レイラーの飛行機械 2
レイラーの飛行機械 2
ベフナームはレイラーの作った飛行機械の模型を手に取って眺めていた。すでに研究を始めて一年近く。形状は当初のものとは大きく変わっている。
それにしても…
「美しい…」
当初、レイラーはイセ君の紙飛行機と、鳥を元にして形を作っていた。だが、ある時からそれをやめてしまったのだ。当時レイラーはベフナームにこう言った。
『お父様、神の創った鳥を模すのは不可能です。だから、要素を分解しようと思うのですがね』
『どういうことかね?』
『浮力を司る部分を主翼とし、安定を司る安定板を十字にして…飛行機械の後方に配置するのはどうですかね?』
ベフナームは考えてみた。
良いように思える。『風力中心』と名付けた点が重心より後方に移動すれば、安定性は向上するはずだ。…すばらしい考え方だ。
『レイラー、良いね。それで操作はどうするのかね?』
『紐を伸ばして、後方の安定板を動かそうと思うのだがね…お父様はどう思うね?』
『ふぅむ』
ベフナームには、いま一つぱっとしないように思える。体から遠い安定板を、紐を使って動かすというのはエレガントでは無い気がする。しかし、それ以外の策も今は考えつかない。
『それ以外にはなさそうだね…しかし、上手く仕組みを考えないといけないね』
『そうだね』
『だが、どうやって思いついたのかね?』
『お父様、前にイセ君が言っていたのですよ。科学というのは物事を観察して、細分化するものだと』
『おお!!』
なるほど!ベフナームはレイラーの辿った思考経路をすぐさま理解した。彼女が最初に言ったように、飛行という事象の観察から得られた要素を分解して、飛行機械の要素に展開しているのだ。実に合理的な思考である。
『さすがだね!』
…そうして出来上がったのが、今、ベフナームの手の中にある、この飛行機械の縮小模型である。
楕円形の細く長い主翼、後方に細い木の棒で繋がれた安定板は、十字ではなく左右と上に突き出している。降着装置をつける関係上、そうならざるを得ないのだ。重心は主翼の前方、ベフナームとレイラーが名付けた風力中心は主翼と安定板の間に位置している。
合理である。
「私の娘ながら…素晴らしいね」
この飛行機械の模型は実際に、宙を滑るように良く飛ぶのである。イセ君の折った紙飛行機とは比べ物にならないくらいに良く飛ぶ。よくこんなものを考えつくものである。
ベフナームは思う。我が娘は神の与えたもうた天才であると。
間違いは無い。
ベフナームがレイラーに互しているのは集中力くらいのものである。記憶力、頭の切れ、そして何より発想力、これらは遠く及ぶ気がしない。
レイラーは自らのその天才性により、ずっと苦しんで来た。優れた頭脳を持つ事が、幸せの十分条件ではないのだ。
その責任は父であるベフナームにもあるのである。父親らしい事など、何もしていないのだ。彼女が生まれてから今までの間、ずっと二人で数学の命題を解き、学問について考えてきただけなのである。彼には、それ以外にやりようが無かったのだ。
「しかし…」
しかし、最近のレイラーは変わったと、ベフナームには感じられる。気負いが無いのである。いまのレイラーは、学者としての使命を自然な形で受け入れられているようだ。
原因は明らかである。イセ君とその仲間たちだ。
彼らと何があったかはベフナームにはわからないが、娘の変化にベフナームはとても満足していた。彼らはベフナームが娘に与えてやれなかったものを、もたらしてくれたのである。
それは学問では無い。知識でもない。それ以外の何かである。
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ベフナームは研究室の窓際に座って、タバコを吸い、つらつらと飛行機械の事を整理していた。
飛行機械の理論に関しては、イセ君から断片的に情報を集めた。「流体力学」という学術分野に相当するらしい。残念ながら、彼の得意分野では無いらしいが、彼から空気の粘性という概念を得られた事は極めて大きな進歩である。おそらく、粘性と作用反作用の原理により、浮力は理論化できると思われる。
べるぬぅいの定理、とかいう話も聞いたが、イセ君の理解も中途半端であることから、これの理論化には長い時間がかかるだろう。だが、レイラーなら決して不可能ではないとベフナームは考えている。いずれにしても、全てはにゅうとん力学の中にあるのだ。
いまは主翼の断面形状について検討している所だ。どうやら、まっすぐな板でない方が良いようなのである。
