室に行きたかった。
「もう良いから……それより、早く行こう」
私はそう言いながら、腕を掴む有栖川さんの手に、自分の手を添えた。
すると、彼女はパッと嬉しそうに顔を上げて、「うんっ」と頷いた。




