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Fの軌跡  作者: ひこうき
Fの再会 編
49/60

断片

ようやく第2章です。

 駆ける。

 息を切らして、塵一つない通路を必死に駆け抜ける。

 背丈より大分小さいカプセルを握りしめ、俺は死ぬ物狂いで走っていた。

 

 そういえば。

 昔もこんなことがあった。

 パン屋さんから、背丈に迫る大きさのバケットを盗んで。

 薄汚い裏路地を、必死に逃げ回っていた。

 けど、昔は今と違っていた。


 一人っきりの今とは違って、隣には少女がいた。


 その少女は弱虫で。俺が手を引いてあげなければ、すぐに泣き出すような泣き虫で。

 俺はその子のことが好きだった。大事だった。

 でも、その少女と俺は別れた。


 その少女の名前は、何だったのだろう。


「恭司――――」

 

 俺の名を呼ぶ、その落ち着き払った声に、無理やり思考が切り替わる。

 迫る。後ろから、追手が迫ってくる。

 ソイツは俺を見据えて、狙いを定めてくる。

 揺るぎ無い瞳は狩人のそれ。躊躇いは微塵も無い。俺をただ捉えるために、冷徹に凶器をかざしてくる。

 だから、だからこそ、俺も躊躇いを捨てる覚悟を持った。

 

 本気でやらなければ、俺がやられる。


 最後の一つになった『橙』のモールドを腕に突き刺し、その場で翻る。

 そして迫った追手に向かって、俺は叫んだ。


「お前がその気なら、俺も全力でやるからな――――哲平ェエエエッッ!!!」

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