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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第六章~戦争と平和
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一年と138日目

一年と138日目


 追撃に出ていたキルマウスがようやくヴィシーに戻ってきた。伊勢は彼がヴィシーに戻ると予想していたので、予め現地の宿で待機して待っていた。

 知らせを聞いた伊勢は、急いでキルマウスのいる役所に向かった。


「ようイセ!モングを追い、撃退して来た。さんざん討ちとった。お前もご苦労だったな。

 ジャハーンギールの顛末は聞いた。良い働きだ。お前はこれから帝都に書状を届けろ。俺と第4軍のフシャング将軍が書く。援軍が必要だ。今回のモングの侵攻は威力偵察みたいなものかもしれん。今から書く。すぐに出発しろ」


 扉から入ってきた伊勢を見るなり、のっけからこれである。

 彼は旅の垢も落としていない。はっきり言って非常に臭いのである。獣臭である。正直言って、あまり近寄りたくは無いと思う。


「イセ殿」

 キルマウスの次男、ダールが伊勢に声をかけて来た。日に焼けつくし、脂ぎって痩せている。眼はらんらんとして、少し前にあったはずの少年の甘さは、儚くなってしまった。

「とても勉強になりました。ありがとう」

 伊勢が彼に何かをした覚えはない。ただ、戦の前に多少、分かった風な事を言っただけだ。でも、アフシャーネフには恨まれるかもしれない。

「どういたしまして。ファハーンに戻られたら、約束の通り弟子を紹介しますね」

「宜しくお願いします」

 そんな感じの落ちついた、短いやり取りであった。


「おお、イセ殿!帝都ぶりですな!」

「フシャング将軍」

 第4軍のフシャング将軍が、扉から重い足音をさせてドスドスと入ってきた。伊勢は帝都で、数日間だけ彼の部隊を指導したのだ。

「ジャハーンギールの戦いの話は聞きましたぞ!素晴らしい防衛戦だ。特に夜襲は参考になる」

 さすがに武人だけあって、戦術研究に余念が無いらしい。外見も中身もザ・武人、というのふさわしい男なのだ。

「報告と援軍要請を書きますからな。宜しく」

「はい、将軍」

 彼はそれだけ言うと、さっさと扉から出ていった。さすが武人。


^^^

 伊勢は手紙を受け取ると、すぐにアールに跨った。名残惜しさもない。

 ここから帝都までは二千キロを遥かに超えているが、伊勢は二日で行くつもりである。ぐずぐずしていて良い理由など無いのである。


 カバンには、特急軍事特使の証明書、皇帝陛下に向けてのキルマウス、フシャング、ヴィシー執政官、ジャハーンギール執政官の報告および要請書と、ダールからのアフシャーネフに向けての手紙、アフシャールのアミルへ向けての手紙が入っている。

 完全にバイク便である。


「アール、行こう。調子はどうだい?」

「もちろん最高ですヨ、相棒。忘れ物は?」

「ない事にする」


 伊勢はヘルメットをかぶり、グラブをはめ、エンジンをかけるとサイドスタンドを踵で払った。何千回も繰り返した動作だから、体が自然に動いてくれる。

 

「さあ、行こう」

「はい、相棒」


 走りだした。


 まっすぐな道だ。この国の道は、大抵どこもまっすぐだ。

 まずは東方最大都市のへラーンを介して、帝都グダードまで。

 手紙を渡して、口頭で報告し、紙の工場を視察したら、家に帰るのだ。


「早く帰りたいですね、相棒」

「ああ」


 家はいい。

 伊勢は帰途を急ぐために、少しだけ大きくスロットルを開けた。




 

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