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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第三章~北東部
36/135

133日目

本日最後の投稿です。2/2。


極めて残酷でショッキングな表現があります。

ご了承の上でご覧下さい。


2030に誤字訂正しました

133日目 


 斥候達はそれから20分して戻ってきた。今の時間は2時半を回った。

「ほ報告しろ」

 ここにいる幹部は全員聞いている。

「敵は約80名。馬と天幕の形状から間違いなくモングです。ここから600mの距離にある、ワジ北岸の井戸の周りで休息中。天幕は二つ、後は毛布で野宿です。

 見張りはいますが5名ほど。10名はいません。

 周囲の地形ですが、ワジの幅は20ヤル(18m)。奴らが寝てる北岸は起伏のある平地で、枯れた草がちょこちょこ生えてます…このあたりと同じです。

 井戸の西側にある低く大きな岩山に馬が結んであります。その他の方角は所々に岩のある平地です。

 それと、ワジの対岸は大岩が転がっているので、あそこに隠れて弓で狙うと良いと思います。」

「ひひ人質の所在は?」

「そこまでは…天幕の一つに押し込めている気がしますが…確信はありません」

「わ、わかった。やや休んで食事をとれ。おお俺の近くに居ろ」

「はい副長」

 ファルダードはしばらく考えた。強襲するか?それしか無い。だが出来るだけ一気に片を付けないと…そうしないと女どもが殺されるし、こちらの被害も大きくなる…できるだけ接近して、払暁で一気に襲うか…


「ぐぐ軍曹殿、伍長殿達も、相談ですが、ふふ払暁戦で一気に、き強襲するしかないと思います」

「続けろ」

「しし周囲に草が、た多少生えているという事ですし、こ、このく暗さですので、擬装してある程度離れれば問題ないかと…じょ徐々にゆっくり接近して、た対岸からゆ弓で見張りを撃つと同時に、とと突撃を…いい、いかがですか?」

「ふむ」

「うう馬が騒ぐので、岩山の方角からは、せせ接近しません。き北と東から接近して、馬に乗らせず、わワジに追い落とすというのは?」

「軍曹殿、私は良いと思います。」

 ハムラー伍長が賛意を示す。ニーグ伍長、ラハン伍長も共に頷いている。

「よし、俺も良いと思う。槍が匍匐しての擬装には長すぎるだろう。各自、自分に合うように切ってしまえ。

 後は…日の出まで3時間くらいだ。飯は食ったな?ではファルダード」

 伊勢も同意した。これ以上の作戦は伊勢には思いつかなかった。根っこは素人なので当たり前と言えば当たり前だが、良い作戦だと思った。


「は!イ、イチロウ、ジロウ、サブロウ、き聞いたな?うう薄明るくなってきたころに開戦だ。

 まず、イチロウ、ししっかり偽装して、き弓兵4個分隊を率いてワジの南岸に付け。てて敵に近いから、おお音に気をつけろ。せせ咳するくらいなら死ね。ああ合図は軍曹殿の魔法具で俺が出す。

 ジロウ、おお前は主力だ。おお俺と一緒に50ヤル(45m)まで接近して、ささ最後は槍持って突っ込め。おお押し込んでワジに落とせ。

 サブロウ、おお前は東側から、のの残りのき弓兵を連れて、かか開戦と同時に撃て。その後、ジロウ達が突っ込むからお前らも突っ込んでこい。剣はお前らに集めておく。

 よし、行け」

「「「はい!」」」

 小隊長たちが指示を伝えに消えていく。撃てば響く、だ。

 余計な言葉はいらない。

 軍隊だからだ。


「ハムラー伍長、ニーグ伍長、ラハン伍長、引き続きイチロウ、ジロウ、サブロウを」

「任せろファルダード副長」

 久しぶりにどもらず喋ったファルダードは、伍長らの言葉を聞き、頼もしげに微笑んだ。

 これは勝てる。と伊勢は思った。

 アールは真面目な顔をして、ただ聞いていた。


^^^

 斥候の報告から割り出した敵の野営地の300mくらい前から、ゆっくり接近していく、

 伊勢は槍を置いてきた。大刀で戦い、槍は他の兵士に渡して使わせる事にした。

 太刀を傍らに携え、擬装にひっかけないように注意してゆっくりゆっくり、動く。

 周りに散会している兵士も同じだ。

 一時間に100m動けばいいのだ。そうすれば朝には余裕で敵の眼前に出られる。

 発見されずに襲えば勝てる。

 それだけだ。

 

