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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第三章~北東部
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133日目-2

今回もショッキングな表現があります。ご了承を。

133日目


 そこのある中で一番綺麗な布と毛布を巻きつけられたミナーの死体を見ても、ロスタムには特に変化が見られなかった。単に、確認した、と言う事にすぎない感じだ。伊勢はわかるような気がした。

 この国の人は日本人と違い、笑顔も、苦しい顔も哀しい顔も、わざと作ったりはあまりしない。今はその潔さが、良いと思う。

「ロスタム、村の女達の事をよろしく頼む。ひどい目にあったから俺達のような大人の男を怖がるだろう。お前が守ってやれ」

 伊勢はロスタムに仕事を押し付けた。何かやっている方がいい事もある。


「ファルダード、今後はどう考えてる?」

「ははい軍曹殿。おお女子供に第二小隊をつけて、モモモング共の遺した馬を使って、ささ先に村に返します。残りもモングの馬で。乗り切れないので、捕虜はああ歩きです。」

「いいだろう。村に戻ったら、向こうにいる騎馬隊の連絡員に馬をひいてこさせるように伝言しておけ。みんなに少しでも働きどころが無いとダメだ」

「はい軍曹殿」


 村の女性は馬には問題なく乗れる。第二小隊と共にモングの馬で村に帰っていった。アールも先に返し、女たちの面倒を見てもらう。

 ロスタムと遺体となったミナーも一緒に帰っていった。

 戦場に残っているのは第一小隊・第3小隊の一部、モングの捕虜25人と死体が60体だ。

 捕虜は手を後ろ手に縛り、足を膝のところで縛り、チョコチョコしか歩けないようにしてある。

 死体からは服と装備をすべて剥ぎ取った。少しでも金にしたい。

 後は放置だ。乾いており、人家から遠い。疫病が問題にはならないだろう。


 諸々を処理し、第二陣が歩き始めようとした時に、騎馬隊が馬を曳いてやってきた。これで全員が馬に乗り帰れるようになる。

 騎馬隊の面々は、戦場の跡を見て興奮し、参加できなかったことを悔やんでいたが、こればかりは仕方無いのだ。


 昼ごろに村に帰ると、残った騎馬隊と衛星隊のおかげか、かなり清掃されていた。死体は礼拝堂の横に並べてある。

 徹夜の戦闘行動で流石に皆疲れ果てている。追加の治療が必要な人間を残して、他は家を借りて仮眠をとる事にした。

 捕虜の見張りは騎馬隊が担った。

 伊勢はマルヤムの家を借りて寝た。マルヤムの夫は鍛冶屋だったらしい。彼もまたモングにやられて死んだ。


「相棒」

「ああ、アール」

「5時ですヨ。時間です」


 アールは頼んだ時間きっちりに、いつも起こしてくれる。素晴らしいのだ。

 伊勢は今日中に尋問を終わらせようと思っていた。この村はジャハーンギールの管轄ではないからだ。縄張り争いとメンツは現代日本とは比べ物にならないものがある。

 

 モングの捕虜は村長の家に押し込んである。ちなみに村長一家はもういない。

 玄関の前でファルダードと一郎二郎三郎がそろっていた。全員、疲労の色は濃いが、仕方が無い。

 

「おい、みんなまだ飯は食ってないだろうな?」

「はい軍曹殿」

「良かった。飯が無駄になる可能性があるからな。俺の国で昔やられていたやり方をやる。火付けと盗賊の取り締まりをやっていた兵団のやり方だ。参考にしてくれ」

「はい軍曹殿」


 村長の家に入り、騎馬隊から出していた見張りを下げる。

 捕虜は目隠し、猿轡をされ、後ろ手に縛られて足は座禅型に固定されている。

 伊勢は一人一人の目隠しを首までひき下げると、後ろ手に縛られている親指に鉄串をさし始めた。

 完全に無言である。無言のまま、鉄串を刺していく。

 引き抜いた鉄串を今度は腿や肩に向けて、遊ぶように笑いながら突きさしては引き抜き、を繰り返す。

 足の指にも鉄串を突きとおした。

 何も言わず、休む間もなく全員の捕虜にそれをやるのに一時間半以上かかった。


全員で部屋から一度出て、違う見張りを立たせてから打ち合わせだ。みんな真っ青な顔をしている。

「ぐぐ軍曹殿…ななな、なぜあんな事を…ああ、あれはなんの意味があるんですか?」

「尋問には責め役となだめ役があるのは知ってるな?あの責め役を演じてるのが俺だ。

 あいつらはもう俺が怖くて仕方ない。あいつらにとって、俺は何も聞かずにただ痛めつけるのを楽しむ狂人だ。言葉も通じないし、頭が狂っている。

 こう言ってやれ、『お前がちゃんと喋らないと、俺も嫌だが、またお前をあいつに任せなきゃいけない』ってな。

 俺の国では、まず両手両足の爪の間に木の串をねじ込んでからが尋問の開始だった。まあ200年も前の話だがな…まあアルバールにもアルバールらしいやり方があるとは思うんだが、俺は知らないからな」

「は…はい軍曹殿」

「あとはお前らに任せる。一人一人引っ張り出して、話に齟齬が無いか良く確認しろ。

 今日来なければ、ヴィシャーからの救援とやらは明日の午前中だろう。それまでに処理しておいてくれ」

 