最初はまっすぐな板を、前方に向けて大きく迎え角をとる形で構想していたのだが、模型で試してみたところどうにも芳しくないのだ。速度を失いやすいのである。速度を失えば、飛行機械は浮力を失って落ちるしかない。大切なのは浮力だけではないのである。空気抗力を考えねばならないのだ。
それに、機体規模が大きくなると主翼の最適形状も変わるようだ。小型の時と同じ、直線型の主翼形状ではうまくいかないのである。どうやら空気の性質というのは、なかなかに難しいものであるようだ。
これを解決するために様々な主翼形状を試し、今では上面にやわらかな弧を描く主翼形状に変更している。これが、ここ半年の最大の成果である。
あけっぱなしのドアからキルスが入って来た。
「旦那様、お手紙でございます」
「おお、すまんね。ふむ、帝都のホラディー師からか」
受け取った手紙の封蝋を開き、文面を読み始めた。短い文だった。
「ああ…」
ベフナームは、一つ大きなため息をついて、丸っこい小さな体を椅子から立ち上がらせ、レイラーの部屋に向かった。
―コンコン
「レイラー、ちょっといいかね?」
「何かねお父様。いま、何かが浮かびそうなのだよ」
ベフナームはドアを開けて、娘の研究室に入った。彼女の部屋もベフナームの部屋と同じく、色んな本や鉱石や実験道具で雑然としている。壁には飛行機械の模型が並べられた棚が作られている。
レイラーは腕を組みながら、窓の外を見ていた。いつものように思索を巡らせているのである。
「レイラー、すまんが思索は後にしてくれないかね。話があるのだよ」
「お父様、何か良い案でも浮かんだのですかね?」
「いや、そうじゃなくてね…ホラディー師が亡くなられたそうだよ」
「え…」
レイラーはきょとんとした顔をした。珍しい顔である。
ベフナームはレイラーに、帝都からの手紙を渡した。反射的に受け取った彼女は、これまた反射的に目を通し、その場にしゃがんで顔を覆った。
「神よ…」
ベフナームにはレイラーの気持ちがよくわかる。
親愛なるホラディー師は、土に還った。神の元へと還ったのである。
彼女にとってホラディー師は、師であると共に、尊敬する学者であり、祖父であり、また歳の離れた友人でもあった。レイラーには、親しい人が少ないのだ。親しい人の死にも直面した事がない。ベフナームも彼女の姿を見ると、胸が抉られるように痛い。
「レイラー…」
「お父様…イセ君の所に出かけてくるね…新しく考える命題が必要だからね…」
「ああ、行ってきたまえ」
落ち込んだ時は、一生懸命に考える事が必要なのだ。考えさえしていれば、新しい命題が解ける。そうすれば、いずれ心の隙間が埋まる。
それが彼らのやり方である。
レイラーはトボトボと歩いて家を出て行った。いつも堂々としてピンと張っている後姿が、今は悄然として小さくなってしまっている。ベフナームはいたたまれなかった。可哀想に…。
「キルス、レイラーのすぐ後をついて行ってくれないかね」
「かしこまりました…それと、後ほど木工職人のボルズーが参ります」
「そうかね。わかった」
ベフナームは気持ちを切り替える事にした。
すでにホラディー師は神のもとに還ってしまったのだ。ならば、ベフナームは出来る事をするしかないのである。彼に出来る事は考える事、そして弟子や世間に伝える事、それだけである。それしか出来ないのだ。ならば、それをするだけである。
それが、彼のやり方である。
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窓から差し込んでくる赤く染まった西日を使って、ベフナームは文章を書いていた。使うのはイセ君の作った紙とガラスペンである。彼はいま新しい本を執筆しているのだ。これまたイセ君の知識が元になった、異学派の医学の本である。
「…あー…つまり血漿とは血液中の赤血球、白血球などを運搬する……」
―ドバンッ!「ベフナーム先生!」
「ひあっ?!…驚いたじゃないかねボルズー君!」
ぶち破られんばかりの勢いでぶち開いた扉に驚き、ベフナームはインク壺を膝に取り落とした。股間から下は墨だらけである。
「出来やした!服がインクだらけですね!」
「まあ、そんな事はどうでもいいのだよ。できたかね?!」
ベフナームにとって服など、実にどうでもいいのである。汚れていても着られる。機能は果たすのである。後でキルスにたっぷり怒られるだけの事なのだ。なんてことは無い。
そんな事より大事なのは、この声と態度のでかい熊のような体をした四十がらみの木工職人が作って来た、新しい飛行機械の模型なのだ!今回の模型は実物の1/5サイズを目指して作っているのである!