 アールは槍から穂先をはずし、ネジをはずして分解して、単なる2mの鉄棒にしてしまった。まあアールの力なら槍でも棒でも同じと言えば同じである。当たれば相手は死ぬ。

 アールはその棒に草を巻きつけて擬装すると、背中に差し込んで変形チートで固定し、今はべったりと伏せて伊勢の横にいる。

 彼女の擬装はすごい。

 草をつけたギリースーツ、これはまあ良い。顔を黒と茶色のまだら模様にしている事、これも普通にしておこう。

 すごいのは動きである。まっ平らになって、延々と動き続ける。回転する超低速モーターのようだ。ゆっくりと移動するフライスのステージのようだ。

 実際に目で見ていてもその動きがわからないのに、いつも間にか近づかれている。

 これは恐怖であろう。


 右前方にはファルダードと二郎がいる。擬装しているので、伊勢には良くわからないが、いる筈である。

 ちらりと伊勢は振り返ってみた。

 本当にほのかな月明かりの中、色んな草を生やした平べったい塊が、ゴソゴソとゆっくり動いていた。

 自分で教えた事ながら、なんかアホみたいな気がした。

 でも、このアホみたいな事が、戦いを作り上げていくんだ。


 伊勢はまた前を向いて、動き出した。



^^^^^

 ゆっくりと、ゆっくりと…音を立てずにゆっくりと…

 白雪姫はそれだけを注意している。


 これから、周りが少しだけ明るくなるころに、敵に突っ込むのだ。

 俺達が村の娘達を救うのだ。

 俺達が、あのひどい事をしたモングを倒すのだ。

 今ここにいる俺達しか出来ない事だ。

 そう、白雪姫は思い極めている。


 白雪姫の前にいる草を生やした塊が、ゆっくりと後ろを向いて、全体を見渡した。

 たぶん、この塊は軍曹殿のはず。

 俺達の動きを、しっかりと見ていて下さる。

 軍曹殿。

 白雪姫たちを虐めるキチガイだ。

 そんなバカなことを言った奴は…俺だ…白雪姫だ。

 確かに軍曹殿はキチガイかもしれんが、そのキチガイの訓練のおかげで今、白雪姫はここにいられるのだ。

 それなら俺もキチガイでいい!誇り高きキチガイでいい。白雪姫はそう思う。


 あの訓練が無ければ、走ってここまでは来られなかった。

 あの訓練が無ければ、こうして擬装して接近する事も出来なかった。

 あの訓練が無ければ、突っ込んで槍を振るう勇気も技もなかった。

 あの訓練があったからこそ、少女達を救えるのだ。

 あの訓練は、今この瞬間の為にあった。

 この瞬間の為に、俺の人生はあったのだ。

 この瞬間の為に、パン屋の三男として俺は生まれた。

 神は今ここに、俺の人生の全てを繋いでくれたのだ。

 全てだ。


 集中しろ、ゆっくりだ、

 絶対にばれてはいけない。

 ボンボン副長の指揮のもと、静かに黙って、一丸となって突っ込む。


 それだけだ。



^^^^^^^^^^^

 相棒が後ろで停止するのがアールにはわかった。

 接近するのはこの程度で十分で、もう限界と思ったんだろう。

 アールはもう少し前に進む。

 アールは人型では走るのが遅いからだ。

 のっそりとしか動けないからだ。


 もう、あの時のように間に合わないのは嫌だ、そうアールは思っている。

 あの時は走っても走っても、相棒に辿り着かなかった。

 アールが怖いの事は、世界に一つだけだ。

 あの時は、本当に怖かった。

 相棒が跳ね飛ばされて、動かなくなって、死んだと思った。

 相棒が死んだら終わりだ。

