断片
ようやく第2章です。
駆ける。
息を切らして、塵一つない通路を必死に駆け抜ける。
背丈より大分小さいカプセルを握りしめ、俺は死ぬ物狂いで走っていた。
そういえば。
昔もこんなことがあった。
パン屋さんから、背丈に迫る大きさのバケットを盗んで。
薄汚い裏路地を、必死に逃げ回っていた。
けど、昔は今と違っていた。
一人っきりの今とは違って、隣には少女がいた。
その少女は弱虫で。俺が手を引いてあげなければ、すぐに泣き出すような泣き虫で。
俺はその子のことが好きだった。大事だった。
でも、その少女と俺は別れた。
その少女の名前は、何だったのだろう。
「恭司――――」
俺の名を呼ぶ、その落ち着き払った声に、無理やり思考が切り替わる。
迫る。後ろから、追手が迫ってくる。
ソイツは俺を見据えて、狙いを定めてくる。
揺るぎ無い瞳は狩人のそれ。躊躇いは微塵も無い。俺をただ捉えるために、冷徹に凶器をかざしてくる。
だから、だからこそ、俺も躊躇いを捨てる覚悟を持った。
本気でやらなければ、俺がやられる。
最後の一つになった『橙』のモールドを腕に突き刺し、その場で翻る。
そして迫った追手に向かって、俺は叫んだ。
「お前がその気なら、俺も全力でやるからな――――哲平ェエエエッッ!!!」