「これです!」
ボルズーは自操車から、ベフナームの身長を遥かに超える、大きな飛行機械を引っ張り出して来た。迫力とはこの事である。実に格好良い。
主翼と安定板は木製の骨格に羊皮紙を張り付けて作られ、胴体部分は木の棒を組み合わせて作ってある。ボルズーの太い指から生まれる細工とは思えないほどに繊細である。
「おお!すごいね…それで、どうかね?」
「はい、ダメです!飛びますが少し重すぎます!しかも弱い!素材も難しいですね!」
「やはりそうかね…」
構造的に予想された事ではある。重量は部材体積に依存するから、大きさに対して3乗近くで効いてくるのに対して、翼面積は二乗にしかならない。そして、片持ちの翼のスパンが長くなれば長くなるほど、構造的には弱くなる。自明なのだ。
「イセ君の言った通り、材料力学は現実との整合性が極めて高いねぇ…」
ウーム、と言って、ベフナームは黙り込んで考え始めてしまった。あちら側に行ってしまったのだ。こうなると、戻ってくるまでが、長い。
ボルズーという木工職人は、その間に勝手に台所に行って、勝手に茶を作って飲み始めた。すでに一年近くこの家に出入りして飛行機械を作って来た彼である。モラディヤーン家のしきたりにはもう慣れきっている。
つまり、しきたりなど殆んど存在しない、という事である。
ベフナーム先生がこちら側に戻ってくるまでの間、ボルズーは長椅子に寝ころんで待つ事にした。籠につんであった柘榴を剥いて、むしゃむしゃ食った。遠慮など毛頭ない。最高の仕事を提供すれば、代金の他にも約得が貰えて当然、と彼は思っているのだ。実に幸せな男である。
「はっ?!…これだね…これだ!」
夕日が沈んでだいぶたったころ、ベフナームはようやく思考の彼岸から帰って来た。キルスはいつの間にか家に戻ってきており、通いの婆さんが作った料理の配膳をしている。ボルズーは長椅子でだらしなく寝ているが、ベフナームの目にそんなものは入っていない。
「キルス、レイラーはどうしたのかね?」
「そのインクだらけの服を脱いで、これに着替えてください。お嬢様はシューイチロー家にまだいると思いますが…あ、帰ってこられました」
たしかに門の外から自操車の音が、かすかに聞こえるような気がする。良くわかるものである。
「ビジャン君、水を飲んで行きたまえ。お父様!ただ今戻りました。解剖をする事になったのですよ!」
帰宅第一声がコレである。我が娘ながら、ベフナームにも彼女が何を言っているのか全く不明である。ただ、落ち込んでいたのは治ったようなので、何かよい啓示を受け取ったのであろうと彼は推測した。いまはそれで良いのだ。
「……お邪魔します…」
「やあビジャン君、久しぶりだね。食事をしていくと良い…と、そんな事よりレイラー、これを見たまえ!」
「おお!!」
ベフナームはレイラーに模型を見せた。一瞬でレイラーの目がきらきらと輝いた。憧れの先輩を目にした、純真な15歳の少女のような目であった。
トトトッ、と小走りで近寄ると、床に膝をついて模型を舐めるように観察し始めた。様々に各部を触ってたしかめてみる。そのうちに、だんだんとレイラーの顔が曇り始めた。彼女にもわかったのだ。
一方、ベフナームにそんな事扱いされたビジャンは、そんな事も意に介さずに、さっさと頷いて食卓につき、パンを食べながらそれを眺めている。
「レイラー、これはまだダメなのだよ」
「主翼の強度が問題だね。後は素材だね…」
やっぱりだね…と呟いて、彼女は悄然と考え込んだ。ベフナームのさっきの状態である。…しかし、ベフナームはニヤリと笑った。今の彼には、つい先ほど思索の海から拾って来た画期的な案があるのだ!