 木っ端みじんに全て無くなってしまう。

 今日は、できるだけ相棒の近くで戦う。

 絶対に背中を守るんだ。

 アールがいれば相棒は絶対に大丈夫だ。


 絶対だ。



^^^^^^^^^^^

 ほんの少しだけ、明るくなり始めた事に、伊勢は気付いた。

 夜の闇が静かに払われていく。

 タイミングはファルダードにお任せだ。おそらく、もう数分で、始まる。


 伊勢は少しだけ動いて、ギリースーツをすぐに脱げるように確認した。いざという時に絡まったのでは冗談にもならない。

 明るくなり始めた今が一番危険な時間だ。なにしろ、敵から一番近い奴は50mも離れていないのだ。

 いや、アールがその前にいる…あの塊はアールか?

 伊勢は眼をこらす。

 良くわからないがたぶんアールのようだ…敵から20mも離れていない。

 すごいストーキング技術だ…

 

 時間か。

 ファルダードが小さく動いてLEDライトでワジの対岸に一瞬の光を送った。

 

―ヴヴィヴィンィンヴィヴヴヴィヴィン…ぐぁ…薄明の光の中、弓弦の鳴る音と断末魔の声が小さく耳に届いた。


「突撃しろ」

 伊勢は小さな言葉を投げ捨てながら、ギリースーツを脱ぎ棄てて駆けだした。

 敵の見張り達に次々に矢が突き立っているのが見える。

 伊勢の瞳孔が限界まで真ん丸く開いた。

 後ろを振り返る必要はない。

 何の声も聞こえてこないが、みんなついてきている事を伊勢は知っている。

 今はただ走るだけでいい。

 伊勢の右前方にはファルダードがいる。二郎は更にそのずっと右だ。ニーグ伍長と共に、馬に接近する相手を抑止するのが目的だ。この戦いの、一番のかなめだろう。

 突っ込め!


 まだ毛布にくるまって、密集して寝ている敵の頭上から、三郎に率いられた弓兵隊の射た矢が降り注いだ。毛布に遮られ、あまり効果は無いかもしれないが、まあいい。どうせすぐに終わらせる。

 最初の弓弦の音から10秒で伊勢は敵に突っ込んだ。

 驚愕の顔で叫び声をあげて毛布から起き上がってきた、なんにも持っていない敵の頭に、横から刀を振り下ろした。頭頂部にまっすぐに入った刃は、耳近くまで食い込んで止まった。

 敵はまた寝た。

 二度寝だ。

 汚い毛布だ。

 汚すぎる。


 アールも相棒と一緒だ。

 タイミングをあわせて、相棒のすぐ後ろから、一緒に敵の集団に突っ込んだ。

 アールは相棒の斜め後ろから、相棒に届きそうな敵を棒で潰していく。文字通り潰していく。胴体を狙って棒を振ったり突いたりすれば良いだけ。簡単だ。当たれば死ぬ。

「相棒っ!」

 アールは叫んだ。

 特に意味は無い。

 ここにいるよ、と教えただけだ。

 そんな事、相棒はもう知っているので意味は無いのだが、言いたかったんだ。

「相棒っえいっ!」

 アールは相棒の背中を守る。

 絶対に守る。


「相棒っ!」

 伊勢は背中にアールの声を聞いていた。

 そこに最初からいるのは知っているのだ。でも声を聞いていると悪い気はしない。だからもっと呼んでも良い。

 アールの声を聞きながら全体を見た。

 既に、もうこちらが圧倒している。初めて聞いたモング語は絶叫と罵倒だけだ。

 ちょっとモング語をしゃべってみようか。

『ワジに逃げ込め!ワジだ!ワジに行け!』

 陽子さんチートのモング語を…邪魔だおい…そんなクソみたいな槍で雑に突いてくるから…ほら、指が無くなっちゃった…指が無くなっちゃうと槍を落とすから…ほら、首が無くなっちゃった。

