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異世界ツーリング  作者: おにぎり
外伝~歩兵中隊
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歩兵中隊 7

歩兵中隊 7


 黒馬族との戦闘から三週間。


「恭順の誓紙と贈り物は受け取った。ではシャルカス殿、および一族の方々、今後の黒馬族のかじ取りを宜しくお願いする」

「は、ダリウス執政官様。お誓い申しあげます」

 黒馬族族長のザヒルとその弟サハールの一派は、暴力により完全に撃滅された。今後はシャルカスという、より穏健で冷静な男が一族を率いて行く事になる。ジャハーンギール執政官たるホライヤーン家の一門として、だ。

 これにより、北東部でのジャハーンギールの影響力は飛躍的に高まった。陸路での交易の安全性も、同じく飛躍的に高まる事だろう。万万歳である。

 新族長のシャルカスから送られた金品は、その多くが兵を出した白山羊族にわたる事となる。兵を借りた対価だ。黒馬族はこれを揃えるためにかなりの無理をしているが、それは仕方のない事だ。略奪で根こそぎされるよりは、マシだろう。ジャハーンギールと白山羊族としても、直接の収奪で恨みを買うよりは、遥かに良い。


 それはともかくとして…



「夫殿、また一層不細工になってしまったのう…」

 憎々しげな妻パルヴァーネフの呟きに、ファルダードの頬が引きつった。一気に夕食が不味くなる。

 給仕をしている使用人達は、スッと目を細めて下を向いた。彼らに対しても後でフォローせねばならない。面倒な事である。


 彼女は右耳の無くなったファルダードの顔を見るたびに、心底嫌そうに毒づくのだ。ファルダードにだって、心のやわらかい部分が無いわけではないのだ。男女の機微などには疎くとも、木石では無いのである。正直、悲しい。

 ファルダードは二股のフォークを置いて、どうにもこらえ切れないため息をついた。彼自身は見た目など全く気にしていないのだが、夕食の席で妻から毎回のように言われると、さすがに辛い。だが、一向に怒りは浮かんでこないのだ。良い事なのか悪い事なのか…悲しい。

 見た目は可愛らしい10歳の少女、中身は鬼。白山羊族のクーシャー族長は遊牧民にしては清廉で穏やかな人物なのに、その胤からなぜこんな鬼姫が生まれて来てしまったのか…神に訊いても、もちろん答えなど降っては来ぬ。…悲しい。


「ぱぱパルヴァーネフ。みみ見目はともかく、ち聴力が減退したのには、な難儀しているのだから…も、もう言わないでほしい」

 そうなのだ、右耳の聴力が半分以下になってしまったのである。治る気配は全くない。これにはさすがのファルダードもがっかりであった。索敵や先頭指揮に多少なりとも支障が出るからだ。

「こ、これは、め名誉の負傷なのだよ。わ私は、ぐ軍人なのだから」

「フン。知らぬわ。不細工なカタワのドモリの妻など…ウンザリじゃ。…こんなのは嫌じゃ!」


 悲しい。



^^^

 時は夜。

 酔っ払いの親父が、遠吠えを上げている野良犬を蹴っ飛ばしている。

 テーブルの明かりは月光と、小さく灯した油の炎だけ。屋台の親父が常連の連中と猥談で盛り上がっている。


 ファルダードと中隊の士官たちは、そんな場末の屋台で硬い羊肉の串焼きを食いちぎりながら、悪酔いしそうな安い蒸留酒を飲んでいた。十日に一度ほど、彼らはこうして酒を飲みながら、あーだーこーだと話をするのだ。古き良き、飲み二ケーションである。

 

「――というわけで、つつ妻がこの耳を怖がるのだ…」

 困った時の中隊幹部というわけで、ファルダードは仲間達に相談という名目の愚痴を、垂れ流すだけ垂れ流していた。

「おおお前達、どどどうすればいいと思う?」

 酒も進めば気も緩む。本当は部下にすべき相談では無いのかもしれないが、ファルダードにとって彼らは気の置けない唯一の仲間なのだ。

「夫婦喧嘩は羊も食わぬと言いますが……そう言うのでもなさそうですな」

「そうなのだ。ささサブロウ。おお俺達は普通の夫婦では無いしな」

 夫はジャハーンギール執政官の息子で、妻は白山羊族族長の娘。そして歳の差十五歳のおままごとの様なカップルである。当然ながら、双方のあいだに恋愛感情も性的欲求も皆無だ。


