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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第八章~ケセラセラ
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二年と65日目

8/16 五話目

二年と65日目


 朝飯はラーメンライスである。朝から炭水化物をおかずに、炭水化物を食べる。まさに成人病への王道であろう。

 一応、ラーメンの具には、そこそこの乾燥野菜と、ベーコンが入っているので良しとする。気分の問題である。


 一行は、日の上がらぬうちから走りだした。今日は700キロ弱を走破してグダードに入らなければいけないのだ。なかなかシビアなスケジュールである。

 向かい方向は西、太陽は東。背中から太陽を受けるというのは、逆よりもずっと良い。眼に光源が入らないから、目が楽で、遥かに見渡しやすいのだ。石ころだらけの砂漠でも、横から光が当たると陰影が強調されて、なかなか乙なものである。

 眼前に自分たちの影を見ながら走るというのも、結構面白いもの。これもまた乙なものである。


 途中には関所がある。普通なら並んで手形を調べ、質問をされて、場合によって賄賂を渡して通してもらう。しかし、今回は簡単だ。

「何だお前ら!」

 と槍を向けて問いかけてくる兵士に対して、

「特急軍事特使である!」

 とキルマウスが自分自身で作ったマッチポンプ書類を掲げるだけ。

「はわあわ?!」

 と目を白黒させている兵士を一瞬で抜き去り、なんちゃってサイドカーはどんどん西に向かう。


 さて、キルマウスは順調に飽きてきているが、特に文句は言わないので、伊勢はそのままにしておいた。まあ、文句を言われたところで何も対処は出来ぬ。根性をしぼり出してもらう他は無い。

 昼飯には朝の残りの白米を握った、塩おにぎりである。おにぎりは、うまい。これは実績により証明された、ひとつの真理である。あらゆる学者が認める所なのだ。

「後どのくらいだ?」

「もう200サングも無いですね。4時にはつきます」

「よし」

 疲労と飽きですっかりと無口になったキルマウスは置いておき、なんちゃってサイドカーは安定して西に向かう。


^^^

 さて、そのような事があって、3時過ぎにグダードについた。「ついた」以外に、伊勢には何の感慨も無い。キルマウスは明らかにホッとした顔をしている。

 乗馬で鍛え上げられているはずだった彼の尻は、今まさに崩壊しつつあったのである。根性では衝撃と振動(物理)には勝てぬ。麦藁のクッションでは無理だったのだ。


 外壁の前でアールを人型に戻して、サイドカーを回収した。

 例によって、

「特急軍事特使である!」

「ははっ!どうぞ!」

 と市内にはいった一行は、タクシー的な自操車を捕まえて、キルマウス以外はそれに乗ってセルジュ一門の屋敷に向かった。伊勢とアールは彼の名誉のために、何も言わぬ。


「いま帰った」

「おやかた様!!」

 連絡も前触れもなく一門の長が帰って来たものだから、セルジュ屋敷は大わらわである。このような行動をとる上司は迷惑極まりない。

「水を持て。休ませろ。バターを持ってこい。俺の部屋にだ。宮廷に使いを出せ。この手紙を渡せ。ガルシャー殿だ。俺は疲れた。寝る。一時間で起こせ。伊勢とアールは適当に休め」

 言い捨てるなり、さっさと自室に引き揚げて行った。あとは使用人と奴隷たちが自動的に動く。実によく訓練された配下である。

「さあ、お二人もお疲れでしょう」

「おひさしぶりです。イラジさん」

 伊勢はアールの挨拶で、彼の名前を思い出す事が出来た。執事的なポジションに付いている、イラジという使用人である。この家の中では結構偉い。


 イラジの案内で、伊勢とアールは客間に向かった。何と言う事は無い、以前使っていた客間と同じである。もしかしたら、これはイラジのさりげない心遣いなのかもしれぬ。…それが判断できない所が憎らしい男だ。この男、できる。


 さて、

「やる事が無くなっちまったな」

「相棒、トランプでもやりますか?」

「うーん」

 アールはj自作のトランプを取りだした。変形チートで作った非売品だ。

 一応、スピードなど始めて見たが、伊勢にはたいして面白いものでもない。どうにも今後の展開が気になってしまうのだ。どちらからともなく手を止めてしまった。


「相棒、気持ちはわかりますけど、気にしても仕方ないですヨ。ボク達に局面を作る力はありませんヨ」

 アールの言葉は正しい。だが、伊勢たちの行動の結果、局面が出来ているという考え方も真だと思う。

 伊勢には、責任が、あるのだ。もはや、背負いきれない重さになってしまった。転ぶわけにはいかないから、しっかりと背負わなければならないのだ。歩く道を自由に選ぶことはできない。でも、できるだけ良い道を…それが責任の意味だと、伊勢は思っている。


「ベストを尽くしましょう。ボクは相棒が頑張ってきた事を知ってますヨ。ロスタム君も。後はもう…ケセラセラですヨ?」

「…そうだな」

 伊勢はアールの考え方に全て納得できるわけではない。彼女は自分の経験が二年しか無い。真の意味で経験に、殆どとらわれる事が無いのだ。

 でも、局面を突破する力は、アールみたいに考える方が遥かに強くなる。彼女の実績がそれを物語っている。

「はは、お前のやり方だと進みがはやくて大変けどな。バイクだけに」

「ふふふ、しかもSS(スーパースポーツ)バイクですから」

 アールが引く事は無い。文字通りバックギアはついていないのだ。搦め手も無い。常に正面突破である。

 だから、苦手でも何でも、搦め手とフォローは相棒の俺がやるんだ。

 伊勢はそう、自分に再確認した



 キルマウスは夜遅くまで各所と調整をして戻ってきた。詳細は彼が何も言わない為、伊勢らにはわからない。キルマウスの表情は普通だが、この男はこれで腹芸も出来るので、顔で判断する事は危険である。

 ただ一言、

「エルフどもは激怒している。明日宮殿で会う」

 とだけ言って、寝室に入っていった。


「…もう寝るか」

「はい、相棒」

 せっかく起きて組長の話を聞こうと思っていたのに、この放置プレイである。

 伊勢の胃の痛みが少しだけ増した。




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