「レイラー、主翼を二枚にして繋げればいいのだよ!」
「え?」
「”とらす構造”だ!」
父親の言葉をうけて、レイラーの脳は高速で回転を始めた…上下に主翼を二枚にして、その間をつなげば…断面積を稼げる。厚さの三乗に断面二次モーメントは比例するのだ。トラス構造で三角形の連続にすれば剛性が出せる…そうか!
「…お父様…あなたは天才だ!」
翼を二枚にするなど、レイラーは思いつかなかった。まさしく画期的な発想である。イセ君の紙飛行機も空を飛ぶ鳥も、翼は一枚なのだ。そこに囚われない発想。まさに天才の考えた合理としか言えない。
レイラーは己の父親の偉大さに身が震えた。この人はまさに知の巨人だ…未だ自分は遠く及ばぬ…
「レイラー、どうかねこの案は?」
「素晴らしいよお父様!絶対に成功するね!お父様は凄いね!」
ベフナームは丸っこい顔を紅潮させてニコニコ笑った。世の中のお父さんは、娘に褒められるのが一番嬉しいモノなのである。もちろん彼だって例外ではない。親父なんてモノは、そんなチョロく切ない存在なのである。
「お父様、上下の翼は…たぶん前後に少しずらした方が良いかもしれないね。翼によって空気の流れが乱れるからね」
「おお!すばらしい…良く思いついたね!その際に……」
「―おお!でも……」
そんな感じで親子の打ち合わせは続いて行く。
ビジャンはいつも通り黙々と飯を喰っている。
ボルズーはいびきをかきながら長椅子で寝ている。
キルスは静かに給仕をしている。
空には半月が上がっている。
緩やかな風が窓から吹き込んで、明かりの炎を小さく揺らした。
「お父様、問題は素材だね」
「そうだね、レイラー。軽くて頑丈な木が無いものかねぇ」
「…アール君が魔法で作るマグネシウム合金が使えると良いんだけど…秘密だからね」
木工職人のボルズーと相談して軽量な木と構造を考えているが、それにも限界がある。人を乗せる事を目的としているのだから、絶対に強度は必要なのだ。飛んでいる時にバラバラになってしまったら、乗っている人間は、死ぬ。
二人は腕を組んでうなり始めた。これは思索の海に漕ぎ出して行ってしまいそうな、危険な兆候である。
「旦那様、お嬢様、頭を働かせるためには栄養が必要でございます。先にお食事を…」
「おお!そうだね」
「いい助言をありがとうね、キルス」
ナイスである!キルスの言葉に、親子はいそいそと食卓に着いて食べ始めた。素晴らしい親子コントロールである。やはり、この家はキルスが動かしているのであろう。彼がいなければ、親子は二日も生存する事は出来ぬ。
「ところでビジャン君。…この事はイセ君には秘密にしてくれないかね。迷惑をかけたくないのだよ」
「わかった。誓おう」
実に話が早い。ビジャンが本気で黙ったならば、破城鎚を持ってしてもその口を割らせる事は出来ない。これで一安心なのだ。
「ありがとう、ビジャン君!この飛行機械は凄い可能性を持っているのだよ!人は空を飛べるのだよ!これが大きく出来れば、誰もが空を飛べるようになる!素晴らしいと思わないかね?!未だ問題は多々あるが、それは試行錯誤が解決してくれるだろう!我々はできるのだよ!」
レイラーは滔々と飛行機械への情熱を語った。ボルズー以外に、外部には秘密にしていたので、話せるのが嬉しかったのだ。その横でベフナームはほほえましげに娘を見ている。
「傘だ」
「ん?ビジャン君、何かね?」
何かをつぶやいたビジャンに、レイラーが問いかけた。
「竹を使えば良い」
ビジャンがレイラーの目を見て、明瞭に答えた。
刹那、時が止まった。
食卓にボルズーのいびきだけが静かに流れた。
レイラーは瞳孔の開いた目で、まじまじとビジャンを見つめた。