「奥さんは寂しいんじゃないですかね?友人でも紹介したらどうですか?」

「それはそうなのだ…だが、じじジロウ…あアレを外に出せると思うか?」

「あー…」

 出せぬ。言葉を選ぶと言う事を知らぬ娘である。外で何をいうかわからないのだ。友人とは言え他人には変わりない。あること無い事言われ、恥をかくのがパルヴァーネフやファルダードだけならまだ良い。が、実際には舅のダリウス執政官や白山羊族の族長の恥にもなってしまうのだ。ファルダード夫婦は、もはや『個人』ではないのである。

 おかげでパルヴァーネフが外に出るのは家宰の厳重な監視下においてのみである。彼女だって息がつまるだろうが仕方がないのだ。ファルダードの母が生きていればまた別なのだろうが…

「……オニギリ、ニタマゴ、キムタク、お前ら…なんかないか」

 処置なし、とばかりにサブロウが同僚に玉を投げた。


「新兵訓練にぶち込み…いや、なんでもないです…」

 茶化しかけたオニギリは、ジロリと睨むファルダードの目を見て、途中で言葉を濁した。誤魔化すように頭を掻いて、ツクツクと串焼きの木串をテーブルの割れ目に挿す。オニギリは機転が効いて何でもこなせるくらい要領も良いが、対人関係で微妙に気が弱い時がある。


「畏怖を抱かせれば、女なんぞ自由自在ですよ」

 とニタマゴ。その言葉に、ファルダードすら畏怖しそうになってしまった。恐ろしい事に、この男は本気で言っているのである。こんなのだから新兵が多い第五小隊長から外したのだ。まあ、ある意味で軍人が天職なのは間違いない。


「女の子はこちらが黙っていれば、何でもしてくれますからねぇ…」

 キムタクめ……こんな顔の良い男などは滅べばいいのではなかろうか。双樹帝国の火薬を抱かせてモングに特攻、爆発四散させるなら、間違いなくこの男一択である。慈悲は無い。是非もない。


 ファルダードはフンッと乱暴にカッチコチの串焼きにかじりついた。彼は結構本気で困っているのである。

 少し前まで卑屈なドモリのボンボンでしか無かったファルダードには、女の扱いなど全くわからぬ。恥ずかしながら、女とつき合った事もないのだ。ずっと昔に娼館で二三度遊んだ経験があるだけである。それだって、女の愛想笑いがドモリを嘲ってる気がして、すぐにやめてしまった。

 ましてや妻のような若い娘を扱うなど……


「じじジロウ。妻子持ちとして何か、じょじょ助言は無いかな…」

「ふむ…そうですね…」


 ジロウは安い酒の盃を片手に、足を組んで考え込んだ。

 中隊長の奥さんは10歳。10歳にもなれば若いとは言え、もはや子供では無い。常識から考えて、もっと分別があってしかるべきだとジロウは思う。

 問題は中隊長の奥さんが、中隊長の事を舐め腐っている事だ。人間は、自分の周囲5ヤルだけ…友人と井戸端会議だけのせまっ苦しい土俵でしか物事の是非を判断しないのだ。そこで判断できないものは否定される事が多い。そんなもんである。女は特にその傾向が強い。

 家庭内の中隊長…確かに優しいだけの、ドモリで気の弱いボンボンにしか見えないだろう。ならば…


「……中隊長、一度我々の訓練を市民達に見せるのはどうですか? 訓練展示って奴ですよ。俺も妻や子供達に見せてやりたいですし、俺の妻子と奥さんを…一緒にどうです?」

「……じジロウ、それは良いかもしれないな」


 そういう事になった。

 飲み代はファルダードのおごりだ。



^^^

 さて、そうと決まれば即断即決即行動、兵は拙速を尊ぶ、あっという間に七日後と日取りが決められて、訓練展示がなされることになったのである。


 実の所、訓練展示と銘打ってはいるが、実際の訓練内容を見せるわけではない。草のくっつけ方や、穴掘りや、障害物の越え方や、追跡の仕方など、そんな事を説明しても面白くもないのだ。地味なのだ。中隊としては戦術を公開する事も、出来るだけしたく無い。

