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115:戻りましょう

---現在---


「それからは、クラスでも家でも阻害されて……家での生活は、レイも知ってる通り、かな。……高校は、中学校の時の知り合いがいないように、遠くの学校に通うことにした。まぁまぁ偏差値が高い学校だったから、叔父さん達は反対しなかったよ」


 私の話が終わる頃には、日が暮れて、ほとんど夜になっていた。

 暗い夜空を月明かりが照らし、月光を反射した水面がキラキラと光っている。

 私の話を全て聞き終えたレイは、無言で私の隣に座っていた。


「……結城さんはすごいですね……」


 ポツリと、レイが呟く。

 それに、私は「え?」と聞き返した。

 すると、彼女は「えっと」と口ごもりながら目を逸らし、しばらく間を置いてから続けた。


「だって……すごく、壮絶な人生じゃないですか。私だったら、とっくに死んでますよ」

「……だから……死ぬ勇気が無かったんですって……」

「死ぬ勇気って何ですか」


 そう言うレイの言葉には、どこかトゲがあった。

 それに動揺していると、彼女は私を見て、小さく微笑んだ。


「私はただ……この世界から逃げたかっただけですから」

「……でも……」

「好きな人に裏切られて、自分の恋心すら批判されて……でも、周りでは女同士で幸せになっている人がいる。そんな社会から逃げて、楽になりたかった……生きる勇気が無かっただけなんです」


 レイの言葉に、私は何も言えなくなる。

 ……結局、私とレイは一緒なんだ。

 この世界から拒絶されて、生きることすら苦しくて……楽になりたかった。

 違ったのは……レイには、死ぬ勇気があって……私には無かっただけ。

 いや、レイの言葉を借りるなら、生きる勇気の有無か……。


 ……どちらでもないな。

 レイには、生きる勇気が無くて……私には、死ぬ勇気が無かった。

 お互いに、決断して動いたわけではない。妥協した結果が、これなんだ。


「……でも……荻原先輩は、レイを裏切ったわけじゃないと思いますよ」


 私の言葉に、レイは「え……?」と、驚いた様子で聞き返す。

 彼女の言葉に、私は彼女を見つめ返しながら、続けた。


「レイの話を聞いて、なんとなく思ったんです。……荻原先輩は、裏切ったわけじゃない、って」

「……でもッ……私は実際にイジメを受けてッ……」

「私だってハッキリとは分かりませんけど……でも、彼女は山谷とは違う」


 その言葉だけは、自信を持って言えた。

 というか、一つの確信があった。

 レイの話を聞いた後で、荻原先輩に会った時のことを思い返すと……一つ、気になる点があったからだ。


『私は……私は何も悪くないッ! 悪いのは全部アイツなんだッ! アイツが私に……ッ!』


 ……あの時の、荻原先輩の言うアイツとは、恐らくレイのことだろう。

 彼女は必死に、レイに原因を擦り付けようとしていたように感じる。

 それは……自分が悪いという自覚があったからではないか?

 ああいう人間は大抵、自分に原因があるなんて考えちゃいない。


 山谷が良い例だ。彼女は私を裏切っておきながら……平然と残りの中学生活を過ごしやがった。

 荻原先輩のように、完全に存在を無視するような真似じゃない。……まるで、普通のクラスメイトのように接してきた。

 自分が悪いことをしたなんて、微塵も思っていないんだ。


「……荻原先輩は……自分が悪いことをした、という自覚がある人だと思います。少なくとも、本心からレイを嫌っているようには思えませんでした」

「……」

「だから、きっと……彼女にも何か、事情があったんじゃないかと思うんです。あくまで私の憶測ですから、絶対に正しいと言うつもりは無いですけど……一度……荻原先輩に向き合ってみるべきじゃないですか?」


 私の言葉に、レイは目を伏せる。

 ……無責任なことを言っているのは分かっている。

 でも……このままじゃ、ダメだと思う。


「……荻原先輩とは……ちゃんと、話をした方が良いと思うんです」

「……もしも……澪ちゃんが、本心から私を嫌っていたら……?」


 その言葉に、私は声に詰まりそうになる。

 確かに、荻原先輩がレイを本当に拒絶していた可能性も、ゼロではない。

 ……でも……ッ!


「それでも、話してみる価値はあります」

「……」

「もしも本当に荻原先輩がレイのことを嫌っていたとしても……何も話さないよりはマシだと思います」

「……私は……」

「レイは知りたくないんですか? ……荻原先輩の、涙の意味を」


 私の言葉に、レイはハッと私の顔を見た。

 彼女が死ぬ間際に見たという、荻原先輩の涙。……そして、謝罪。

 普通、嫌っていた人の死に、涙を流し謝罪をするだろうか?

 ……私が関与することではないことは分かっている。

 けど……このまま、二人の仲が拗れたままなのは嫌だ。


「……でも……話をするべきだって言っても……こんな体じゃ、どうすれば良いか……」


 そう言いながら、レイは自分の両手を見つめる。

 確かに、今の体のままじゃ、荻原先輩からはレイの姿も声も見えない。

 薫とナギサのようなパターンもあるかもしれないが、あの二人のように血縁関係があるならまだしも、ただの友人関係であのような出来事は起こるものなのだろうか。

 ……両片思いだったなら、まだしも……。


「……それについては、解決策はもう練ってありますよ」


 私の言葉に、レイは「え……?」と聞き返してくる。

 それに、私は微笑み、続けた。


「……元の体に……戻りましょう」

今日固いボールでバレーをやって左手首が死にました

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