ベフナームはスープを膝にこぼし、新しく着替えた服にシミを作った。
それを見たキルスが、小さくため息をついた。
「「竹だ!!」」
「んんあっ?!…なんすか、あー良く寝た!…あ、レイラー先生、どうも!」
レイラーとベフナームの絶叫でボルズーが目を覚ますが、誰もそんな事には頓着しない。完全に無視である。ボルズーは無視されているのを良い事に、勝手に座って食べ始めた。二枚のパン羊の肉と野菜を乗せてバクバクとかじっている。この男の心の鈍さは異常である。
だが、そんな事は誰も気にしていない。
「ビジャン君!竹が手に入るのかね!?」
「……たぶん。ベフナーム先生…アミル商会で…」
親子の顔がパァァと明るく輝いた。この行き詰まりを打破してくれたビジャンは、二人にとってまさに神の御使いである。ごつく、無愛想な天使なのであった。
「ビジャン君!ありがとう!今日イセ君の家に行って良かったよ!解剖の事といい、竹の事といい…すばらしいね!」
「この程度、何でもない」
そうはいいつつも、ビジャンはまんざらでもなさそうである。レイラーは椅子から立ち上がって、小さくぴょんぴょん跳ねているのだ。いい大人の女がそれほど喜ぶ理由がビジャンには全くわからぬ。だが、喜んでいるのだからいいのではなかろうか、とも思わなくもない。
「キルス、酒を持って来てくれたまえ」
「かしこまりました」
ベフナームの指示でキルスが厨房からすぐにワインを持って来た。モラディヤーン家で二番目に良いワインである。彼は主人の喜びようを見て、酒のグレードを調整しているのだ。この男、できる。
ベフナームは椅子から立ち上がった。頭の高さはそれほど変わらない。
彼は盃を大きく掲げた。
「それでは、新たなる着想と、飛行機械の発展と、……神の元に還られたホラディー師の功績に」
彼の言葉をうけ、皆が盃を静かに掲げ、一気に飲み干した。
これは、献杯なのだ。このワインの一滴一滴は神の血である。つまり、神のもとに還られたホラディー師も、神と一緒に、ここに溶けているのだ。
「ところでレイラー、解剖とは何の事かね?」
よくぞ聞いてくれた、との思いであろう。レイラーは破顔して、ベフナームの問いに満足そうに頷いた。
「お父様、イセ君との話でね、動物を切って体の構造を調べる事にしたのです。動物も人間も、体の基本構造は同じなのだね!」
「……おお!!すばらしい!」
「まだ詳しくは決めていないんだがね。内臓の構成と循環器系を良く見たいね!」
まったくもって食事時に話すべき話題では無い。しかし、親子にとっては純粋な学問でしかないのである。単に知的な会話を楽しみながら食事しているに過ぎない。
ついでに言えば、ビジャンには戦闘士として強力無比なグロ耐性が身についている。木工職人のボルズーには、話の内容など全くわからないし、仮にわかっても鈍いハートゆえに気にしない。ある意味、鉄壁のメンバーなのであった。
「循環器系と言えば静脈に弁があると……」
「旦那様、お嬢様。お待ちください」
ワイワイと話すモラディヤーン親子に、キルスから冬の鋼の如き冷徹な声を投げかけられた。親子の会話がパタリと止まる。キルスと数十年共にいる親子にはわかっているのだ。この声を出したキルスは、危険だ…。
「この家での解剖はご容赦を」
キルスの目は、冷えている。凍りつかんばかりである。モラディヤーン親子は慄いた。本気で怒ったキルスは怖いのだ。しかし…ここは学問の為に頑張らねばならぬ!負けられぬ!
「キルス、学問の発展のために…」
「キルス…ホラディー師の…」
「ご容赦を」
「「はい」」
このように、学問の追求とは、とかく厳しいものなのである。