 ゆえに、すぐ近くの丘に遊びに行って、あらかじめ天幕を張って用意した中隊特製の昼飯を食い、見栄えのする槍と剣と弓のちょっとした訓練をやって、帰ってくる計画となった。ありていに言うと、たのしい遠足である。らんらんるー、なのである。


 そして当日。


 パルヴァーネフは、まだ動いている自操車の幌を跳ね上げ、勢いよく飛び降りた。

「奥さま! 危のうございます!」

「ええい! 一々うるさいのじゃ!」

 御者をしている使用人に怒鳴り返すと、周りを見回した。城壁外の草原だ。夫と、彼の指揮する中隊兵士と、その家族や友人達が集まっているのが眼に入る。雑多な市民たちだ。市民の人数は汚らしい緑のまだら服を着た兵たちより、若干多いくらいだった。

 騎馬兵の姿も見える。自分も馬に乗りたいと、彼女は思った。


「フンッ! 下らぬ!」

 彼女は一言だけ大きめの声でつぶやくと、胸を張って大股のつもりで歩きだした。コンパスが短いので、実際にはちょこちょこ忙しく足が動いている。

「フム…」

 生えている丈の低い草が、サンダル履きの素足をやわらかに撫でる。瑞々しく冷たい草の感触。本当に久しぶりの感触だ。まあ、気持ちがよくなくもない。空は珍しくほんの少しだけ濁っている。もしかしたら、軽くひと雨来るのかもしれない。そうであれば嬉しい。雨は良いものだ。


「はぁはぁ…奥さま、旦那様はあちらでございます」

 御者の使用人が、自操車を停めて彼女の元に急ぎ駆け寄ってきた。

「うるさい! わかっておる!」

 不細工なドモリのダメ夫の居場所など、初めからお見通しである。だが、こちらから近づくのは癪なのだ! 放っておけば向こうから来る……ほら来た。


「やあ、ぱパルヴァーネフ、よく来たね。き今日は、じじジロウの家族と共に楽しんで欲しい」

 むすっと黙りこんでいる妻に、夫は朗らかに笑いかけた。

「フンッ! …ジロウとは何じゃ?」

「わわ私の部下の士官だよ。な何度も話したし、い以前にも紹介しただろう?」

「知らぬ」

 ファルダードは苦笑だけで何も言わず、手を振って近くで談笑していたジロウとその家族を呼んだ。ジロウは両脇に子供ぶら下げて、すぐに来た。後ろには子猫のような背の小さなつり目の妻を連れている。


「中隊長」

「おう、じジロウ。お奥さん、これが妻のパルヴァーネフだ。き今日は、よ宜しく頼む」

「ジロウの妻のマーニーです。宜しくねパルヴァーネフさん。こっちの男の子がザヒールで、女の子がパリーサよ」

「おれザヒール!」「あちゅぱーさ!」

「パルヴァーネフじゃ」

 パルヴァーネフはジロウの脇に抱えられたままの子供の頭を、グリグリとこねまわしてやった。子供達はキャーキャー騒ぎながら身をよじっている。……可愛い。


 ファルダードはジロウと何やら話しあうと、大きく声をはり上げた。

「みみ皆さん! ほほ本日はお集まりいただき、あありがとうございます。ほ本日は我が、ち中隊が普段どのような訓練をしているか、そその一端をご家族や友人の、みみ皆様にご覧いただこうと思いまして、ここのような、くく訓練展示を催した次第です。

 み皆様方におかれては、このく訓練展示を楽しみつつ、わわ我が中隊と、へへ兵士達へのご理解が深まれば幸いと…そそそのように思っております。ばば場所は2サングばかり離れた丘です。

 では…ち中隊、出発!!」

 ファルダードは一拍置いて、兵士達に号令した。

 挨拶としてはごく普通だが、どもっていて恥ずかしい…これがわが夫とは……。パルヴァーネフの顔が赤く染まった。情けなくて悲しくて、眼がうるんだ。彼女は誰にも見られないように、そっと顔を伏せて歯を食いしばった。


