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19:自分の手で助けたいんだ

「……ごめん……」


 気付けば、私は小さな声で謝っていた。

 すぐに私は如月さんに顔を向け、続けた。


「ごめん、如月さん。……私、レイの問題……自分で解決したいんだ」


 私の言葉に、レイと如月さんが同時に「結城さん」と呼んだ。

 しかし、その声に込められた感情は、同じ単語にも関わらず相容れないものに感じた。

 レイはどこか嬉しそうに目を輝かせ、如月さんは僅かに落ち込んだような様子。

 すぐに、私は続ける。


「確かに、如月さんならレイの記憶を早く取り戻せるかもしれない」

「……じゃあッ」

「でもッ! ……私は……レイを、自分の手で助けたいんだ」

「結城さぁんッ!」


 私の言葉に、レイが嬉しそうに抱きついて来る。

 しかし、私の体を見事にすり抜け、後ろに飛んで行く。

 それに少し驚きつつも、私はレイの方に振り返り、続けた。


「レイ……もしかして、最初から私が良かったんですか?」

「そりゃそうですよぉ! 結城さんじゃなきゃ嫌です!」

「じゃあ正直にそう言えば良かったのに……」

「それはッ……結城さんの負担になりたくなかったんです」


 そう言って、レイはプイッと顔を背ける。

 ……なんで彼女が、そこまで私のことを気に入ってくれているかは分からない。

 でも……。


「……負担なんかじゃないですよ」


 気付けば、私は笑っていた。

 すると、レイは少しキョトンとしてから、フワッと嬉しそうにはにかんだ。


「……なんか、私、お節介だったかな?」


 すると、如月さんがそんなことを言ってきた。

 彼女の言葉に、私は視線を向ける。

 すると、困ったような……どこか泣きそうな笑顔を浮かべて、続けた。


「だって、結城さんはそんなにレイさんのこと大事にしてるのに、あんなこと言って……迷惑だったよね?」

「ううん。そんなことない」


 如月さんの言葉を、私は即答で否定する。

 すぐに、私は続けた。


「だって、如月さんは私のことを思って、代わってくれようとしたんでしょう? お節介なんかじゃないよ」

「……でも……」

「それに、如月さんのおかげで、ちゃんと気持ちが固まったような気がする。……ありがとう」


 私の言葉に、如月さんは目を丸くしてから、フイッと顔を背けた。

 照れているのか、その顔は若干赤くなっている気がした。

 しばらくしてから、彼女は私を見て、口を開いた。


「あの……結城さん」

「ん?」

「えっと……もし良かったら……明日は、一緒にお昼ご飯食べない? ……レイさんのことも大事かもしれないけど……私は、結城さんと仲良くなりたいから……」


 そう言いながら、如月さんは髪の毛先を指で弄る。

 彼女の言葉に、私はすぐに頷いた。


「もちろん。一緒に食べよう?」

「……じゃ、じゃあッ、私もう行くね! また明日ね!」


 私の言葉に、如月さんはどこか慌てた様子で言いながら屋上を出て行った。

 ……何だ? 用事でもあったのか?

 面食らっていると、ナギサが「はぁー」と大きく溜息をついた。


「……ナギサ?」

「いや……神奈ちゃんって罪な女だよねぇ」

「……何の話?」


 よく分からない言葉にそう聞き返すと、ナギサは「別に」と答えた。

 彼女の言葉に、私とレイは顔を見合わせた。

 レイは、ナギサの言葉の意味が分からず、理解出来ていないような顔をしていた。

 でも、きっと私も同じような顔をしているんだろう。

 私達の様子を見たナギサは「分からないならそれでいいよ」と呆れた様子で言った。

 ……何か言いたげだな……。


「ナギサさん……何が言いたいんですか?」

「別に? ……ところで、神奈ちゃん?」

「はい?」


 突然名前を呼ばれ、私は聞き返す。

 すると、ナギサは如月さんが出て行った方向を見て、続けて口を開いた。


「あの、沙希ちゃんはさ、本当に信用出来る子?」

「えっ?」

「いや、神奈ちゃんを疑うわけじゃないんだけどさ……あの子、何か裏がある気がするんだよね」


 扉の方をジッと見ながら続く言葉に、私は「裏?」と聞き返す。

 裏、って……如月さんに?

 私は普通に良い人だと思っていたから、そんなこと考えたことも無かった。

 ナギサはしばらく扉の方を見つめてから「いや」と言って、視線を逸らした。


「あたしの考えすぎかもね。神奈ちゃんは気にしなくて良いよ」

「……そう言われると気にするよ」


 私の言葉に、ナギサは「ホントに大丈夫だから」と誤魔化す。

 ナギサらしからぬ、ハッキリしない曖昧な言い方だと思った。

 大体、如月さんに裏があるなんて、彼女のどこを見たらそんな風に思うのだろうか。

 サッパリ分からなくて、私は頬を掻いた。


「ナギサが如月さんのことどう思ってるのかは分からないけど……良い子だよ? 信用は出来ると思う」

「……ふーん……」


 ひとまず如月さんについて弁解してみるも、ナギサはどこか興味無さそうに視線を逸らした。

 なんでだろう……如月さんを疑う理由が分からない。

 不思議に思っていると、レイがどこかモジモジしながら、口を開いた。


「私も……あの人苦手です」

「えっ、なんで?」

「なんていうか……結城さんと私を引き離そうとしている感じがするというか……なんか、嫌な感じです」


 ……レイまで何を言っているんだろう……。

 如月さんが私とレイを引き離す?

 少なくとも、私はそんな感じは無かったけどなぁ。


「ゆ、結城さんのお友達を悪く言うのは申し訳ないんですけど……! でも……私は苦手です」

「んー……まぁ、どう思おうと個人の自由だから、別に良いけど……」


 そう言いながら、私は腕を組み、如月さんが出て行った方向を見つめた。

 レイまでこんなことを言うなんて……。

 でも、私だって彼女とは出会ったばかりで、まだまだ分からないことだらけ。

 ……頭がこんがらがりそうだ。

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