338日目-2
338日目
表彰は時間をおかず、その場で行われるようだ。クソ野郎の手当てもその場である。
表彰と言っても特に大したものではない。台も無いしメダルも無い。
優勝は伊勢。別に嬉しくもない。優勝しなくちゃいけないから、しただけである。どうせ伊勢の戦闘技術はチートなのだから、練習すれば強いのは当たり前なのだ。チートなのだ。反則なのだ。努力なんかしてないのだ。
ちなみに二位はクソ野郎。三位は槍の決勝で戦った長身の男だった。
「イセ殿、こちらへ。皇帝陛下からのお声がかけられます」
ありがたくも無い。何でこんなことやらなきゃいけないんだ。何がお声だ。クソ野郎なんて体中の骨がバラバラだ。それでもこの場に並んでやがる。実に下らない。
「こちらに両膝をつき、頭をおさげください」
土下座スタイルである。実に下らない。クソ野郎なんかどうやって土下座すりゃいいんだ。膝が折れて両腕も折れてるのに。
「陛下のおなりである!頭を下げい!!」
巨大なメガホンで声のでかい廷臣が叫ぶと、一部の付き人以外、みな頭を下げた。客席も含めたすべてである。
伊勢もそれらに倣って、頭を下げた。ちらりと後ろを振り向くと、クソ野郎も片ひざ付いて土下座モドキをしていた。バカめ。
「おもてを上げい!!皇帝陛下よりお言葉を賜る。謹んで聞くが良い!!」
「一同大義であった。参加者一同、いずれも類い稀なる武術、余も感服いたした!
特に優勝者イセ・セルジュ・シューイチローは、今まで無名ながら、その素晴らしき武技は顕彰に値する!
皆の者、これに学んで良く精進し、更に高き武芸を身につけるように努めよ!そち達は我がアルバールの誇りである!
優勝者イセ・セルジュ・シューイチロー。そちの武芸に対し余から褒美を授ける。何か望みはあるか?!」
「畏れながら申し上げます!!」
この瞬間の為に、いろんな奴らをボコボコにしてきたのだ。死んだ奴だって何人もいる。伊勢の馬に踏まれた奴も、体じゅうがグチャグチャになって死んだ。下らなくたって何だって、言えるだけの事は言わなくちゃいけない。精々、精一杯の声を張り上げるのだ。
「陛下!
我々が武芸を磨くのは、自らの守るべきものを守るためでございます!
こんなところで競い合う為の力ではございません!
我々が褒美に欲しいのは、この国を守るために戦う機会でございます!
せっかくの力がありながら、それを腐らせ、座して死を待つのは真っ平ごめんだ!
守るべきものを守れないのは戦士としての恥!
西も東も無く、このアルバールの民を守る陛下の兵として、名誉ある戦いの場を我々に与えていただきたい!
北東部ではモングの侵入が続いており、強力な橋頭保を築かれれば敗北は必至です!
奴らは我々の同胞を殺し、家に火を付け、我々の子供を攫い、娘を妹を犯しています!
奴らモングは人間ではない!
東側の諸部族を各個撃破で平らげたモングは、必ずこのグダードにも攻めいってくるでしょう!
我々は、今、戦わねばなりません!
名誉を知るものは、今、戦わねばなりません!
今、我々には力があります!
今こそ団結と行動を!
我々ならできる!
この国の名誉を知る市民に申し上げます。
皇帝陛下に申し上げます!
戦え!戦え!戦え!戦え!戦え!!」
そう絶叫して、伊勢は平伏した。
轟々と耳の奥で血が流れる音が聞こえた。
「ぶぶ無礼な!何を言っておるのだ戦闘士風情が!」
ゴミみたいな奴が怒鳴りながら悪意を向けてくるが、なんてことはない。お前に俺は殺せない。寝てろゴミ。
「そうだ!その通りだ!俺達はモングと戦う!」
同意してるのはキルマウスが放った桜かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
さわやかクソ野郎が「ふぉれは戦うふぉ!戦っふぇやる」とか言っている。口と歯がボロボロで喋れてない。お前は休んでいろバカが。
会場全体にざわざわとした空気が蠢いている。情勢が左右どちらに傾くか、皇帝陛下の言葉次第だ。
伊勢は勝手に顔を上げて、皇帝を見てみた。皇帝はこちらを向いて、歯を食いしばっていた。たぶん、激怒している。バカが。怒ろうが何だろうが伊勢の知った事ではない。皇帝自身の不始末でこうなっているのだ。こちらを罰するつもりなら、アールと一緒に戦って皆殺しにしてやる。
首を回してアールを見てみた。うんうんと大きく頷いていた。
レイラーが手を振っていて、ロスタムが何か叫んでて、セシリーがじっと見てるのも見えた。
伊勢はもう一度皇帝の目をしっかりと見て、軽く頷いてやった。
皇帝も目で小さく頷き返した。
「沈まれ!!静粛にせよ!!陛下からのお声がある!!」
静かになるまでに数分かかった。
「我が名誉ある臣民よ、聞け!
余もかねてからモングへの対処を考えていた!
イセの言うとおり、座しているわけにはいかん!
我が民を傷つけるものには容赦はせん!
余は以下の宣言をする!
一つ、北東部の治安安定のため、帝軍および諸侯軍の迅速な派遣を命ずる!
二つ、北部魔境のモング侵攻部に複数の強力な砦を設ける!
三つ、モング族は我々アルバール帝国の敵である!
イセ・セルジュ・シューイチロー、貴様は極めて僭越で無礼である。本来なら打ち首にすべきだが、本大会の優勝と紙の開発の褒美としてその首を預けておく。今後も精進せよ!」
「ありがたき幸せに存じます!皇帝陛下万歳!」
「皇帝陛下万歳!」
「皇帝陛下万歳!」「皇帝陛下万歳!」
「皇帝陛下万歳!」「皇帝陛下万歳!」「皇帝陛下万歳!」
とても芝居臭い。芝居臭いが、これが人の心を動かしていくのだ。
コロシアムは陛下へのバンザイコールで弾けんばかりだ。
伊勢はどっと疲れた。
目を開いて地面をみるが、くらくらと目が回り吐き気がする。
だた、どうやら自分は勝ったらしい事はわかった。




