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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第三章~北東部
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132日目-幕間

132日目2 幕間


 部隊は急遽、ロスタム君の村を助ける為に出発することになった。出発準備に追われている傍らで、相棒とアールはサイガさんとお話をしていた。


「サイガ、どういう事だこれは?」

 相棒が案内人に雇った遊牧民のサイガさんに問いかけている。見たことも無いくらい冷たい目だ。

「なにがですか。何の事言ってるかわかんねぇですよ」

「ここはお前の部族の縄張りだろうが。何でモングがここにいるんだ?あ?白山羊族はモングについたのか?おい!」

 アールは、たぶん初めて相棒の怒っている姿を見た。

 アールには怖くないけれど、今の相棒は本当に怒っている。めったに怒る事のない彼にしては珍しい事だ。

「し、しらねぇですよ!なんの事だか。白山羊はモングなんかについてねぇですよ!少なくとも俺はしらねぇです」

 サイガにとっては相棒は『軍曹』なのだ。物凄く怖いと思う。


「サイガ…俺はお前を信用して無い。お前は今から自分の部族の無実を、お前自身で証明しないと死ぬぞ?

 …今から攫われた女子供を助けに行く。お前が助けるんだよ。白山羊族の代表としてな。そして捕まえた賊に白山羊の無実を証言させろ」

「何で俺が!俺はそんな代表なんて…」

「出来ないなら、裏切ったって事だ。裏切り者は殺す。白山羊が裏切ったなら白山羊は全部殺す。お前が最初だ」

「わわ…わかりました…」

「ちゃんとやれ。……おい一郎!お前の小隊から兵を出してコイツを見張っておけ!逃げたら刺せ。……アール」

「はい相棒、ロスタム君ですね?」

 相棒はホッと少しだけ頬を緩めた。

「うん、頼むよ」

「はい」

 

 ロスタム君は壁際に立って、そわそわしながら出発準備を見ていた。

「こんばんは、ロスタム君」

「こ、こんばんは…えと…」

「ボクはアールですヨ」

 ロスタム君はどうしていいのか分からないんだ。

 必死で助けを求めに来て、それが形になった今、自分が何をしていいか分からなくなって焦燥しているんだ。


「ロスタム君。まだロスタム君にできる事がありますヨ?」

「本当ですかアールさん!何が出来ますか?」

「正確な情報ですヨ。情報が戦いでは一番大事ってボクの相棒が言ってました。

 あ、相棒っていうのは、あの『軍曹』って呼ばれてるここで一番偉い、怖い人です。本当は怖くないですけどね」

「情報…?」

「ロスタム君がまだ話して無い情報があると思いますヨ。

敵の装備、戦い方、逃走した方向、予測される逃走経路、近隣の地形、水場、そんなところです。正確じゃ無きゃダメですヨ?」

 アールの言葉を聞いてロスタムの顔が変わってきた。

 自分の記憶を掘り起こして、色々な事を猛烈に考え始めたようだ。眼に火がともった。


「アールさん、ありがとうございます」

「どういたしまして、あと、村までの道案内もロスタム君の仕事ですからね?」

「はい!」

 ロスタム君はこれでしばらく大丈夫だ。一人で集中させてやった方がいい。

 ファルダードさんの方も大丈夫だろうし、小隊長さん達も大丈夫だ。

 やっぱり相棒が一番心配だ、とアールは思った。

 

 アールが相棒の近くに行くと、相棒は指の根元で少し乱暴にタバコを吸っていた。

 相棒が緊張し、葛藤している時の癖だ。

「相棒?怖いですね」

「うん、怖い」

 相棒が怖いのは一つじゃ無い。いくつも怖いんだとアールにはわかっている。

 自分やアールが死んでしまうのが怖い、兵士たちが死んでしまうのが怖い、捕まった女性らを助けられないのが怖い、それで期待にこたえられないのが怖い、ロスタムや兵士たちから責められ失望されるのが怖い。

 戦っても怖いし、戦えなくても怖い。全部怖い。

 

 相棒は強くは無い。

 悪い人になれるほど恥知らずでも無く、すべてを開き直れるほど単純でも無い。

 自分で道をゴリゴリ切り開いていけるほど傲慢もないし、何でも受け入れられるほど寛容でも無い。 

 プライドが高いし、恥ずかしがり屋だ。お人好しだ。

 何でも出来るけど、なんにも極められない人だ。

 そして、傷つきやすい人だ。とても痛がりだと思う。

 彼は傷ついた事を決して忘れられない。

 傷は彼の中でずっと血を流している。

 たぶん、一度傷ついたものを乗り越える事は、彼には出来ない。

 そう言う人だ。 


 でも、それでもいいと思う。

 それがアールの相棒なら、そんな相棒で良いとアールは思う。

 だからアールがいるのだ。


「相棒、どうやっても怖いです。どっちでも怖いから、精々やるだけやりましょうヨ」

「精々やるだけやるか」

「はい相棒。ボクは相棒を知っていますから」

「うん」

「だから大丈夫なんです」

「うん」

「だってボクがいますから」

「うん」

 くすり、と相棒はアールを見て笑ってくれた。

 あ、これならもう大丈夫だ、とアールは思った。

 もう、相棒はわかっている。

 大丈夫だ。


「ぐ軍曹殿!出発します!」

「よし!」

「ちゅ、中隊出発!!」


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君が僕を知ってる チャボのイントロ最高だよな。
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