「ジロウ行くぞ。…じゃ、じゃあパルヴァーネフ、後で。お奥さん、宜しくお願いします」

 ファルダードはジロウの妻のマーニーに軽く挨拶すると、集団の先頭に立つべく駆けだしていった。士官たちは、集団を仕切らねばならないのだ。

 家族や友人の元に散っていた兵士達も、ファルダードの号令に従って、それぞれのグループを促しながらダラダラと丘に向かい始める。


「パルヴァーネフさん、行きましょう?」

「…うむ」

 夫たちに置き去りにされたパルヴァーネフとジロウの家族も、のんびりと歩き始めた。


「バッタだーっ!」

「だーぅ!」

 ザヒールとパリーサの兄弟はきゃっきゃ言いながら転げ回っている。無邪気なものである。

「こらこら、まっすぐ歩きなさい」

 マーニーの言葉など子供達には届いちゃいない。

 子供たちの騒ぎ声をBGMに、パルヴァーネフは深く息を吸い込んだ。ほんのり湿った柔らかな風、土と草の匂い、サンダルの下の柔らかい地面、白く沁みわたってくるような陽の光、自分より小さな子供の声……全てが久しぶりだった。馬に乗りたいと思った。


「パルヴァーネフさんは白山羊族なんでしょう?」

 パリーサを捕まえて背負いながらマーニーは話しかけた。ザヒールは片手で首根っこを掴まれてバタバタしている。

「そうじゃ。私は族長クーシャーの娘じゃ」

「街に住むのはどうですか?」

 どうもこうもない。

「息が詰まるのう…」

 ただそれだけだ。石の館などもうウンザリだ。馬に乗りたい。風を切って駆けまわりたい。部族に帰って、はとこのラフシャーンと結婚したい。

「中隊長さんは優しいでしょう?」

「ああ、確かに優しいのう…それだけじゃが。…単なるドモリの…いや…」

 情けなくなるので、その先は言うのをやめた。単なる優しいだけのカタワで不細工なドモリのバカ親父が自分の夫…悔しくて悔しくて…

「中隊長さんは立派な人ですよ。うちの宿六が言ってるんだから間違いないです」

「フンッ!」

 パルヴァーネフはザヒールの手をとって猛然と足を速めた。彼の手は小さくて暖かくて、少し湿っていた。


^^^

 見た目と名前は最低だが、食べてみれば意外と美味い。それがパルヴァーネフの感想である。

「パルヴァーネフさん…良く食べられますね……」

「意外と美味いぞよ? この『ゲロ』という食い物は」

 マーニーは信じられないものを見る目で見ているが、美味いものは美味いのである。中隊の兵士達も、曖昧な笑顔でゲロを食べる彼女を見ていた。彼女にはわけが分からない。食わず嫌いはよくないと思う。

「マーニー殿も食べ「結構です」る……そうか?」

 パルヴァーネフはゆっくりとゲロを味わいながら食べ終わると、すっかり満足した。これは後で自分で作ってみよう。


「あ、そろそろ始まるみたいです」

「ふむ…」

 訓練展示の目玉、模擬戦だ。兵士達は2個小隊ずつ二手に分かれて丘の対面に降り、互いに遭遇戦を戦うと言うシチュエーションである。第一第二小隊の指揮官はジロウ、第三第四小隊の指揮官はファルダードという分け方だ。互いの勢力の姿は、丘の陰に隠れて見えないようになっているが、丘の上の観客からは双方の動きが丸見えだった。パルヴァーネフは足が痛かったので、近くの岩に座ったまま観戦する事にした。

「おとーさーん!! がんばれー!!」

「おっちゅたー! がっがー!!」


――ドン、ドン!

 太鼓が鳴った。

 家族の熱い声援を背に受け、兵士達は動き出す。


 ジロウ隊はまず左右に3名ずつの斥候を出し、ごくゆるやかに左回りに動き始めた。一方ファルダード隊は槍兵と弓兵二個分隊を先行させつつ、迅速に右回りに動く。間逆の動きである。

 双方の斥候部隊は500を数えるうちに接触した。

「ウワァァ!」

 12人対3人だ相手にならぬ。鎧袖一触ジロウ隊の斥候は逃げる事も出来ずに一撃で制圧された。ファルダード隊の斥候は、死亡判定されて寝ているジロウ隊の斥候を引きずって丘の斜面に登り、岩陰に身を隠す。一人だけ報告の為に戻っていく。