『ワジに逃げ込め!ワジに行け!』

「相棒っいますヨ!やぁっ!!」

 わかってるよアール。そこにいてくれ。任せる。

「アールっ!」

 別にアールを呼んだ意味は無い。

「相棒っ!」

『なんだてめぇぇぇ』

 うるせぇ。てめぇが何だ。死ぬぞ。ほら死んだじゃねぇか。バカが。死ね。

「相棒、もう終わりそうです」

「そうかアール…」

 簡単だ。楽勝だった。



 30人くらいがワジに逃げ込んだ。

 他の奴らはもう死んだか、死んだも同然の無意味なゴミだ。


 ワジにいる奴らは眼をかっぴらいているが、どうせお前らも結果は同じだ。

 奴らが手に持っているのは小さな短剣くらいのモノだ。

 そんなんで戦えると思ってんのか?アホが。

「石だ!石を投げろ!」

 ドスドスと石が投げつけられる。

 こぶし大の石だ。石はそこらじゅうにある。

 矢より、多分こっちの方が怖かろう。上から投げる石は文字通り骨を砕く。

『降参する!、降参だ!許してくれ!』

 クソだな。バカが。

 都合が悪くなればそれか?

 お前らがやった事は何だ?

 責任も取れないんだから、せめて死ね。


「相棒、相棒」

「アールどうした?」

「相棒の良いようにしてください。本当に一番良いように」

 …ああ、わかってる…そうだな…そうだ。

 …ああ、アールは相棒だからな。わかるんだ…

「投石やめろ!もう投げるな!!」

「でも軍曹殿!今なら全員やっつけられます!」

 こいつは誰だ?ああ、あれだ、あいつだ

「ああ、白雪姫。もう終わったんだ。もういい」

 きょとん、とした顔をしてやがる。なんだ?その顔は。

 ふふ、ははは。ポンと肩を叩いてやる。

「ああ、捕虜にしろ。丁寧に扱えよ」 


 伊勢は周りを見渡した。

 伊勢のすぐそばにはアールがいる。当然だ。

 モングの死体が密集して折り重なるように散乱している。寝ているところを襲ったんだから当然だ。

 訓練中隊の兵士で倒れてる奴は一人もいない。

 生きてる数人のモングに槍を突きつけて、武器を捨てて腹這いになれ、と怒鳴っている奴がいる。

 武装解除だ。後でそいつらにはききたい事がある。

 ワジの中には白雪姫達と、一郎の第一小隊が降りて行ってモングを怒鳴り付けている。


「ぐぐ軍曹殿!」

「ああ、ファルダード。終わったな」

 兵たちの小さな歓声と、ワァッと泣く女の声が伊勢の耳に聞こえてきた。 

 天幕に入れられていた女達が次々と出てくる。泣きながら兵士たちに抱きついている。

「ファルダード、被害を確認し、捕虜をまとめろ…ああ俺が指揮官じゃ無かった。すまんな」

「い、いいいえ。

 そ、損害はゼゼロです。かか完全に勝ちました。怪我人が多少出てるだけのようです。

 ジロウ!ほほ捕虜をまとめろ!これ以上の、ここ殺しは不要だ。サブロウ!ええ衛生兵に怪我人と女の手当てを!」

 二郎の部下が動いて、迅速に捕虜たちがまとめられていく。

 ワジの中の連中は第一小隊と白雪姫のいる分隊がまとめている。こちらも終わりだ。


 視界の中では兵士たちが、怪我人に手当をし、生き残りの敵をまとめ、死にかけの敵にとどめを刺していく。

「おっおい!や、やめろ!」

 伊勢が振り返ると、女達が手にでかい石を持って、縛られている数人の捕虜達を殴っていた。

 みんな無言だ。歯を食いしばって、隙間から息をもらしながら捕虜を殴っていく。

 でかい石だ。絶叫はすぐに静かになり、捕虜は死んだ。

 もう死んでいる。