 伊勢はそう言うと、マルヤムの鍛冶屋に帰った。

 途中で水道の水を柄杓で汲んで手を洗い、顔を洗い、口をゆすいでいると気持ち悪くなって少し吐いた。

 もう一度口をゆすいで頭から水をかぶり、マルヤムの家でアールのご飯を食べようと思った。



^^^^^

 夜の見張りは御者に借りてきた第一兵団の連中だ。すっかり誰からも存在を忘れ去られ、可哀想な事になっていたので、しっかりと働いてもらう事になったのである。


 さて、メシを食べようにもマルヤムの家は荒らされていて、麦も全て持ち去られるか地面にぶちまけられていたから、アールの出した白米を食べる事になった。

 アールが食事を作っている間にマルヤムがどこかからロスタムを連れてきたので4人で囲む食卓である。

 メニューは白飯、瓜の味噌汁、クリームオムレツ、ピクルス、羊の香草焼き、だ。

 結構豪華だ。さすがアール先生である。

 彼女は何時でも、その瞬間の100%を出している。


 食事は旨かった。しっかりと食べた。『軍曹』をやっているうちに、飯に関しては兵士と同じように淡々と食えるようになった。

 こんな異常事態でも、食える。人間には意外と強い部分があるのかと伊勢は思う。

 

「あー食った食った。アール、まんざらでもない料理だったなー。オムレツが良かったよ」

「はい相棒。ありがとうございます」

「なんかあんた…さっきと全然違う感じだね。」

 マルヤムが呆れたように言った。ロスタムの目もいぶかしげだ。

「あー、すまんな。『軍曹』で無い時はこんな感じだよ」

 とはいえ、最近では軍曹と普段の境目が曖昧になってきて、どうしていいのやら良くわからなくなってしまっている伊勢である。

 ちょっとしたきっかけがあると、直ぐに『軍曹』が顔を出してしまう。

 普段でも荒い雰囲気を出してしまう。

 伊勢は、このあたりがアールや他の仲間にとても申し訳なく感じている。


「まあ、それはともかくとして…ロスタムはこれからどうすんだ?マルヤム、あんたは?」

 両者とも生活基盤も家族も完全に崩壊してしまった。あるのは家と着るものだけだ。

「俺は…叔父を頼ってそこから丁稚を探すか、工房の下働きか…そんなとこですかね…もしかしたらこの村で強制的に農業やらされるかもしれないですけど…嫌ですね、もう。ここにいるのは、嫌です。俺はどこかにいってしまいたい」

 ロスタムの家族もほとんどの知り合いも、みんな死んだのだ。

 嫌なのは当たり前だ。

 新しく来た連中と生きるというのも辛いだろう。それ以前にこの村はもうロスタムには無理なのだ。

 親もなにもないのでは、奴隷のような環境に落とされるのかもしれない。

 この村に繋がれて農奴になるかもしれない。でも、それではロスタムには無理なのだ。


「うん、マルヤムは?」

「あたしはもうババアだからね。後はどうだっていいのさ。適当に鍛冶屋の下働きでもして死ねたら最高なんだがね。あたしは鍛冶屋の女房だったから」

 ババアだからどうでもいい。確かに、一理ある意見ではある。間違ってる気も、あってる気もする。ただし、「どうだっていい」と言われたからって「はいそうですか」とは言いにくい。

「アールはどう思う?」

「相棒は相棒の思うようにすれば良いと思います。相棒には出来る事があります。ボクは応援しますヨ」

 アールは相棒の考えがわかるわけじゃない。ただ、相棒の思ってる事や、相棒そのものについては良くわかる。アールにはわかるのだ。

 だから、伊勢がアールに訊いた時には、もう答えは決まっているのだ。


「よしわかった。ロスタム。俺が商家にお前の丁稚を紹介してやっても良い。超一流の鍛冶工房も紹介できる。有名な学者の弟子も紹介できる。それか…お勧めしないが俺の弟子になるか、だ。

 俺はこの国で何が出来るかもわからんし、弟子に何を教えていいかもわからん。お勧めしないが選択肢として提示しておく。場所はファハーンになるな。明日の朝までに考えておけ」

 水を一口のんで続ける。

「つぎにマルヤム。あんた田舎の出じゃないだろう?」

「ああ、一応育ちはヘラーンだがね。だからなんだい?」

「やっぱりな。ヘラーンか…大都会だなぁ。あんたがよければ、俺の下で働いてくれよ。仕事は色々だ。給料には期待するな。だが住み込みで食事は出そう」

「のった!!」

「早いな…まぁ…いいか。じゃあよろしく頼むよ。」

「じゃああんたは旦那様、だね。いよっ旦那!キシシ」

 変な声で笑いやがる。

 これは…先走ったかもしれない。

 ふと伊勢がアールを見ると、楽しそうに笑っていたので、伊勢もこれでいい気がしてきた。

 何とかなるだろう。

「相棒、ケセラセラ、ですヨ?」


 精々やれるだけやる。後はもうケセラセラ、なのだ。


^^^

 夜、目が覚めた。

 ミナーが死んだ事について考える。

 多分、意味なんて無いのだ。意味があったら最低だと思う。

「相棒?おきてますか?」

 アールは眠らない。バイクだからだ。

「アール、ロスタムは?」

「さっきまで一緒にいました。今は寝てます」

「そうか、助かる」

「はい」

 アールとの間に無駄な言葉は無い。簡潔に流れるままに真正面から自然にそのまま全部のみ込む。

 それがアールだ。

「相棒、もう少しですヨ」

「うん」

 伊勢はもう一度眼を閉じた。

「アール、明日、葬式をしよう。そして出ていくんだ。」

「はい」




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