 数百秒の後、次は本隊同士の接触である。双方共に隊列を組んで小走りで接近していく。事前に情報を集められたファルダード隊の方が、若干動きが良い。

「ウワァァァァ!!」

 ぶつかり合う寸前に吶喊を上げると、そのまま相手に突っ込んだ。木槍でボコボコと叩きあう。


「痛そうじゃな…」

「おとーさーん!!」「おっととたーぅ!」

「ザカリアス…」

 丘の上で見ている市民達は色を失って唖然としている。息子や兄弟達が、容赦なく槍でぶん殴り合っているのだ。訓練用のぶ厚い鎧を付けているとはいえ、痛いものは痛い。


 と、その時に伏していた二個分隊が動いた。

「かか各個に撃て!」

 ファルダードの命令を受けて、6人の射手から次々と矢が放たれる。数は少ないが意図せぬ上方からの射撃を受け、ジロウ隊は次々と討ちとられた。

「つ突っ込め!」

「隊列組み直せ!」

 下がってしぶとくもち直そうとしたジロウ隊に、伏していた残りの槍隊が突入した。横槍である。隊列はさんざんに突き崩され、穴が開いた。

「いいいけ!いけ!いけ!」

 隊列の穴にファルダード隊の兵士がなだれ込んでいく。


 これで、勝敗は決した。



「あーっ! お父さんまけちゃったー……うえぇぇぇぇぇ」

「おっとたーぅ…びぇぇぇぇぇぇ」

 兄妹は地面転がって大泣きに泣いた。父親が槍でぶん殴りあって負ける…ある種の心の傷になってもおかしくないであろう。

「ザヒール、パリーサ泣かないの! お父さんは大丈夫だから!」

「うえぇぇぇぇぇ」「びぇぇぇぇぇぇ」

「泣きやまないと今日の晩御飯はゲロだよ!」

「うぅ…」

 兄弟はぴたりと泣きやんだ。

 アレが美味いと思っているパルヴァーネフからしてみれば、どうにも釈然としないが…まあいい。


 そんな事よりも、


「私の夫殿はいくさが上手なようじゃな…話には聞いていたが…」

 そうなのである。見事な戦だった。不細工でドモリのバカである事は間違いないが、戦は上手なのだろう。

「中隊長さんは英雄になるかもしれない人だと、うちの亭主が言ってますよ」

「フンッ! あり得ん!」

 夫が英雄なら、はとこのラフシャーンなど神にだってなれるとパルヴァーネフは思う。 

 しかし、まあ…どんなバカにもひとつくらいは長所があると言う事か。ドモリのバカでもいくさが上手ければ、そんなに恥じる事もないのかもしれぬ。

 少なくとも、悪い気はしない。


「戻ってきましたよ。パルヴァーネフさん」

「フンッ!」

 ファルダードとジロウ、二人のいくさバカが朗らかに笑いながら、家族の元に戻ってきた。子供たちが泣きながらジロウに抱きつく。

「お前ら泣くんじゃねぇ! お父さんは大丈夫だから…これで終わりだから家に帰ろうな?」

 ジロウは子供達を両腕に抱いてクルクルと回った。


「夫殿よ」

「なな何かね?」

「帰りは馬に乗せてくれ。久しぶりに沢山歩いたので足がマメだらけじゃ」

「そそ、それはいかんな……すスネオ!」

 ファルダードは近くにいた支援騎馬隊の兵士を呼んで、馬を借りた。

「ひひ一人で乗るのか?」

「当たり前じゃ。私を誰だと思うておる」

「お、おてんば姫」

「フンッ!」

 パルヴァーネフは夫の手を借りて馬に乗った。久しぶりの馬だ。ああ…高くて気持ちが良い…

「ファルダード殿よ、今日の夕食はゲロじゃ!」

 彼女の言葉を聞いて、彼はこの世の終わりのような顔をした。何とも不細工だった。

「あははは! マーニー殿、ザヒール、パリーサ! 今度、遊びに来てたもれっ! ―ハッ」

 馬側を蹴って、軽く馬を急かした。丘陵をゆっくり斜めに駆け降りていく。

「あははは!」

 軽く湿った風と馬の匂い。

 最高だった。





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