 もう死んでいるのだ。

「もう死んでいる、やめろ」

 伊勢が言うと、女達が止まった。

「死んでいるから何だっていうのよ」

「死んでいるから、もう終わったんだ」

「死んだって終わらないのよ」

 女達は石をふりかぶり、捕虜の死体の胸に叩きつけて、その一発を最後に離れた。


「ロスタムの妹を知らないか?」

 伊勢は女の一人に聞いた。何故だか女はびくっとした。

「ミナーちゃん。今、連れてくるわ」

「ああ、頼むよ。ありがとう」

 女は天幕の中に入り、しばらくして7歳くらいの小さな女の子を、汚い毛布にくるんで、胸に抱いて出てきた。 

「ああ、良かった」

「良くないわよ。ほら」

 女が毛布を開くと、裸の女の子の体は青白くて、股の間から尻や腹まで固まった血だらけで、動かない。

「こんなに小さいのに、無理やり突っ込んだんだよ、あいつら。本当に楽しそうでさ」

 あんた達が来る少し前までは生きてたんだよ、そう言って、女が、ミナーちゃんだったものを毛布に丁寧にくるんで、地面に置いた。

 その毛布は汚いのに。

「ロ、……ロスタムに見せるわけにはいかない。綺麗にしてやってくれ。アール、彼女を頼む。頼むよ相棒。アール頼む。頼む。俺はちょっと、ちょっと俺は、ちょっとロスタムに話をしてくる。アール、この事は絶対にロスタムの耳に入らないようにしてくれ。絶対にだ。」

「相棒、はい。」

 無表情でいられたと思う。その筈だ。表情を制御する日本人リーマンのスキルだ。

 伊勢は今一つ力の入りにくい体を動かして、ロスタムが待機している600m後方にあるいていった。

 色んなショックと疲れで、自分の認知能力がすごく落ちてるなぁ…なんて変に冷静な分析も頭によぎるが、ロスタムにどう話せばいいのかは分からないのだ。

「隊長さん!」

 考えられないのに考えながら歩いているうちに、ロスタムの所に着いてしまった。

 バカが。


「隊長さん!勝ったんですね?!妹は?!」

 そんな顔で見るなバカ。

「ああロスタム。勝った。お前の妹のミナーちゃんは死んだ」

 どんな言い方だって同じだ。

「えっ?」

 ああ、嘘の一つも考えてくるんだった。

「だって勝ったんでしょう?」

「ああ、勝った。楽勝だった。こっちの損害はゼロだ。」

「じゃあなんでだよ!!」

 そうだよな。だれだってそう思うよ。

「俺達が突入する前にお前の妹は死んでいた。……攫われて運ばれているときに馬から落ちたんだ。」

 ロスタムはすとんと地面に座り込んだ。

「あんなに頑張ったのに死んでるなんてありえない。神様はそんな事しないはずだ」

「努力は結果を約束しないんだよ。望む結果は努力をしなければ得られないが、努力をしたところで望む結果が得られるわけじゃないんだよ。どんなに頑張ってもダメなもんはダメだ。

 神様の事は俺にはわからん。俺は信じてないしな」

 ロスタムは愕然とした顔で伊勢を見た。ああ、下らない事を言っちまった…まただ…だから俺は女に嫌われんだよ…ロスタムはなにをそんなに驚いてんだ?

「ロスタムは何をそんなに驚いてんだ?」

 そのまま声に出してしまった。

「わからない」

「わからないなら仕方ないな。少ししたら、ミナーちゃんを見に行くぞ」

「うん」

「疲れて倒れる前に目だけでもつぶっておけ」

「うん」

 伊勢にはこれ以上発すべき言葉は見つからないのだった。


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